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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年3月14日11時25分 紀伊水道 2 船舶の要目 船種船名 貨物船縁隆丸
漁船大幸丸 総トン数 5,199トン 1.5トン 全長 115.02メートル 9.50メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
4,471キロワット 漁船法馬力数 40 3 事実の経過 緑隆丸は、専ら鋼材輸送に従事する中央船橋型貨物船で、船長C及びA受審人ほか8人が乗り組み、空倉のまま、船首3.30メートル船尾4.43メートルの喫水をもって、平成9年3月13日16時30分千葉県千葉港を発し、広島県福山港に向かった。 A受審人は、発航後、3直4時間交替制の船橋当直に当たっていたもので、翌14日08時00分潮岬東南東方10海里付近において、前直者から引継ぎを受けて同当直に就き、甲板手Dを見張りに当てて紀伊半島沿いに西行し、10時45分紀伊日ノ御埼灯台(以下「日ノ御埼灯台」という。)から151度(真方位、以下同じ。)9.8海里の地点に達したとき、針路を鳴門海峡に向く320度に定め、引き続き機関を全速力前進にかけ、16.4ノットの対地速力で紀伊水道を自動操舵により進行した。 11時20分A受審人は、日ノ御埼灯台から228度1.9海里の地点に至り、左舷船首28度1.1海里のところに、前路を右方に横切る態勢の大幸丸を初めて視認し、直ちに自ら操舵を手動に切り替え、操舵室前部中央の舵輪のすぐ後ろに立って同船を監視していたところ、その方位にほとんど変化がなく互いに接近していたことから、衝突のおそれがあることを知った。しかし、同人は、避航船である大幸丸がそのうちに自船の進路を避けるものと思い、避航動作をとらないまま接近する同船に対して警告信号を行わず、更に間近に接近するのを認めたが、機関を後進にかけるなど衝突を避けるための協力動作をとることなく続航した。 そして、A受審人は、11時25分わずか前左舷船首至近に迫った大幸丸が船首死角に入ったのを認め、衝突の危険を感じ、右舵一杯をとったが効なく、11時25分日ノ御埼灯台から265度2.3海里の地点において、緑隆丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首が大幸丸の右舷船首に後方から55度の角度で衝突した。 当時、天候は曇で風力2の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。 C船長は、自室において書類整理に当たっていたとき、D甲板手から衝突した旨の報告を受けて昇橋し、事後の措置に当たった。 また、大幸丸は、船体中央部に操舵室を設けた一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人1人が乗り組み、えそ釣り漁の目的で、船首0.30メートル船尾0.60メートルの喫水をもって、同月14日07時00分和歌山県田杭漁港を発し、日ノ御埼西方2海里付近の漁場に向かった。 B受審人は、07時30分目的の漁場に至り、重さ2キログラムの重りを付けた釣り糸を海底に下ろして漁を開始し、やがてえそ10キログラムを釣り上げたが、まだ漁獲量が十分でなかったので、日ノ御埼北西方2.5海里付近の漁場へ移動することとした。 そこで、B受審人は、11時20分少し前、後部右舷側甲板上において漁具の揚収を終えると、周囲を見渡さずに直ちに操舵室に入り、船首が日ノ御埼に向いていたことから左舵をとるとともに、機関を全速力前進にかけて発進し、同時20分日ノ御埼灯台から251度2.6海里の地点で、針路を015度に定め、8.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。 定針したときB受審人は、右舷正横後7度1.1海里のところに、前路を左方に横切る態勢の緑隆丸を視認することができる状況で、その後その方位にほとんど変化がなく互いに接近し、衝突のおそれがあったが、右舷側から接近する他船はいないと思い、船首方を注視していて右舷正横付近の見張りを十分に行わなかったので、緑隆丸の存在に気付かず、速やかに同船の進路を避けることなく北上を続けた。 B受審人は、立って前方を見ながら操舵に当たり、右舷側から接近する緑隆丸を視認しないまま、同じ針路及び速力で続航中、大幸丸は前示のとおり衝突した。 衝突の結果、緑隆丸は左舷船首部に擦過傷を、大幸丸は右舷側外板に破口をそれぞれ生じ、B受審人は前胸部に挫傷を負った。
(原因) 本件衝突は、紀伊水道において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、大幸丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る緑隆丸の進路を避けなかったことによって発生したが、緑隆丸が、警告信号を行わず、機関を後進にかけるなど衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) B受審人は、紀伊水道において、漁場を移動するため日ノ御埼西方沖合から北方に向けて定針した場合、前路を左方に横切る態勢で接近する緑隆丸を見落とさないよう、右舷正横付近の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷側から接近する他船はいないと思い、船首方を注視していて右舷正横付近の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、緑隆丸の進路を避けずに進行して衝突を招き、緑隆丸の左舷船首部に擦過傷を、自船の右舷側外板に破口をそれぞれ生じさせ、自身が前胸部に挫傷を負うに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人は、紀伊水道において、日ノ御埼沖合を鳴門海峡に向けて北上中、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する大幸丸が、避航動作をとらないまま間近に接近するのを認めた場合、速やかに機関を後進にかけるなど衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、避航船である大幸丸がそのうちに自船の進路を避けるものと思い、速やかに機関を後進にかけるなど衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、同じ針路、速力のまま進行して衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、B受審人を負傷させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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