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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年7月30日17時06分 大分県佐伯湾 2 船舶の要目 船種船名 交通船進栄丸
漁船八幡丸 総トン数 7.3トン 4.8トン 登録長 11.98メートル 10.75メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
264キロワット 漁船法馬力数 15 3 事実の経過 進栄丸は、船体中央部に操舵室を、その後方に客室を設けた定員13人のFRP製交通船で、A受審人が1人で乗り組み、乗客8人を乗せ、平成8年7月30日17時00分大分県南海部郡鶴見町大島の地下(じげ)を発し、定係港である同町地松浦に向かった。 A受審人は、進栄丸を使用して遊漁船業のほか、交通船としての海上タクシー業も行っており、3ヶ月ほど前から大島の地下で行われている建設工事に従事する作業員の送迎を建設会社から請け負い、07時ごろ作業員を乗せ地松浦を発航して大島の地下に送り届け、17時に地下に迎えに行く運航を続けており、佐伯湾内の通航には十分慣れていた。 A受審人は、17時少し過ぎ豊後大島港西防波堤灯台から226度(真方位、以下同じ。)800メートルの地点に達して地下の防波堤入口を通過したとき、いつものように針路を272度に定め、機関を全速力前進より少し下げた回転数毎分1,800にかけて16.0ノットの対地速力で、舵輪後方の椅子に腰掛け、操舵と見張りに当たり野崎鼻を船首目標にして進行した。 A受審人は、17時01分半赤鼻を右舷側近くに通過して右舷前方が広く見通せるようになったとき、右舷船首9度1.8海里のところに、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する八幡丸を視認できる状況にあった。しかしながら、同人は、赤鼻を通過したころ右舷前方を一瞥(べつ)したのみで、右舷方に航行の支障となる他船はいないものと思い、平素小型漁船を多く見掛けていた左舷前方の宇戸島近くを見張ることに気をとられ、折からの強い西日による海面反射もあって右舷前方の見張りが不十分となり、八幡丸を見落としたまま続航した。 こうして、A受審人は、左舷方の陸岸近くに他船を見掛けなかった安心感で気が緩み、船首目標にしている野崎鼻を船首方に見定めながら依然として右舷方の見張りを行わなかったので、八幡丸の接近に気付かず、右転するなどしてその進路を避ける措置をとらないまま進行中、17時06分わずか前、客室付近の右舷側通路に立っていた乗客の「船だ、危ない。」との叫び声で、初めて八幡丸が右舷前方至近のところに迫っていることに気付き、衝突角度を小さくするようとっさに右舵一杯をとったが、効なく、17時06分竹ケ島灯台から116度2.9海里の地点において、原針路、原速力のままの進栄丸の右舷側前部に、八幡丸の船首が、前方から28度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力1の南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視界は良好であった。 また、八幡丸は、小型機船底曳網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が妻と2人で乗り組み、操業の目的で、船首0.30メートル船尾1.40メートルの喫水をもって、同日16時15分大分県佐伯市大入島の日向泊浦を発し、元ノ間海峡経由で豊後水道の水ノ子島南方漁場に向かった。 B受審人は、自ら操船に当たり、竹ケ島北東方近くに向かって進行し、16時44分竹ケ島灯台から030度350メートルの地点に達したとき、針路を120度に定め、機関を全速力前進にかけて8.0ノットの対地速力で、元ノ間海峡西口に向かって進行した。 B受審人は、竹ケ島付近に散在していた漁船を替わし終えた安心感と、前方に他船を見掛けなかったことで気が緩み、やがて自動操舵にして操舵室内の敷板に腰掛け、網の修理に用いる網針に糸を掛ける作業に取りかかり、時折立ち上がってはいたものの、見張り不十分のまま続航した。 こうして、B受審人は、17時01分半竹ケ島灯台から115度2.3海里の地点に達したとき、左舷船首19度1.8海里のところに赤鼻の陰から現われ前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近してくる進栄丸を視認できる状況にあった。しかしながら、同人は、妻を操舵室で休息させ、自らは網針に糸を掛ける作業を続けているうち、糸が絡んでしまいこれを解くことに気をとられ、前方の見張りを行わなかったので、進栄丸を見落としたまま進行し、避航動作をとる気配のないまま接近する進栄丸に対して、備え付けの汽笛により警告信号を行わず、更に間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとらないでいるうち、突然衝撃を受けて、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。 衝突の結果、進栄丸は、右舷船首部外版に擦過傷を生じ、衝突時の衝撃により乗客のCが入院加療を要する下顎骨折、左手挫創及び頭部打撲傷を、同Dが、入院加療を要する脳挫傷などを負い、八幡丸は、船首部を損傷した。
(原因) 本件衝突は、大分県佐伯湾において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、進栄丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る八幡丸の進路を避けなかったことによって発生したが、八幡丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、大分県佐伯湾を西行する場合、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する他船を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷前方を一瞥したのみで、右舷には航行の支障となる他船はいないものと思い、平素小型漁船を多く見掛けていた左舷前方の宇戸島近くを見張ることに気をとられ、右舷前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、八幡丸が衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、右転するなどして八幡丸の進路を避ける措置をとらないで同船との衝突を招き、進栄丸の右舷側前部に擦過傷を、八幡丸の船首部外板に損傷を生じさせ、進栄丸の乗客2人に入院加療を要する下顎骨折や、脳挫傷などを負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、大分県佐伯湾を南下する場合、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する他船を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方を一瞥したのみで、前路に航行の支障となる他船はいないものと思い、網の修理に用いる網針の糸の絡みを解くことに気をとられ、左舷前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、進栄丸が衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、警告信号を行わず、右転するなどして衝突を避けるための協力動作をとらないで進栄丸との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、進栄丸の乗客を負傷させるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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