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1998年(平成10年)

平成10年仙審第3号
    件名
貨物船あさかぜ漁船栄幸丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年7月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

?橋昭雄、安藤周二、供田仁男
    理事官
上中拓治

    受審人
A 職名:あさかぜ船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:あさかぜ二等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:栄幸丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
あさかぜ…左舷側中央部に擦過傷
栄幸丸…船首部を圧壊

    原因
あさかぜ…狭視界時の航法(速力、信号、レーダー)不遵守
栄幸丸…狭視界時の航法(信号)不遵守

    主文
本件衝突は、あさかぜが、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、栄幸丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年12月28日10時40分
青森県平舘海峡
2 船舶の要目
船種船名 貨物船あさかぜ 漁船栄幸丸
総トン数 1,134トン 4,8トン
全長 88.68メートル×
登録長 12.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 4,413キロワット
漁船法馬力数 70
3 事実の経過
あさかぜは、北海道函館港と青森港間の定期航路に就航する船首船橋型の貨物自動車フェリーで、A及びB両受審人ほか、10人が乗り組み、乗客9人を乗せ、車両9台を積載し、船首3.40メートル船尾3.50メートルの喫水をもって、平成8年12月28日08時10分函館港を発し、青森港に向かった。
08時40分A受審人は、葛登支岬灯台から110度(真方位、以下同じ。)1.5海里の地点に至り、出港操船を終えてB受審人に船橋当直を委ねるにあたり、寒冷前線の接近に伴う降雪が予想され視界が悪化したときには自ら操船の指揮を執る必要があったが、平素、視界が著しく狭められる状況となったときには報告することを指示していたから、視界制限状態になればその旨の報告を得られるものと思い、視界制限時の報告についての指示を与えず、波が高くなったら報告するようにとだけ伝えて降橋した。
B受審人は、甲板手と共に船橋当直に就いて津軽海峡を横断するうち、09時ごろから断続的に降雪域が来襲し、その度に視界が狭められる状況となったことから、船橋中央部の操舵スタンド右隣りにあるデイライト表示方式レーダーを作動のうえ甲板手をその監視に専念させ、自らは船橋前部と同レーダーとの間を行き来して目視とレーダーとによる見張りを行った。
09時52分B受審人は、高野埼灯台から007度10海里の地点に達したとき、針路を平舘海峡中央部にあたる、明神埼東方2海里の予定転針地点に向く159度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの微弱な潮流により2度左方に圧流されながら17.6ノットの対地速力で進行した。
10時26分半B受審人は、転針地点まで約4海里に近付いたとき、同航船の左舷側を約1海里隔てて追い越したところ、同地点で針路を右方に転じると同船の前路を横切ることになるので、同時30分操舵スタンドの後方に立ち、転針できるものかどうか思案しながら、明神埼を捕捉するために6海里レンジとしていたレーダーを甲板手の横からのぞき、同航船の動静監視を行った。
10時35分B受審人は、降雪域に入って視程が200メートルになり視界制限状態となったが、降雪は長く続かないものと思い、この状況をA受審人に報告しなかったばかりか安全な速力に減じることや霧中信号を吹鳴することも、航行中の動力船の灯火を点灯することもせず、また、適宜近距離レンジに切り替えたうえ海面反射抑制の調節を行うなどのレーダーを適切に使用した見張りを十分に行わないまま続航した。
10時36分半わずか過ぎB受審人は、平館灯台から065度2.4海里の地点に至ったとき、ほぼ正船首1海里に栄幸丸の映像を探知することができ、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、転針地点が近いことから追い越した同航船の動静に気をとられ、レーダーによる見張りを十分に行うことなく、レーダーレンジを6海里として海面反射の中に紛れた船体の小さい栄幸丸の映像を探知することができず、これに気付かないまま、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもせずに平舘海峡を南下した。
10時40分少し前B受審人は、視線をレーダーから前方に移したところ、船首わずか左100メートルに波間に見え隠れする栄幸丸を初めて認め、急ぎ操舵を手動に切り替えて右舵一杯としたが及ばず、10時40分平館灯台から087度2.6海里の地点において、あさかぜは、船首が165度を向いて原速力のまま、その左舷側中央部に栄幸丸の船首が前方から80度の角度で衝突した。
当時、天候は雪で風力4の西風が吹き、視程は200メートルで、波高1.5メートルの波浪があった。
A受審人は、衝突した旨の報告を受けて直ちに昇橋し、事後の措置にあたった。
また、栄幸丸は、毎年12月初旬から翌年2月初旬までの期間だけ運航されて底建網によるまだら漁に従事するFRP製漁船で、船体中央部に機関室囲壁を設けてその後面に舵輪を設置し、船尾端左舷側の甲板上に長さが2メートルで頂部にレーダー反射器を取り付けた着脱式の支柱を備えていたものの、汽笛、レーダー及び灯火の設備がなかった。
C受審人は、冬期の操業中には降雪によりしばしば視界が著しく制限される状況となるので、栄幸丸に視界制限状態における音響信号を行うことができる手段を講じる必要があったものの、今まで特に支障なく操業を行ってきたことから、同手段を講じることなく、甲板員2人と共に同船に乗り組み、揚網の目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日07時青森県九艘泊(くそうどまり)漁港を発し、底建網を設置してある平舘海峡中央都の漁場に向かった。
ところで、底建網は、垣網、身網及び袋網から成り、錨によって水深65メートルの海底に固定されて、身網が網口付近で垣網側と袋網側とに2分割できるようになっており、両分割面が閉じ綱によって接合され、接合部に係止された巻揚綱が海面まで延び、同綱には海面上に浮子及びその下方20メートルの海中に予備浮子が取り付けられていた。そして、揚網は、巻揚綱を巻いて引き揚げられた身網の閉じ綱を解き、分割した同網を左右両舷側から船上に引き揚げて船体上の一面にかぶせたのち、閉じ綱で再び接合し、身網及び袋網を手繰り寄せるとともに、船上にたまる網を反対舷から海中に戻し、袋網先端部に入った魚を取り込むものであった。したがって、揚網中は身網または袋網が船体を覆っており、機関を使用するなどして移動することができない状態となっていた。
07時20分C受審人は、漁場に到着したところ、海面上の浮子が流失して底建網の所在が分からなかったので、魚群探知機で探索を行ううち、09時ごろから断続的に降雪域が来襲し始め、その度に視界が狭められる状況でようやく同網を発見し、揚網を開始して予備浮子を引き揚げ、10時18分身網が海面まで揚がったころ、作業のじゃまにならないようレーダー反射器の付いた支柱を外し揚網を続けた。
10時28分C受審人は、閉じ綱を解いたころ、降雪域が来襲して視程が200メートルになり視界制限状態になったのを認めたが、音響信号設備設を備えていなかったので、霧中信号を吹鳴できないまま船首を265度に向け、機関を中立運転として行きあしを止め、左右両舷側から身網を船上に引き揚げた。
10時39分半わずか過ぎC受審人は、左舷側中央部で身網を接合していたとき、甲板員の知らせで右舷船首72度200メートルのところに自船に向首して接近するあさかぜを初めて視認したが、どうすることもできず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、あさかぜは左舷側中央部に擦過傷を生じ、栄幸丸は船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、降雪による視界制限状態の平舘海峡において、南下中のあさかぜが、安全な速力に減じることも、霧中信号を吹鳴することもせず、レーダーによる見張り不十分で、停留して底建網を揚網中の栄幸丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、栄幸丸が、視界制限状態における音響信号を行うことができる手段を講じず、霧中信号を吹鳴しなかったこととによって発生したものである。
あさかぜの運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対して視界制限時の報告についての指示を与えなかったことと、船橋当直者が、視界制限状態について報告しなかったこと及びレーダーによる見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
A受審人は、函館港を出港して津軽海峡を南下するにあたり、航海士に船橋当直を委ねる場合、寒冷前線の通過に伴う降雪が予想される状況であったから、視界が悪化したときには自ら操船の指揮が執れるよう、視界制限時の報告についての指示を与えるべき注意義務があった。しかし、同人は、平素、視界が著しく狭められる状況となったときには報告することを指示していたので、視界制限状態になればその旨の報告を得られるものと思い、視界制限時の報告についての指示を与えなかった職務上の過失により、船橋当直者から視界制限状態となったときの報告を得られず、自ら操船の指揮を執れなかったことにより、揚網中の栄幸丸との衝突を招き、同船の船首部を圧壊させ、あさかぜの左舷側中央部に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、船橋当直に就いて平舘海峡を転針地点に向け南下中、降雪により視界が著しく狭められる状況となった場合、前路で停留して揚網中の栄幸丸の映像を見落とすことのないよう、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、右舷後方近距離を同じ転針地点に向けて同航する被追越船の動静に気をとられ、適宜近距離レンジに切り替えたうえ海面反射抑制の調節を行うなどしてレーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、レーダーレンジを6海里として海面反射の中に紛れた船体の小さい栄幸丸の映像を探知できないまま進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、平舘海峡中央部の漁場に向けて九艘泊漁港を出港する場合、冬期の操業中には降雪によりしばしば視界が著しく狭められる状況となるから、視界制限状態における音響信号を行うことができる手段を講じるべき注意義務があった。しかし、同人は、今まで特に支障なく操業を行ってきたことから、視界制限状態における音響信号を行うことができる手段を講じなかった職務上の過失により衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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