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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年8月4日01時59分 関門海峡西口付近 2 船舶の要目 船種船名 貨物美保丸
貨物船ワンハイ212 総トン数 199トン
17,138トン 全長 56.04メートル
174.60メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 647キロワット
8,973キロワット 3 事実の経過 美保丸は、船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、大豆500トンを載せ、船首2.25メートル船尾3.75メートルの喫水をもって、平成8年8月3日10時15分岡山県水島港を発し、関門海峡経由で福岡県博多港に向かった。 A受審人は、同日23時00分本山灯標の東南東方8海里ばかりの地点で昇橋し、前直の甲板員から当直を引き継いで単独船橋当直に就き、航行中の動力船の灯火を表示して周防灘及び下関南東水道を西行し、翌4日01時05分部埼灯台を通過し、同時15分関門航路東口に入航して同航路を南下したのち大瀬戸の屈曲部を通過し、01時44分、関門航路第15号灯浮標(以下、関門航路各号灯浮標については、「関門航路」を省略する。)を右舷側100メートルに通過したとき、通航船が少なくなり関門航路通航操船の疲れもあったので、操舵を自動に切り替えて操舵室前面中央部の操舵装置の後方に立って操船に当たり航路の右側を西行した。 A受審人は、01時54分、台場鼻灯台から169度(真方位、以下同じ。)1,280メートルの地点に達したとき、関門航路の屈曲部を横断して関門第2航路に出ることとし、針路を第1号灯浮標の少し西方に向く316度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの順潮流に乗じて12.0ノットの対地速力で進行した。 定針したときA受審人は、以前から先航している自船より少し速力の遅い小型船の船尾灯が正船首少し左900メートルに接近したので、いずれ同船を追い越すつもりでその動静を監視しながら続航した。 A受審人は、01時56分、台場鼻灯台から201度760メートルの地点に達したとき、右舷船首25度1,650メートルのところに関門航路内の右側に沿って南下中のワンハイ212(以下「ワ号」という。)の白、白、紅3灯を視認でき、その後同船の方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めることができる状況であった。しかしながら、同人は、先航する小型船の船尾灯に気を取られて、右舷方の見張りを行わなかったので、ワ号の接近に気付かず、右転するなどしてその進路を避けないまま進行した。 A受審人は、01時58分少し過ぎ、台場鼻灯台から263度860メートルの地点に達したとき、右舷前方360メートルに迫ったワ号の白、白、紅3灯の航海灯を初めて認め、驚いて自動操舵中であることを忘れ、操舵装置のスイッチを手動に切り替えずに舵輪で右舵一杯をとり、機関を全速力後進にかけたが、右舵がとられず、自動操舵のまま直進中、01時59分台場鼻灯台から273度1,020メートルの地点において、前進惰力が6.0ノットになった美保丸の船首が、原針路のまま、ワ号の左舷側前部に前方から80度の角度で衝突した。 当時、天候は曇で風力2の南西風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、付近海域には1ノットばかりの北北西に流れる潮流があり、視界は良好であった。 また、ワ号は、船尾船橋型コンテナ船で、船長Cほか19人が乗り組み、コンテナ10,659トンを載せ、船首7.90メートル船尾9.10メートルの喫水をもって、同月3日20時48分博多港を発し、関門海峡経由で山口県徳山下松港に向かった。 C船長は、関門海峡西口に向け響灘を東行し、翌4日01時30分六連島灯台の北方1海里ばかりの地点でB受審人を乗せ、関門海峡通過の水先を依頼した。 B受審人は、C船長、二等航海士及び操舵手とともに船橋配置に就き、航行中の動力船の灯火を表示して01時38分、関門航路に入航し、同航路の右側に沿って南下し、同時55分少し過ぎ第4号灯浮標を右舷側250メートルに通過したのち同時56分、台場鼻灯台から317度1,180メートルの地点に達したとき、針路を第6号灯浮標に向首する194度に定め、機関を港内全速力前進にかけ、折からの逆潮流に抗して9.0ノットの対地速力で、関門航路の右側に沿って進行した。 定針したときB受審人は、左舷船首33度1,650メートルのところに、第5号灯浮標の陰を替わって西行する美保丸の白、白、緑3灯を初認し、汽笛により長音1回を吹鳴して注意を喚起した直後、美保丸の船首が少し右に振れたように見えたので、その動静監視に当たって続航した。 B受審人は、01時57分半、台場鼻灯台から297度1,000メートルの地点に達したとき、美保丸は依然として白、白、緑3灯を見せたまま800メートルに接近し、その針路模様から同船が衝突のおそれがある態勢で航路を横断して関門航路から関門第2航路に向け出ようとしていることを知り、また、このことに気付いたC船長は直ちに二等航海士に命じて美保丸の船橋に向け発光信号を数回発信させて避航を促したが、同船に避航の気配を認めることができなかった。しかしながら、B受審人は、注意を喚起したとき、同船の船首が少し右に振れたように見えたことから、同船が近距離のところで右転して避航するものと思い、汽笛による警告信号を行わず、直ちに機関を後進にかけるなどの衝突を避けるための措置をとることなく、進行した。 B受審人は、01時58分少し過ぎ、美保丸が360メートルに接近したとき、初めて衝突の危険を感じ、右舵一杯を令したが、及ばず、船首が216度に向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、美保丸は船首部外板及び球状船首を圧壊し、ワ号は左舷側前部外板に凹損を生じた。
(原因) 本件衝突は、夜間、関門港竹ノ子島西方沖合の関門航路の屈曲部において、関門航路から関門第2航路に出ようとする美保丸が、見張り不十分で、関門航路をこれに沿って航行するワ号の進路を避けなかったことによって発生したが、ワ号が警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、関門港竹ノ子島西方沖合の関門航路の屈曲部において、関門航路を横断して関門第2航路に出ようとする場合、右舷前方から関門航路を南下する他船を見落とすことのないよう、右舷前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。 しかるに、同人は、船首方を先航する第3船に気を取られ、右舷前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、関門航路を航行中のワ号の進路を避けないまま進行して衝突を招き、美保丸の船首部外板及び球状船首を圧壊させ、ワ号の左舷側前部外板に凹損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、夜間、関門港竹ノ子島西方沖合の関門航路の屈曲部を南下中、左舷前方に関門航路を西行中の美保丸の灯火を視認し、同船が衝突のおそれがある態勢で航路を横断して関門航路から関門第2航路に出ようとしていることを知り、同船に避航の気配が認められなかった場合、直ちに機関を後進にかけるなどの衝突を避けるための措置を取るべき注意義務があった。しかるに、同人は、注意を喚起したとき同船の船首が少し右に振れたように見えたことから近距離のところで右転して避航するものと思い、汽笛による警告信号を行わず、機関を後進にかけるなどの衝突を避けるための措置を取らないまま進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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