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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年3月21日09時12分 瀬戸内海播磨灘 2 船舶の要目 船種船名 漁船住吉丸
漁船住吉丸 総トン数 4.9トン 4.8トン 全長 14.99メートル 14.92メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 漁船法馬力数 35 35 船種船名
油送船シンタトレーダ 総トン数
40,125.00トン 全長 236.50メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
9,709キロワット 3 事実の経過 住吉丸は、2艘船曳網(そうふなびきあみ)漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、船首0.30メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、平成7年3月21日06時30分僚船とともに兵庫県淡路島の育波漁港を発し、播磨灘東部の漁場に向かった。 住吉丸が行う2艘船曳網漁は、A受審人が乗り組む主船住吉丸(以下「住吉丸」という。)のほか、従船住吉丸(以下「従船」という。)及び運搬船住吉丸(以下「運搬船」という。)の3隻からなる船団以下「住吉丸船団」という。)で操業されていた。 住吉丸船団が使用する漁網は、全長が約100メートルで、Y字状に先端部が分かれた袖(そで)網とその後部に接合された袋網とからなり、住吉丸が従船の右舷側に位置し、それぞれが長さ15メートルのワイヤに90メートルの合成繊維索を連結した曳索(えいさく)によって袖網の2箇所の先端部を曳(ひ)き、袖網には、海中で開口するように上部に多数の小型浮子が、下部にはところどころに沈子が取り付けられていた。 また、漁網は、そのままでは徐々に海中に沈下するよう調整されていたので、発泡スチロール製でオレンジ色の直径55センチメートル(以下「センチ」という。)長さ95センチの円筒形大型浮子3個及び直径40センチ長さ65センチの円筒形中型浮子2個が、網の必要深度に応じて長さが調節された取付け索によって、袖網上部にそれぞれ取り付けられていた。さらに、袋網にも発泡スチロール製でオレンジ色の直径60センチの球形浮子2個が、長さ約30メートルのロープで取り付けられていた。 こうして、A受審人は、住吉丸船団操業の指揮をとり、07時30分播磨灘航路第6号灯浮標(以下、灯浮標の名称については「播磨難航路」を省略する。)の南東方700メートルばかりの、育波港西防波堤灯台から315度(真方位、以下同じ。)2.9海里の地点において、トロールにより漁ろうに従事する船舶が表示する鼓型形象物及び兵庫県漁業協同組合連合会等で定めている、2艘船曳網漁船で右舷側を曳網(えいもう)する漁船を示す縦100センチ横110センチの緑色旗をそれぞれ掲げ、従船には同様の形象物と、左舷側を曳網する漁船を示す赤色旗をそれぞれ掲げさせ、網の深さが海面下約2メートルになるよう円筒型浮子の取付け索の長さを調整して曳網を開始した。 A受審人は、曳網開始時から、針路を播磨灘航路推薦航路線(以下「推薦航路線」という。)にほぼ沿う244度に定め、機関回転数を毎分1,700とし、約1ノットの南西流に乗じて3.0ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。 08時25分ごろA受審人は、針路、速力をほぼ保ったまま、運搬船が袋網に取り付けられた浮子のロープを巻き上げることによって、5分間ほどかけて同網から漁獲物を水揚げしたが、漁模様が悪かったので、同船に漁獲物を育波漁港に運ばせず、そのまま従船の左舷側を随伴して魚群の探索に当たるよう指示し、曳網を再開した。 ところで、住吉丸船団の各船には、いずれも法定の汽笛信号装置を装備せず、警告信号を行うことができなかったので、他船が漁網の存在に気づかず接近する場合は、できるだけ早期に発見して運搬船がこれに近づき、旗などを振って漁網の存在を知らせて警告し、避航を促す以外有効な手段がなかった。 A受審人は、当時、100隻近い2艘船曳網漁船群が、住吉丸船団を南縁として推薦航路線を南北にまたがる状態で鹿ノ瀬付近まで広がって操業していることを知っていたが、推薦航路線の南側は東行船が航行するから船首方の見張りをすれば良いと思い、後方の見張りを十分行わず、また、船団の他の乗組員にも厳重に見張りを行うよう指示しないまま、魚群探知器で魚群の探索に当たっていたので、09時05分推薦航路線の北側を西行中のシンタトレーダ(以下「シ号」という。)が、右舷船尾27度1.4海里のところで、前路の漁船群を避けるため左転し、推薦航路線の南側に進出する態勢となったことに気づかなかった。 09時08分A受審人は、淡路島の江井港西防波堤灯台から320度4.8海里の地点に達したとき、シ号が右舷船尾22度1,700メートルにあり、その後その方位が明確に変わらず、ほぼ自船の漁網に向かう態勢となって接近したが、後方の見張りが不十分で、依然このことに気づかず、早期に運搬船を使うなどして避航を促すための警告の措置をとることなく、そのまま進行した。 09時11分少し過ぎ、ようやく運搬船の乗組員がシ号の接近に気づき、同船に漁網を避けるよう注意を促すため反転するとともに、A受審人に無線電話でこのことを知らせた。 A受審人は、右舷船尾方向近距離に相手船を初めて認め、従船とともに右回頭をしたが及ばず、09時12分江井港西防波堤灯台から319度4.8海里の地点において、ほぼ270度を向いた住吉丸の船尾方150メートルの漁網にシ号の船首が衝突した。 当時、天候は晴で風がほとんどなく、潮候は上げ潮の初期で、付近には約1ノットの南西流があった。 また、シ号は、船尾船橋型油送船で、船長Cほか33人が乗り組み、原油34,542トンを積載し、同月13日マレーシアのデュランを発し、岡山県水島港に向かう航行の途中、越えて21日07時20分神戸港和田岬南方約5海里に至り、水島港への嚮導(きょうどう)の目的でB受審人を乗せ、船首7.85メートル船尾8.75メートルの喫水をもって同地点を発進し、明石海峡に向かった。 B受審人は、C船長と当直航海士在橋のもと、操舵手を手動操舵に当たらせ、明石海峡航路を通航して西行し、08時50分育波港西防波堤灯台から319度3.4海里の地点で、第6号灯浮標を左舷側300メートルに通過したとき、針路を推薦航路線に沿う248度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの南西流に乗じて13.5ノットの対地速力で進行した。 間もなくB受審人は、前路に2艘船曳網漁を行う漁船群が、第5号灯浮標の南側から鹿ノ瀬の西側にかけて操業しており、推薦航路線の北側が閉塞(へいそく)された状態となっていることを知り、09時05分江井港西防波堤灯台から337度5.4海里の地点に達したとき、推薦航路線の北側を航行することが困難であると判断してC船長にその旨報告し、針路を漁船群の南縁の漁船を船首方向わずか右舷側に見る215度に転じて続航した。 09時08分B受審人は、住吉丸船団を正船首わずか右舷側1,700メートルに、また、その手前500メートルばかりに2隻の漁船をそれぞれ認めたが、2隻の漁船の後方には漁網の存在を示す数個の浮子が視認できたものの、住吉丸船団については、3隻が集まっているように見えたうえ、それらの後方にまだ浮子が視認できなかったので、いちべつして待機中の運搬船と思い込み、曳網中の漁船であるかどうか確認するため、それらの掲げる鼓型形象物や、住吉丸が掲示していた緑色旗を確認するなど、その動静を十分に監視することなく、住吉丸船団手前で曳網している漁船の浮子の後方100メートルばかりを通過すべく、それらの移動に応じて少しずつ針路を右に転じながら進行した。 B受審人は、その後も住吉丸船団を正船首わずか右舷側に視認していたが、依然その動静監視が不十分で、正船首わずか左舷側に存在していた漁網の位置を示す数個の浮子には気づかないまま進行し、09時11分少し過ぎ、手前にいた2隻の漁船の浮子を右舷側100メートルばかり離して通過したのち住吉丸の方を見たところ、同船の船尾から曳索が出ていることに気づいた。そして、漁網に付けた浮子がすでに船首死角に入って見えないまま、そのころ運搬船が反転して自船の左舷側に移動したので、左転することを躊躇(ちゅうちょ)して続航中、シ号は、ほぼ226度を向いた状態で、原速力のまま前示のとおり衝突した。 衝突の結果、シ号及び住吉丸船団の各船体に異状がなかったが、漁網が破れて曳索が切断され、A受審人が頭部に同索連結用フックの直撃を受けて負傷した。
(原因) 本件漁具衝突は、播磨灘東部の推薦航路線付近において、シ号が、動静監視不十分で、2艘船曳網の漁ろうに従事する住吉丸及び従船の進路を十分に避けなかったことによって発生したが、住吉丸が、見張り不十分で、自船の船尾に接近して航過しようとするシ号に対し、早期に運搬船を使うなどして警告の措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) B受審人は、シ号を嚮導して播磨灘を西行中、前路に多数の2艘船曳網の漁ろうに従事する漁船群を認め、これらを迂回(うかい)する進路をとった際、漁船群の南縁に住吉丸、従船及び運搬船の3隻を視認した場合、それらが2艘船曳網の漁ろうに従事中であるかどうか判断できるよう、形象物等を確認するなどしてその動静を十分に監視すべき注意義務があった。しかるに、同人は、いちべつしてこれらを船曳網船団に付属する運搬船と思い、その動静を十分に監視しなかった職務上の過失により、2艘船曳網の漁ろうに従事中の住吉丸及び従船の船尾を離して航行するなど、その進路を十分に避けず、これらが曳く漁網との衝突を招き、漁網に損傷を与え、また、切断された曳索のフックがA受審人の頭部に当たり同人を負傷せしめた。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人は、船舶が輻輳(ふくそう)する播磨灘東部の推薦航路線の南側において、2艘船曳網船団を指揮して操業に当たる場合、自ら後方の見張りを十分に行うほか、船団の乗組員に指示して周囲の見張りを厳重に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、推薦航路線の南側であるから、西行する船舶はいないものと思い、前方の見張りと魚群探索に気をとられ、後方の見張りを十分に行わなかったばかりか、船団の乗組員にも十分に見張りを行うよう指示しなかった職務上の過失により、自船の船尾に接近して航過しようとするシ号に対し、早期に運搬船等による警告の措置をとらず、シ号と漁網との衝突を招き、前示のとおり、漁具に損傷を受け、自らも頭部に負傷した。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図(1)
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