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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年8月7日12時10分 和歌山県和歌山下津港 2 船舶の要目 船種船名 油送船第二あじあ丸
プレジャーボート吉田丸 総トン数 124.91トン 全長 7.60メートル 登録長
28.70メートル 機関の種類 ディーゼル機関
電気点火機関 出力 169キロワット 40キロワット 3 事実の経過 第二あじあ丸(以下「あじあ丸」という。)は、船尾船橋型鋼製油送船で、A受審人及びB指定海難関係人の2人が乗り組み、空倉のまま、船首0.2メートル船尾2.1メートルの喫水をもって、平成7年8月7日05時00分岡山県片上港を発し、和歌山下津港に向かった。 A受審人は、11時30分和歌山県加太瀬戸の地ノ島灯台から096度(真方位、以下同じ。)430メートルの地点に達したとき、針路を196度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.3ノットの対地速力で手動操舵により進行した。 ところで、あじあ丸の船橋当直者は、空船航海時、操舵室中央部舵輪後方のいすに座っていると船首が水平線より上になって、正船首方両舷合わせて約10度の範囲に死角が生じるので、身体を左右に寄せるなどして、死角を補う見張りをする必要があった。 11時35分ごろA受審人は、和歌山県加太港西方海域を南下していたとき、B指定海難関係人に船橋当直を任せて昼食をとることとしたが、同人が自船で単独の船橋当直を長年経験していたことから、特に注意を与えるまでもないと思い、立って身体を左右に移動させるなどして、死角を補う見張りを十分に行うよう具体的に指示しないで船尾の食堂に降りた。 11時45分ごろA受審人は、昼食を済ませたとき、和歌山下津港まで2海里ばかりの田倉埼沖合に達しており、間もなく船舶が輻輳(ふくそう)する同港港域内に入ることを知っていたが、しばらくはB指定海難関係人に船橋当直を任せておいても大丈夫と思い、速やかに昇橋して操船の指揮をとることなく、自室で休息した。 B指定海難関係人は、船橋中央部のいすに腰を掛けたまま見張りにあたって同じ針路、速力で続航し、11時48分田倉埼灯台から230度1,400メートルの地点で、針路を145度に転じて和歌山下津港に向け南下した。 12時06分B指定海難関係人は、和歌山北防波堤灯台から279度2.8海里の地点に達したとき、ほぼ正船首1,000メートルのところに漂泊中の吉田丸が存在したが、このころ右舷船首方から前路を左方に横切る漁船を認め、その動静に気をとられ、立って身体を左右に移動するなどして前路の死角を補う見張りを十分に行わなかったので、吉田丸を視認することができなかった。 あじあ丸は、間もなく前示漁船を自船の前方800メートルばかり離して無難に航過した後も、船橋当直者が、依然として前路の死角を補う見張りを行っていなかったので、吉田丸を避けることができないまま、同じ針路、速力で続航した。 12時10分少し前B指定海難関係人は、右舷船首至近に船首死角から現れた吉田丸の船首部を初めて認め、機関を中立としたが効なく、12時10分和歌山北防波堤灯台から269度2.4海里の地点において、あじあ丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、吉田丸の右舷後部に前方から40度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期であった。 A受審人は、自室で機関が中立となったことに気付き、急ぎ昇橋して衝突を知り、事後の措置にあたった。 また、吉田丸は、船外機を装備したFRP製プレジャーボートで、C受審人1人が乗り組み、遊漁の目的で、船首0.1メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日10時00分和歌山県紀ノ川右岸の係留地を発し、和歌山下津港内の釣場に向かった。 C受審人は、10時30分ごろ目的地に着き、長さ約15メートルのナイロンロープに連結した直径1.5メートルの布製のパラシュート型シーアンカーを船首から投入してアジの一本釣りを始め、11時30分ごろ自船が目的の釣場付近から潮流によって移動したので、同時40分前示衝突地点付近に戻って再度シーアンカーを投入し、機関を停止したうえ船首を285度に向けて釣りを再開した。 12時00分C受審人は、中央部左舷側の生け間のふたに座って船尾を向き、右手で釣り糸を持ち釣りを行っていたところ、右舷船首30度1.4海里のところに、自船に向けて接近するあじあ丸を初めて認めたが、航行船が避けてくれるものと思い、その後あじあ丸に対する動静監視を行わなかった。 C受審人は、このころからアジが釣れだしたので釣りに気をとられ、12時06分あじあ丸が方位に変化なく衝突のおそれがある態勢で1,000メートルばかりに接近したことに気付かず、更に同時08分同船が避航の気配がないまま500メートルばかりとなったが、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとることなく釣りをしていたところ、同時10分少し前あじあ丸の機関音を聞き、右舷至近に迫っている同船を認めたものの、何をする間もなく前示のとおり衝突した。 衝突の結果、あじあ丸は、船首部に擦過傷を生じたのみであったが、吉田丸は右舷外板に破口を生じて同舷側に転覆し、和歌山下津港に引き付けられ、のち修理された。
(原因) 本件衝突は、あじあ丸が、和歌山下津港内北部を南下中、見張り不十分で、前路で漂泊中の吉田丸を避けなかったことによって発生したが、吉田丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。 あじあ丸の運航が適切でなかったのは、船長が、自ら操船指揮をとらなかったこと及び無資格の船橋当直者に死角を補う見張りを行うよう具体的に指示しなかったことと、無資格の船橋当直者が死角を補う見張りを行わなかったこととによるものである。
(受審人等の所為) A受審人は、和歌山下津港近くの沖合において、無資格の機関長に船橋当直を任せて降橋し、昼食を終えた場合、間もなく、船舶が輻輳する同港港域に入ることを知っていたのであるから、速やかに昇橋して自ら操船の指揮をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、機関長が単独の船橋当直を長年経験していたので、しばらくは任せておいても大丈夫と思い、速やかに昇橋して自ら操船の指揮をとらなかった職務上の過失により、衝突を招き、あじあ丸の船首部に擦過傷及び吉田丸の右舷外板に破口を生じさせ、吉田丸を転覆させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 C受審人は、和歌山下津港内北部で漂泊して遊漁中、自船に向けて接近するあじあ丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、航行船の方が避けるものと思い、同船の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、接近するあじあ丸に気付かないまま衝突を避けるための措置をとらずに衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B指定海難関係人が、船橋当直中、死角を補う見張りを十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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