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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年2月3日20時22分半 兵庫県尼崎西宮芦屋港 2 船舶の要目 船種船名
旅客船むこがわ 総トン数 3,756トン 全長 89.95メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 5,295キロワット 船種船名 プレジャーボートハローパシフィック 総トン数 16.67トン 全長
9.99メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力 264キロワット 3 事実の経過 むこがわは、船首船橋型旅客船兼自動車渡船で、A受審人ほか17人が乗り組み、旅客94人と車両42台を載せ、船首3.60メートル船尾4.15メートルの喫水をもって、平成8年2月3日18時40分兵庫県淡路島の津名港を発し、尼崎西宮芦屋港に向かった。 A受審人は、操船の指揮を執り、同日19時50分西宮防波堤東灯台(以下「東灯台」という。)から219度(真方位、以下同じ。)9.4海里の地点に達したとき、針路を尼崎第1号灯浮標(以下「尼崎」を冠した灯浮標名については号数のみを記載する。)と2号灯浮標の間に向首する039度に定め、機関を全速力前進にかけ、一等航海士及び二等航海士を操船の補佐に、甲板手を手動操舵にそれぞれ当たらせ、航行中の動力船の灯火を表示して、17.0ノットの対地速力で進行した。そして、20時19分1号灯浮標を左舷側100メートルに並航する、東灯台から219度1.1海里の地点に達したとき、針路を3号灯浮標及び4号灯浮標の間に向首する047度に転じ、機関を15.0ノットの港内全速力前進に減じて続航した。 20時19分半A受審人は、右舷船首25度1.2海里のところに、2隻の錨泊船の間から姿を現したハローパシフィック(以下「ハ号」という。)の白、緑2灯を初めて認め、同船とは右舷を対して無難に航過できるものと判断した。ところが、同船は、同時20分ごろから徐々に両舷灯、続いて紅灯を見せるようになり、そして、間もなく再び両舷灯から緑灯を見せるようになった。 不審に思ったA受審人は、機関を約13ノットの半速力前進に減じたうえ、蛇行して接近するハ号の動向を注視していたところ、20時21分半ごろ、右舷船首30度600メートルばかりに接近したとき、再び紅灯を示すようになったので、相手船はわざと自船の運航の邪魔をしようとしているのではないかと思い、注意喚起のため探照灯でハ号を照射した。 A受審人は、その後もハ号が紅灯を見せたまま、方位に変化なく衝突の危険がある態勢で接近したが、どのような動作を取るか予測できず、引き続き相手船を探照灯で照射したまま、20時22分少し前左舵20度を令し、続いて機関を停止したが及ばず、20時22分半東灯台から213度580メートルの地点において、左回頭して船首が317度を向いたむこがわの船首付近右舷側に、ハ号の左舷中央部少し船首寄り外板が後方から10度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、視界は良好であった。 また、ハ号は、FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、同乗者1人を乗せ、船首尾とも0.90メートルの喫水をもって、同日19時30分大阪北港北灯台から039度2.3海里にあたる、大阪港大阪区の神崎川左岸にある係留地を発し、淡路島南岸の灘漁港に向かった。 ところで、B受審人は、ハ号の係留地から近い大阪市西淀川区中島1丁目に自分の経営する会社があり、当日は土曜日であったが、15時半ごろまで仕事をし、その後従業員とマージャンに興じながら500ミリリットル入り缶ビール1本と小ジョッキに5分の2ほど入れたウイスキーを水割りにして飲んだ。 B受審人は、同日夜灘漁港に到着して仮泊し、翌4日の日曜日に同漁港沖合で釣りをする予定であった。 こうして、B受審人は、3日18時00分ごろマージャンを終えて会社をあとにし、ぶらぶら歩いてハ号の係留地に向かい、同時10分ごろ途中にある酒店に立ち寄って食料を買い込み、そのとき同店内で酒を飲んでいた見知らぬ人と一緒に再び飲酒し、その後、同受審人の酩酊(めいてい)状態を心配した酒店の店主及び一緒に飲んでいた人と3人でハ号に向かい、同時40分ごろ同船に到着して出航準備を開始した。 そのころB受審人は、かなり酩酊しており、単独でハ号を操船することは危険であったが、普段はもっと飲んでいるので、大して酔っていないから大丈夫と思い、運航を取りやめることなく、酒店で初めて知り合った人を操舵室後部のソファーに座らせ、前示のとおり発航した。 B受審人は、フライングブリッジの操縦席が、周囲の見通しも良く、GPSプロッターやレーダー等の航海計器も備えられていたので操船に適していたものの、酔っていてフライングブリッジに上がるのが危険で、かつ寒かったので、上甲板中央部付近にある下部操舵室右舷側のいすに腰掛けて操船に当たり、航行中の動力船の灯火を表示したうえ、機関を微速力前進にかけたり停止したりして周囲の様子を確かめながら神崎川を下航した。 20時10分B受審人は、阪神高速5号湾岸線の神崎川橋橋梁灯(C1灯及びC2灯)の下を通過し、針路を左右の埋立地の間に向かう239度に定め、機関回転数を毎分2,000として15.0ノットの速力で手動操舵により進行した。 B受審人は、神崎川橋を通過して間もなく、両側の埋立地が暗くて針路が定めにくいので、操舵室内で後方を振り返りながら神崎川橋の照明灯や橋梁灯の視認具合によって続航した。しかし、同受審人は、酩酊しており、中島川第3号灯浮標及び同第4号灯浮標などの航路標識や錨泊船の存在を認識しないままこれらの近くを通過した。 20時19分半B受審人は、東灯台から133度1,200メートルの地点に達したとき、右舷船首15度1.2海里に、むこがわの白、白、緑3灯を視認できる状態となったが、このことに気付かず、同時20分ごろ、東灯台の緑色閃(せん)光の灯火を探そうと徐々に右転したものの、普段であれば容易に見付けることができるその灯火を、酩酊していて発見することができないまま、むこがわの前路に向けて左右に大きく蛇行しながら、進出する状態て進行した。 B受審人は、20時22分半わずか前むこがわの探照灯に顔を照射され、ようやく左舷前方に他船がいることがわかり、右舵をとったが効なく、ハ号は307度に向首して原速力のまま進行中、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、むこがわは右舷船首部に擦過傷を生じたのみであったが、ハ号は左舷外板に破口を生じたほかフライングブリッジの手すりを損傷した。
(原因) 本件衝突は、夜間、ハ号が、飲酒運航をとりやめずに大阪港大阪区神崎川の係留地を発航し、尼崎西宮芦屋港内において、むこがわの前路に蛇行しながら進出したことによって発生したものである。
(受審人の所為) B受審人は、夜間、単独で操船して大阪港大阪区神崎川の係留地から淡路島南岸に向かう場合、乗船前に飲酒して酩酊状態であったから、その運航をとりやめるべき注意義務があった。しかるに、同人は、まだ操船しても大丈夫と思い、運航をとりやめなかった職務上の過失により、自船をむこがわの前路に蛇行進出させて衝突を招き、むこがわの右舷船首部に擦過傷を、ハ号の左舷外板に破口をそれぞれ生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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