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1998年(平成10年)

平成9年横審第57号
    件名
油送船第一ケミウェイ引船第3協栄丸引船列衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年7月31日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

半間俊士、勝又三郎、河本和夫
    理事官
大本直宏、藤江哲三

    受審人
A 職名:第一ケミウェイ一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第3協栄丸一等航海士 海技免状:六級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
ケ号…船首部に破口を伴う凹損
協栄丸…損傷なし
空海丸…船首部右側に破口を生じて船倉に浸水ほか

    原因
ケ号…見張り不十分、行会いの航法(避航動作)不遵守
協栄丸引船列…行会いの航法(避航動作)不遵守

    主文
本件衝突は、第一ケミウェイと第3協栄丸引船列とが、ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがあったとき、第一ケミウェイが、見張り不十分で、針路を右に転じなかったことと、第3共栄丸引船列が、針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年6月22日17時00分
遠州灘天竜川河口南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 油送船第一ケミウェイ
総トン数 299トン
登録長 46.09メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
船種船名 引船第3協栄丸 台船第2空海丸
総トン数 127トン
全長 30.60メートル 60メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
3 事実の経過
第一ケミウェイ(以下「ケ号」という。)は、主に京浜地区から九州北部にかけての各港間での運航に従事する鋼製船尾船橋型液体化学薬品ばら積船兼油タンカーで、船長C、A受審人ほか3人が乗り組み、スワゾール約280トンを載せ、船首2.30メートル船尾3.80メートルの喫水をもって、平成8年6月22日10時20分名古屋港を発し、京浜港川崎区に向かった。
C船長は、船橋当直をA受審人とほぼ5時間交代で行うこととし、発航後一人で同当直に就き、伊良湖水道通過後13時47分神島灯台から092度(真方位、以下同じ。)2.2海里の地点で、針路を089度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.6ノットの対地速力で自動操舵として進行し、14時45分ごろ神島灯台から090度12.8海里ばかりの地点で、昇橋したA受審人に、視程が約3海里で注意を要することや針路、速力などを指示し、同当直を引き継いで降橋した。
単独で船橋当直に就いたA受審人は、引き継いだ針路、速力で自動操舵のまま遠州灘を東行し、16時53分掛塚灯台から205度6.1海里の地点で、左舷船首2度2海里に第3協栄丸(以下「協栄丸」という。)が台船第2空海丸(以下「空海丸」という。)を曳航(えいこう)した状態の協栄丸引船列を視認することができ、その後同引船列がほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近していたが、このころ船位を求めようとしてレーダーを作動させて協栄丸と空海丸の映像を認めたものの、もう少し接近してから肉眼で確認しても大丈夫と思い、目視による前方の見張りを十分に行うことなく、海岸線のレーダー映像と海図との照合などを行っているうち同引船列のことを失念してその接近に気付かず、速やかに同引船列の左舷側を通過することができるよう、針路を右に転じないまま続航した。
こうして、16時59分半A受審人は、船橋内右舷後部の海図台で後方を向いて海図を見ているとき、ケ号が協栄丸の右舷側を通過したものの、依然協栄丸引船列に気付かず、17時00分少し前ふと振り返ると船首至近に迫った空海丸を視認し、急いで操舵スタンドに行って手動操舵に切り替え、機関停止としたが及ばず、17時00分掛塚灯台から194度5.7海里の地点において、ケ号は、原針路、原速力のまま、その船首が空海丸の船首中央よりやや右舷側に、右舷船首方から5度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力3の西南西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
C船長は、衝突の衝撃を感じて昇橋し、事後の措置に当たった。
また、共栄丸は、2基2軸の鋼製引船で、船長D、B受審人のほか、機関長及び機関員の4人が乗り組み、鋼管800トンを載せ、船首尾とも1.0メートルの喫水となった無人の空海丸を船尾に引き、船首1.5メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、同月21日05時15分千葉港を発して大阪港に向かい、東京湾を出たところで曳索(えいさく)を200メートルに伸ばし、協栄丸の船尾から空海丸の後端までの距離が約270メートルの引船列として進行した。
D船長は、船橋当直を6時間交代2直制とし、B受審人と機関員が00時から06時まで及び12時から18時までを、自らと機関長が06時から12時まで及び18時から00時までをそれぞれ2人で行うことに定め、機関長及び機関員には、各当直中ほぼ2時間毎に約30分間機関室で運転監視や注油などを行うこととし、それ以外の時間は見張り員として在橋するようにさせていた。
B受審人は、翌22日12時ごろ御前埼灯台から106度10海里ばかりの地点で、D船長から船橋当直を引き継ぎ、空海丸には菱形形象物を掲げてないものの、協栄丸に掲げられた同形象物を確認して機関員とともに同当直に就き、御前埼の南方を航過したころから多くなった操業中の漁船を適宜避航しながら続航し、16時00分掛塚灯台から134度7.1海里の地点で、針路を264度に定め、機関を全速力前進にかけ、約6.5ノットの対地速力で自動操舵とし、曳航している空海丸が針路方向に対して約5度左右にゆっくりと振れ、更に左前方からの風の影響で右側に寄せられる状況で遠州灘を西行した。
B受審人は舵輪後側のいすに腰掛け、機関員は右舷窓際のいすに腰掛けて船橋当直に従事していたとき、B受審人は、16時43分掛塚灯台から174度5.3海里の地点で、12海里レンジとしたレーダーでほぼ正船首5海里ばかりにケ号の映像を認め、同時50分には同方向3海里ばかりに同船を視認し、同時53分掛塚灯台から187度5.5海里の地点に達したとき、右舷船首3度2海里に同船を見て、ほぼ真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近していることを知り、同時57分少し前ほぼ同方向1海里に同船がほぼ同じ態勢で接近して来るのを認めたが、平素曳航作業に従事している自船を航行船が替わしてくれていたことから、相手船が避けてくれるものと思い、速やかにケ号の左舷側を通過することができるよう、針路を右に転ずることなく続航した。
こうして、B受審人は、16時59分半ケ号が自船の右舷側を通過し、その船首が協栄丸の右舷船尾10度200メートルばかりのところで引かれている空海丸の船首に向首する状況になったものの、ケ号が自船を替わしたように空海丸も替わして行くものと思って進行中、このころ昇橋して後方を見ていた機関長の叫び声で同船の至近に迫ったことに気付き、機関を停止したが及ばず、空海丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
D船長は、機関が停止したことで異常を感じて昇橋し、衝突を知って事後の措置に当たった。
衝突の結果、ケ号は船首部に破口を伴う凹損を生じ、共栄丸には損傷がなく、空海丸は船首部右側に破口を生じて船倉に浸水したが、のちいずれも修理され、空海丸の右側の台船付きワイヤーが切断された。

(原因)
本件衝突は、遠州灘において、東行するケ号と西行する協栄丸引船列とが、ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近するとき、ケ号が、見張り不十分で、共栄丸引船列の左舷側を通過することができるよう針路を右に転じなかったことと、協栄丸引船列が、ケ号の左舷側を通過することができるよう針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、遠州灘を東行中、単独で船橋当直に就く場合、前方の共栄丸引船列を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、レーダーで同引船列の映像を認めたとき、もう少し接近してから肉眼で確認しても大丈夫と思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同引船列の左舷側を通過することができるよう、針路を右に転ずることなく進行して空海丸と衝突を招き、ケ号の船首部に破口を伴う凹損を生じさせ、空海丸の船首右側に破口を生じさせて浸水させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、空海丸を曳航して遠州灘を西行中、ほぼ真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近しいるケ号を認めた場合、同船の左舷側を通過できるよう、針路を右に転ずるべき注意義務があった。しかるに、同人は、平素曳航作業に従事している自船を航行船が替わしてくれていたことから、相手船が避けてくれるものと思い、針路を右に転ずることなく進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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