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1998年(平成10年)

平成10年函審第9号
    件名
漁船第二十七まるや丸貨物船ソナタ衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年7月8日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大石義朗、米田裕、大山繁樹
    理事官
千手末年

    受審人
A 職名:第二十七まるや丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
まるや丸…船首左舷側ファッションプレートに破口を伴う擦過傷
ソナタ…船首ファッションプレートを圧壊

    原因
まるや丸…見張り不十分、船員の常務(避行動作)不遵守

    二審請求者
理事官千手末年

    主文
本件衝突は、第二十七まるや丸が、見張り不十分で、錨泊中のソナタを避けなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年12月2日19時20分
北海道小樽港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十七まるや丸 貨物船ソナタ
総トン数 127トン 187トン
全長 37.56メートル 30.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 647キロワット 221キロワット
3 事実の経過
第二十七まるや丸(以下「まるや丸」という。)は、かにかご漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人、B指定海難関係人ほか8人が乗り組み、操業の目的で、船首2.0メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、平成8年12月2日19時10分小樽港北副防波堤灯台(以下航路標識については「小樽港」を省略する。)から291度(真方位、以下同じ。)2,130メートルの小樽港の北浜岸壁を発した。
A受審人は、出航するにあたり、自分より経験があるB指定海難関係人に操船指揮を任せても大丈夫と思い、出航の操船指揮を自ら執ることなく、離岸したあと操舵室やや右舷寄りでレーダー見張りに当たった。
B指定海難関係人は、発航時から操船に当たり、第3ふとう沖合に密集していた錨泊船を避けて北防波堤寄りの迂回コースをとることとし、操舵室左舷側で遠隔操舵装置を使い徐々に右舵をとってゆるやかに右回頭をしながら、半速力5.0ノットの対地速力で進行し、19時18分少し前北副防波堤灯台から301度1,450メートルの地点に至り、錨泊中のタンカー船を左舷近距離に替わして針路を101度に定めたとき、右舷船首5度350メートルばかりのところに錨泊中のソナタの白1灯を視認できる状況にあった。しかし、同人は、暗く凍結して足場の悪い前部甲板で操業準備をしていた甲板員の作業の様子を左舷端の前面窓から身を乗り出して見たり、左舷前方の防波堤の外側で明るい灯火を、点灯して錨泊していたフェリーを入航船と思ってその動静に気をとられ、前路を十分に見張っていなかったので、ソナタが存在することに気付かず、同時18分少し過ぎレーダーを監視していたA受審人が「前に船がいる。」と伝え、更にその後2回にわたり同様のことを伝えてきたことにも気付かなかった。
一方、A受審人は、19時18分少し過ぎ北副防波堤灯台から302度1,400メートルの地点に達したとき、レーダーで右舷船首6度300メートルのところにソナタの映像を認め、B指定海難関係人に対し「前に船がいる。」と伝え、その後同様のことを2回にわたり伝えたものの同人からは返事がなかったが、これまで聞こえていても返事をしないことがあったので、同人はソナタの存在に気付いているものと思い、その確認をしなかった。
19時19分少し過ぎB指定海難関係人は、ソナタが右舷船首19度100メートルとなったとき、針路を120度に転じたところ、同船に向首することとなったが、依然前路を十分に見張っていなかったので、このことに気付かずに同船を避けることができず、また、A受審人は、レーダーで同船に向首して接近していることを認めたが、そのうちB指定海難関係人が避航の措置をとるものと思い、自らが同人に代わって操船の指揮を執り同船を避ける措置をとることなく進行中、同時20分わずか前B指定海難関係人が船首至近に同船の船影を認め、右舵一杯をとったが、及ばず、19時20分北副防波堤灯台から306度1,130メートルの地点で、125度を向き原速力のままのまるや丸の左舷船首がソナタの船首に前方から30度の角度で衝突した。
当時、天候は雪で風力2の西風が吹き、視程は約2,000メートルであった。
また、ソナタは、冷凍品を運搬する鋼製貨物船で、船長Cほか11人が乗り組み、冷凍えび13.7トンを載せ、同年11月21日20時ごろサハリン州コルサコフ港を発し、小樽港外に至って錨泊待機し、同月25日08時40分中央ふとうに着岸して揚荷役を行ったのち、荒天のため出航を見合わせて第1区で錨泊することになり、船首1.8メートル船尾2.3メートルの喫水をもって、同月28日16時ごろ同ふとうを離れ、北防波堤から200メートル離れた前示衝突地点付近で、左舷錨鎖を3節延ばして錨泊を開始した。
越えて12月2日18時ごろC船長は、甲板員1人とともに船橋当直に就き、フォアステー上方に掲げた錨泊を表示する白色全周灯1個が点灯していることを確認し、19時16分半少し過ぎ船首が275度に向いていたとき、右舷船首方510メートルのところにまるや丸の白、紅、緑の3灯を初認した。
C船長は、その後まるや丸の動静を監視していたところ、やがて白、紅の2灯のみを見せるようになり、19時18分少し前同船が350メートルに接近したころから紅灯が見えなくなって緑灯を見せるようになったあと、同時19分少し過ぎ同船が100メートルに接近したとき、再び白、紅、緑の3灯を見せ、その後自船に向首して接近していることを認めたが、どうすることもできないでいるうちに、ソナタが275度を向首して前示のとおり衝突した。
衝突の結果、まるや丸は船首左舷側ファッションプレートに破口を伴う擦過傷を生じ、ソナタは船首ファッションプレートを圧壊したが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、小樽港において、出航中のまるや丸が、見張り不十分で、錨泊中のソナタを避けなかったことによって発生したものである。
まるや丸の運航が適切でなかったのは、船長が自ら操船の指揮を執らなかったことと、漁労長が見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、小樽港を出航する場合、自ら操船の指揮を執るべき注意義務があった。しかるに、同人は、経験が豊富な漁労長に任せておけば大丈夫と思い、自ら操船の指揮を執らなかった職務上の過失により、操船の指揮を執った漁労長が前路で錨泊中のソナタの存在に気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、まるや丸の船首左舷側ファッションプレートに破口を伴う擦過傷及びソナタの船首ファッションプレートに圧壊を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、夜間、小樽港を出航する際、前路の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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