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1998年(平成10年)

平成9年神審第91号
    件名
貨物船日昭丸貨物船かずりゅう衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年7月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

工藤民雄、須貝壽榮、佐和明
    理事官
坂本公男

    受審人
A 職名:日昭丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:かずりゅう船長 海技免状:五級海技士(航海)
C 職名:かずりゅう一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
日昭丸…左舷側後部外板に凹損
かずりゅう…船首部に凹損

    原因
日昭丸、かずりゅう…狭視界時の航法(速力)不遵守

    二審請求者
補佐人佐藤恭也

    主文
本件衝突は、日昭丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、かずりゅうが、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年10月5日06時17分
犬吠埼南南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船日昭丸 貨物船かずりゅう
総トン数 498トン 498トン
全長 78.00メートル 76.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 735キロワット
3 事実の経過
日昭丸は、国内各港間を不定期に就航する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか5人が乗り組み、砕石1,210トンを載せ、船首2.9メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、平成7年10月4日10時20分岩手県大船渡港を発し、京浜港東京区に向かった。
A受審人は、翌5日02時55分ごろ茨城県那珂湊港の東方沖合で単独の船橋当直に就き、航行中の動力船の灯火を表示して鹿島灘を南下し、04時35分犬吠埼灯台から090度(真方位、以下同じ。)3.2海里の地点で、針路を216度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.8ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
05時54分少し過ぎA受審人は、犬吠埼灯台から205度12.6海里の地点に達したとき、6海里レンジにセットし、自船位置を2海里船尾方に移動してオフセンターとしたカラーレーダーで、船首少し左8海里にかずりゅうの映像を初めて認めた。
間もなくA受審人は、かずりゅうが反航船であることを知り、このころ霧のため視界が悪化し、視程が約100メートルに狭められたが、霧中信号を行うことも、安全な速力とすることもなく、舵輪の左斜め後方で立って、かずりゅうのレーダー映像の残像を表示させ、これを監視しながら全速力のまま続航した。
0608分少し過ぎA受審人は、犬吠埼灯台から20715海里の地点に達し、かずりゅうの映像を左舷船首4度3海里に見るようになったとき、同船との航過距離を少し離すつもりで、自動操舵のまま218度の針路に、同時09分少し過ぎ更に針路を220度に転じて進行した。
A受審人は、06時10分半かずりゅうの映像を左舷船首10度2.2海里に認めるようになり、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことを知った。しかし、同人は、二度にわたり2度ずつ右転したのでなんとか左舷を対して航過できるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行き脚を止めることもなく続航した。
06時16分少し過ぎA受審人は、かずりゅうの映像が自船の船首方に寄りながらレーダー中心部の海面反射の範囲に入ったので不安になり、手動操舵に切り換えて右舷15度ほどをとり、機関を半速力より少し減じて前方を注視したところ、左舷前方至近にかずりゅうの船体を視認したものの、どうすることもできず、06時17分犬吠埼灯台から208度16.5海里の地点において、日昭丸は、280度を向いたとき、その左舷側後部にかずりゅうの船首が前方から60度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期にあたり、視程は約100メートルで、日出時刻は05時34分であった。
また、かずりゅうは、鋼材などの輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、B受審人及び長男のC受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首1.2メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、同月4日20時30分葉県千葉港を発し、茨城県鹿島港に向かった。
B受審人は、船橋当直を自らとC受審人との2人による6時間交替の単独で行うようにしており、出港操船に引き続き当直に就いて房総半島の南岸沿いに北上した。
翌5日03時30分ごろB受審人は、勝浦灯台の南西方沖合で昇橋したC受審人に当直を委ねることとしたが、視界も良好で、霧が発生しやすい時期でもなく、また霧に関する情報も発表されておらず、平素から同人に対して視界が制限される状態となったときや不安があるときには必ず報告するように指示していたことから、気をつけて航行するようにと告げて降橋し、自室に退いて休息した。
こうして、C受審人は、単独の船橋当直に就き、03時48分勝浦灯台から145度2海里の地点で、針路を040度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.4ノットの対地速力で、航行中の動力船の灯火を表示して進行した。
C受審人は、その後昇橋した甲板員を見張りに就けて房総半島九十九里浜沖合を北上し、06時07分半犬吠埼灯台から208度18.1海里の地点に達したとき、3海里レンジとしたレーダーで左舷船首6度3.2海里に日昭丸の映像を初めて認め、間もなく同船の左舷側後方にも第三船の映像を認めた。
このころ、霧のため視程が約1海里に狭められる状態になったが、C受審人は、平素、B受審人から視界が悪くなったら必ず報告するように言われていたのに、この程度の視界ならばしばらくは大丈夫と思ったうえ、甲板員が昇橋して見張りの補助に当たっていたこともあって、B受審人に視界が悪化したことを報告せず、霧中信号を行うことも、安全な速力とすることもなく、全速力のまま続航した。
そして、C受審人は、探知した両船の動静を見守っていたところ、いずれも反航船であることを知り、その後霧が濃くなって視程が約100メートルに狭められ、06時10分半犬吠埼灯台から207.5度17.6海里の地点に達したとき、日昭丸の映像を左舷船首9度2.2海里に認めるようになり、同船と著しく接近することを避けることができない状態となったことを知った。しかし、同人は、日昭丸の左舷側後方に第三船の映像を認めていたことから、左転によって両船と右舷を対して航過できるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行き脚を止めることもなく、自動操舵のまま左転して015度の針路として進行した。
06時14分半わずか過ぎC受審人は、日昭丸の映像が0.75海里に接近したことを知り、同船の映像が自船の船首方に寄ってくるので動静に不安を覚え、機関を8.0ノットの半速力に減じて続行したところ、なおも中心輝点に異常に接近するので衝突の危険を感じ、同時16分半操舵を手動に切り換えて右舵一杯として回頭中、かずりゅうは、船首が040度を向いたとき、約7ノットの速力で、前示のとおり衝突した。
自室で休息していたB受審人は、衝突の衝撃で目覚め、急いで昇橋して衝突を知り、事後の措置に当たった。
衝突の結果、日昭丸は左舷側後部外板に凹損を生じ、かずりゅうは船首部に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、両船が、霧のため視界制限状態となった犬吠埼南南西方沖合を航行中、南下する日昭丸が、安全な速力とせず、レーダーにより前路に認めたかずりゅうと著しく接近することを避けることができない状況となった際針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行き脚を止めなかったことと、北上するかずりゅうが、安全な速力とせず、レーダーにより前路に認めた日昭丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行き脚を止めなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、霧のため視界制限状態となった犬吠埼南南西方沖合を南下中、レーダーにより前路にかずりゅうの映像を探知し、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったのを知った場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行き脚を止めるべき注意義務があった。ところが、同人は、二度にわたり2度ずつ右転したのでなんとか左舷を対して航過できるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行き脚を止めなかった職務上の過失により、行き脚を止める措置がとられずに進行してかずりゅうとの衝突を招き、日昭丸の左舷側後部外板に凹損及びかずりゅうの船首部に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、霧のため視界制限状態となった犬吠埼南南西方沖合を北上中、レーダーにより前路に日昭丸の映像を探知し、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったのを知った場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行き脚を止めるべき注意義務があった。ところが、同人は、左転によって日昭丸と右舷を対して航過できるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行き脚を止めなかった職務上の過失により、行き脚を止める措置がとられずに進行して衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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