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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年7月13日14時55分 熊本県球磨川人吉大橋 2 船舶の要目 船種船名
川下り船千鳥 登録長 9.45メートル 3 事実の経過 千島は、熊本県球磨川の人吉市付近において、観光客を乗せ急流の川下りをする木製川下り船で、指定海難関係人Aほか1人が乗り組み、テレビ取材の関係者3人を乗せ、船首0.13メートル船尾0.18メートルの喫水をもって、平成9年7月13日14時50分同市人吉発舟場を発し、下流のJR渡駅付近の着舟場に向かった。 ところで、球磨川下りは、人吉市も出資するA株式会社で運営されており、市街地付近の川を下る清流コースとその下流の瀬を下る急流コースとがあり、前日までの雨で水かさが増していたため、当日は清流コースのみが運航されていたが、着舟場まで途中5か所の橋があった。 A指定海難関係人は、船頭として舵板に付いて船首に立ち、船尾の艫張(ともはり)に櫓(ろ)をこがせ、船が流れに平行となるよう姿勢を制御しながら流れを下っていたところ、14時54分水の手橋を通過したとき、テレビ取材の関係者の一人からビデオ撮りのため櫓をこがせて欲しいとの要請があり、390メートルばかり下流にある人吉大橋までの間、しばらくは川幅も広く流れも比較的緩やかであったことから、その要請に応え、正規の艫張に代えて船尾での櫓こぎを許した。 A指定海難関係人は、櫓のこげない同関係者が艫張をしていて船尾の制御はできなかったものの、自身の舵板操作だけで船首方向を保ったまま、人吉大橋の北から1番目と2番目の橋脚間に向かい265度(真方位、以下同じ。)方向に流れる球磨川の本流をやや南に寄って、時速22.8キロメートルの速力で下って行き、14時54分半同橋まで190メートルばかりとなったとき、正規の艫張に櫓を代わるよう指示を出したが、自身は舵板の操作に気を奪われ、艦張が交代したことを確かめないまま進行した。 A指定海難関係人は、14時55分少し前人吉大橋まで50メートルくらいに接近したとき、橋脚も近付き水流も不規則となってきており、北から2番目の橋脚(以下単に「橋脚」という。)に寄り過ぎていると思い、舵板を操作して船首を右に向け、艫張の櫓こぎを期待して船尾を見たところ、まだ艫張が交代していないのに気付き、あわてて「代われ、代われ」と叫んだが、艫張が交代して櫓をこぐいとまもなく、14時55分JR人吉駅北方200メートルばかりの155.2メートルの三角点から136度760メートルの地点において、310度を向いた千島の左舷後部が、流れと直角に架けられた人吉大橋の橋脚に、前方から45度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、球磨地方には大雨・洪水注意報が発令中で、前日までの雨で球磨川は、水位が上昇していて流れが速かった。 衝突の結果、千鳥は衝撃で転覆し、下流に流される間に船首部両舷を圧壊して全損となり、全員が船外に投げ出されたものの、のち無事救助された。
(原因) 本件橋脚衝突は、熊本県人吉市付近の球磨川において、増水状態の川下りを行う際、水流の状況に対する配慮不十分で、未経験者に船尾での櫓こぎを任せ、姿勢制御不能のまま橋脚に向かって進行したことによって発生したものである。
(指定海難関係人の所為) A指定海難関係人が、熊本県人吉市付近の球磨川において、増水状態の川下りを行うにあたり、水流の状況に対する配慮が不十分で、未経験者に船尾での櫓こぎを許したことは、本件発生の原因となる。 A指定海難関係人に対しては、テレビ取材のための川下りで、通常の旅客を乗船させていなかった点に徴し、勧告しない。 |