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1998年(平成10年)

平成9年横審第50号
    件名
交通船1号長生丸漁船海春丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年7月16日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

半間俊士、勝又三郎、西村敏和
    理事官
関隆彰

    受審人
A 職名:1号長生丸船長 海技免状:一級小型船舶繰縦士
B 職名:1号長生丸甲板員 海技免状:一級小型船舶操縦士(5トン限定)
C 職名:海春丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士(5トン限定)
    指定海難関係人

    損害
長生丸…左舷外板に亀裂及び上部構造物に損傷
海春丸…右舷外板に擦過傷

    原因
海春丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
長生丸…無資格者に漂泊させていた、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、海春丸が、見張り不十分で、漂泊中の1号長生丸を避けなかったことによって発生したが、1号長生丸が、無資格者に漂泊させていたばかりか注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Cを戒告する。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年5月25日11時10分
茨城県鹿島港南防波堤東方
2 船舶の要目
船種船名 交通船1号長生丸 漁船海春丸
総トン数 6.91トン 4.95トン
登録長 10.80メートル 11.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 88キロワット 316キロワット
3 事実の経過
1号長生丸(以下「長生丸」という。)は、潜水設備を有し、専ら港湾工事等に従事するFRP製作業船兼交通船で、A及びB両受審人が乗り組み、茨城県鹿島港南防波堤改良工事に伴う捨石投入場所を指示する目的で、船首0.20メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、平成8年5月25日07時45分鹿島港外港船だまりを発し、同港南防波堤東側の工事現場に向かい、08時25分鹿島港南防波堤灯台から181度(真方位、以下同じ。)1,370メートルの工事現場において錨泊中の砂利運搬船(以下「ガット船」という。)に到着した。
ところで、有限会社Aは、長生丸のほか10隻の潜水作業船を使用して、潜水作業による港湾土木の基礎工事などを行っており、各船への乗組員の配乗に当たっては、海技資格、潜水資格及び作業の慣熟度などを考慮し、潜水士1人に対し、潜水作業補助者1人を当て、1隻に2人を乗船させることにしていた。そして、長生丸には、法定の資格を有するA受審人を船長兼潜水士とし、総トン数が5トンを超えている長生丸を単独で操船する資格のないB受審人を甲板員兼作業補助者として乗り組ませていた。このため、A受審人が、長生丸からガット船に移乗する際は、B受審人が単独で操船に従事することにならないよう、工事現場で錨泊中のガット船の右舷船尾部に長生丸を係留するように施工計画書に定められていた。
ところが、ガット船に到着したA受審人は、長生丸を離れるに際し、B受審人が長生丸を単独で操船する資格を有していないことを知っていたのに、これまでも同人に漂泊位置を移動するなどの操船を委(ゆだ)ねたことがあり、また、同人が操船に慣れていたことから、航行中の操船でないので委ねても大丈夫と思い、長生丸をガット船に係留しておくよう指示をすることなく、ガット船に移乗した。
B受審人は、A受審人から係留しておくよう指示がなかったことから、捨石投入作業が終了するまでの間、漂泊して特機することにし、ガット船の東方300メートルばかりの地点において、船首を北に向け、機関をかけたままクラッチを中立とした状態で漂泊し、船尾甲板で周囲の見張りを行っていた。
こうして、11時07分B受審人は、鹿島港南防波堤灯台から170度1,400メートルの地点において、船首を354度に向けて漂泊中、左舷船尾10度930メートルのところに、自船に向首して接近する海春丸を初めて認め、その動静を監視していたところ、その後も同船が自船に向首したまま接近していたが、海春丸は自船の存在に気付いており、もう少し接近してから避航してくれると思い、自船の存在を知らせるための注意喚起信号を行わず、更に接近するに及んで、機関を使用して衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けているうち、11時10分少し前、船尾至近に迫った海春丸に衝突の危険を感じて大声を出したが、どうすることもできず、11時10分前示漂泊地点において、長生丸の左舷中央部に、海春丸の右舷前部が後方から10度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の東北東風が吹き、視界は良好であった。
A受審人は、作業終了後、長生丸がいないのに気付き、工事警戒船で外港船だまりに帰港して事故の発生を知った。
また、海春丸は、しらす機船船曳網漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.20メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、同日04時ごろ茨城県大洗港を発し、鹿島港の南側にあたる同県鹿島郡神栖町沖合の漁場に向かい、05時30分ごろ同漁場に至ってしらす漁を開始した。
C受審人は、しらす約150キログラムを漁獲したところで操業を終え、10時45分鹿島港南防波堤灯台から161度4.8海里の地点を発進し、大洗港に向けて帰途につき、同町護岸の沖合500メートルに設置された潜堤の東側をそれに沿った針路とし、機関を半速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で、魚群の探索を行いながら手動操舵により進行した。
11時04分C受審人は、鹿島港南防波堤灯台から182度1.7海里の鹿島港南防波堤の南端付近に達して、同防波堤に沿う004度の針路に定めたところ、前方を同航中の僚船から、船首方向に錨泊中のガット船の船首尾からそれぞれ東方に錨索が張り出している旨の無線連絡があったので、同時05分少し過ぎ、同灯台から182度1.5海里の地点において、同索を替わすため針路を右に転じ、同時07分同灯台から176度2,300メートルの地点に至って、針路を004度に戻したとき、正船首930メートルのところに漂泊中の長生丸を視認し得る状況となった。しかし、針路を転じたとき、C受審人は、左舷前方のガット船や錨索を注視していたので、長生丸の存在に気付かず、前路に他船はいないと思い、その後も同索に気をとられ、前路の見張りを十分に行っていなかったので、依然として長生丸の存在にも、衝突のおそれのある態勢で接近していることにも気付かなかった。
こうして、C受審人は、長生丸を避けないまま続航し、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、長生丸は、左舷外板に亀(き)裂及び上部構造物に損傷を生じ、海春丸は、右舷外板に擦過傷を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、茨城県鹿島港において、操業を終えて同県大洗港に向けて帰航中の海春丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の長生丸を避けなかったことによって発生したが、長生丸が、無資格者に漂泊させていたばかりか、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
長生丸の運航が適切でなかったのは、船長が、同船を離れるに当たり、無資格の甲板員に対し、同船を係留しておくよう指示をしなかったことと、同甲板員が、係留せずに漂泊中、接近する他船を認めた際の措置が適切でなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
C受審人は、茨城県鹿島港において、操業を終えて同県大洗港に向けて帰航中、前路に存在する他船を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、錨泊中のガット船の錨索を替わそうとして同索に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の長生丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、海春丸の右舷外板に擦過傷を生じ、長生丸の左舷外板に亀裂及び上部構造物に損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に関しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、茨城県鹿島港の工事現場において、他船に移乗するため長生丸を離れる場合、B受審人が無資格であることを知っていたのであるから、同人に対し、長生丸を係留しておくよう指示すべき注意義務があった。しかしながら、A受審人は、これまでもB受審人に漂泊位置を移動するなどの操船を委ねたことがあり、航行中の操船でないので大丈夫と思い、係留しておくよう指示しなかった職務上の過失により、B受審人が漂泊して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、茨城県鹿島港において、船長が長生丸を離れ、自ら操船して漂泊中、自船に向首して接近する海春丸を認めた場合、自船の存在を知らせるための注意喚起信号を行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、接近中の海春丸は自船の存在に気付いており、もう少し接近してから避けるものと思い、注意喚起信号を行わなかった職務上の過失により、船尾方から向首接近する海春丸に注意換起信号を行うことなく漂泊を続けて衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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