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1998年(平成10年)

平成9年横審第60号
    件名
旅客船第二十一鳥羽丸漁船広栄丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年7月3日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

長浜義昭、猪俣貞稔、西村敏和
    理事官
関隆彰

    受審人
A 職名:第二十一鳥羽丸船長 海技免状:六級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:広栄丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
鳥羽丸…左舷船首部の水線上に破口
広栄丸…船首部防舷材を破損

    原因
広栄丸…見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
鳥羽丸…横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    二審請求者
理事官大本直宏

    主文
本件衝突は、広栄丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る第二十一鳥羽丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第二十一鳥羽丸が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年12月19日11時05分
三重県鳥羽港
2 船舶の要目
船種船名 旅客船第二十一鳥羽丸 漁船広栄丸
総トン数 88.96トン 0.9トン
全長 23.93メートル
登録長 22.00メートル 7.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 183キロワット
漁船法馬力数 25
3 事実の経過
第二十一鳥羽丸(以下「鳥羽丸」という。)は、三重県鳥羽港と同港東方の諸島との間の定期航路に従事するFRP製旅客船で、A受審人ほか2人が乗り組み、旅客15人を乗せ、船首0.6メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成8年12月19日11時00分鳥羽港中之郷桟橋を発し、坂手島の坂手漁港に向かった。
ところで、鳥羽港港域内にある、坂手島南側と鳥羽市街との間の水道(以下「水道」という。)は、長さが約1.5キロメートル、幅が最狭部で約450メートルの、坂手島南端の尾ケ埼付近を頂点とし、逆への字型に緩やかに屈曲して東西に延びる狭い水道であった。
A受審人は、11時01分少し過ぎ鳥羽坂手港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から242度(真方位、以下同じ。)1,290メートルの地点において、針路を045度に定め、機関を全速力前進にかけて10.5ノットの対地速力とし、自ら手動操舵にあたり、甲板員1人を見張りに就け、水道の西口に向けて進行し、同時03分少し前南防波堤灯台から252度870メートルの地点に達したとき、水道の西口に至ったので102度の針路に転じ、約0.1ノットの西方に流れる潮流に抗して10.4ノットの対地速力で、水道の右側をこれに沿って東行した。
A受審人は、転針した直後左舷船首22度840メートルのところに、尾ケ埼の陰から現れた広栄丸を視認できる状況となり、11時03分少し過ぎ同方位650メートルに水道を西行する同船を初認し、その後前路を右方に横切り、その方位にほとんど変化がなく衝突のおそれのある態勢で接近していることを知った。
A受審人は、広栄丸の動静を監視しながら続航し、避航の気配が認められないので警告信号を吹鳴したものの、依然その気配が認められず間近に接近したが、同船が警告信号を聴取し、水道の屈曲部でもあるので、いずれ水道に沿うよう右転して避航するものと思い、行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとらずに進行したところ、なおも自船の進路を避けずに水道を斜航するように接近してくるので、11時04分半左舷船首32度120メートルに広栄丸を認めたとき、ようやく危険を感じて機関を全速力後進にかけ、右舵15度とした。
鳥羽丸は、行きあしが止まったものの、11時05分南防波堤灯台から209度450メートルの地点において、129度に向首した左舷船首と、広栄丸の船首とが直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力3の西北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、付近海域には約0.1ノットの西流があり、視界は良好であった。
また、広栄丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が単独で乗り組み、船首0.2メール船尾0.4メートルの喫水をもって、同日07時00分中之郷桟橋南測の船溜(だま)りを発し、坂手島南東沖合の横瀬付近の漁場に至って赤魚数十匹を獲り、10時53分操業を終えて同船溜りへ向かった。
B受審人は、水道の東口に至り、10時59分少し前南防波堤灯台から091度620メートルの地点において、針路を264度に定め、主機回転数毎分1,200にかけ、約0.1ノットの西流に乗じて5.1ノットの対地速力とし、手動操舵で水道を西行したが、周囲に他船を認めなかったことから、舵輪から手を離し、操舵室後方のハッチ蓋に前方を向いて座り、漁具の後片付けを始めた。
B受審人は、11時02分少し過ぎ南防波堤灯台を右舷側80メートルに認めたので水道の南岸に向く219度に針路を転じ、再び舵輪から手を離して続航し、11時03分少し前南防波堤灯台から178度130メートルの地点に達したとき、右舷船首41度840メートルの水道の西口付近に、尾ケ埼の陰から現れて水道を東行中の鳥羽丸を視認することができ、その後前路を左方に横切り、その方位に変化がなく衝突のおそれのある態勢で接近していることを認め得る状況にあったが、漁具の後片付けに気を取られて周囲の見張りを行わず、鳥羽丸の存在に気付かなかった。
B受審人は、警告信号を吹鳴して接近する鳥羽丸に依然気付かず、トウラ灯浮標を右舷側に110メートル離して通過し、水道の屈曲部を南岸に向けて斜航する態勢で、鳥羽丸の進路を避けないまま進行中、11時05分わずか前右舷船首至近に迫った同船を初めて視認し、機関を全速力後進にかけたものの、効なく、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、鳥羽丸は、左舷船首部の水線上に破口を生じ、広栄丸は、船首部防舷材を破損したが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、三重県鳥羽港域内の坂手島南側の水道において、両船が互いに進路を横切り、衝突のおそれのある態勢で接近中、水道を斜航しながら西行する広栄丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る鳥羽丸の進路を避けなかったことによって発生したが、水道の右側に寄って東行する鳥羽丸が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、鳥羽港港域内の坂手島南側の水道において、水道を斜航しながら西行する場合、右方から接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、転針時に前方に他船がいなかったことから水道を航行する他船はいないものと思い、操舵室後方のハッチ蓋に座り漁具の後片付けをしていて、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近する鳥羽丸に気付かず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、広栄丸の船首部防舷材に損傷を、鳥羽丸の左舷船首部に破口をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、鳥羽港港域内の坂手島南側の水道において、水道の右側に寄って東行中、前路を右方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近する広栄丸に警告信号を吹鳴しても避航の気配が見られず、間近に接近したことを認めた場合、衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、広栄丸が警告信号を聴取し、水道の屈曲部でもあるので、いずれ水道に沿うよう右転して避航するものと思い、衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、前示のとおり損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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