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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年3月16日02時20分 長崎県伊王島西方沖合 2 船舶の要目 船種船名 貨物船第三十八協徳丸
漁船第三十五恵美須丸 総トン数 199トン
160トン 全長 37.84メートル 登録長 54.31メートル 機関の種類
ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 514キロワット
742キロワット 3 事実の経過 第三十八協徳丸(以下「協徳丸」という。)は、長崎県の長崎、福江両港間を定期運航する鋼製貨物船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか1人が乗り組み、荷主関係者10人を乗せ、雑貨250トンを積み、船首1.30メートル船尾3.00メートルの喫水をもって、平成8年3月16日00時20分長崎港を発し、福江港に向かった。 A受審人は、出港後単独で当直にあたり、00時50分伊王島灯台から353度(真方位、以下同じ。)0.5海里の地点に達したとき、いつものようにジャイロコンパスの示度で273度に針路を定め、B指定海難関係人に当直を引き継いだが、長年一緒に乗船していて、同人の技量に信頼を置いており、他船と接近中は安全にかわるまで、その動静監視を行うよう指示を与えないまま、操舵室後部の畳の間に横になって休息をとった。 ところで、協徳丸のジャイロコンパスには大きな誤差があり、とりあえず定針時には海図上の針路線より4度右に針路を修正していたが、通常はレーダーで30海里ばかりに船首目標をとらえると、それに向けて進行していたので、実際の誤差は定かでなかった。 B指定海難関係人は、当直を交代して間もない01時00分自動操舵とし、操舵輪後方のいすに腰かけて見張りにあたり、機関を11.7ノットの全速力前進にかけ、265度の針路で進行した。 B指定海難関係人は、02時01分左舷船首6度6海里のところに第三十五恵美須丸(以下「恵美須丸」という。)が第三十六恵美須丸(以下「従船」という。)を引く恵美須丸引船列の灯火を初めて認め、6海里レンジとしたレーダーを併用してその動静監視にあたり、同時14分左舷船首10度1.9海里に同引船列の白灯を多数見たとき、航海灯の表示状況まで確認しなかったものの、レーダー画面上に表示された映像とその航跡からみて、同引船列とは十分な航過距離で左舷を対してかわる態勢にあるものと判断して続航した。 B指定海難関係人は、02時17分左舷船首13度0.9海里に恵美須丸を視認したとき、同船が航路をわずかに左に転じたことに気付かないままに再度レーダーを見て、同船との航過距離が少し狭まったようには感じたものの、依然として左舷を対して無難にかわっていく態勢にあったことから、その後同船の動静を注意深く監視せず、いすに腰掛けたまま、漫然と前方を見ながら進行した。 B指定海難関係人は、02時19分左舷船首21度500メートルに恵美須丸が接近したとき、それまで小刻みに左転していた同船が急に大きく左転を始めていたが、操舵室左舷前部角の陰に入って視野から外れ、その状況に気付かずそのまま進行中、同時20分少し前左舷側前面ガラス窓を通し、同船が自船の前路に向首して接近しているのを認め、自動操舵の針路設定ダイヤルを右に20度回したのち、手動に切り替えて右舵一杯としたものの、衝突を避けるための措置が遅きに失し、02時20分伊王島灯台から266度17.6海里の地点において、原速力のまま原針路から右に30度回頭して295度を向いた協徳丸の左舷後部に、恵美須丸の右舷船首部が後方から60度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力2の東北東風が吹き、視界は良好であった。 A受審人は、自動操舵装置の警報音を聞き、異常を感じて操舵室前部に赴き、至近に迫った恵美須丸を発見したが、何等の措置をとるいとまもなく、事後の処理にあたった。 また、恵美須丸は、主船として2そう底引き網漁業に従事する鋼製漁船で、C受審人及びD指定海難関係人ほか7人が乗り組み、同年1月31日09時00分従船と共に長崎港を発し、済州島南方漁場に至って操業を行ったが、従船の機関故障に伴い操業を中止し、越えて3月15日07時45分船首3.00メートル船尾4.00メートルの喫水をもって、北緯32度03分東経126度53分の地点を発し、従船を引き、帰航の途についた。 C受審人は、発航時GPSプロッタで伊王島近くに設定したポイントを入力して針路を074度に定め、機関を全速力前進にかけほぼ8.0ノットの曳(えい)航速力で進行し、しばらくして、4人の甲板員に3時間交代で航海当直を行わせることとし、危険があったら船長を起こすようにと日頃漠然と言い伝えていたことから大丈夫と思い、曳航という当時の特殊な状況下で、当直者個々の技量を考慮のうえ、他船と接近したら報告するよう具体的な指示を行うことなく降橋した。 ところで、恵美須丸は、径54ミリメートルのワイヤ芯入り合成繊維の操業用ロープを8本連結した長さ660メートルの曳索を使用して総トン数、長さ及び喫水も自船と同じ同型の従船を引き、夜間は、通常の航海灯のほかマスト灯上方に白色全周灯を掲げ、後部には曳索を照らす作業灯を後方に向けて点灯し、また、従船は、マスト灯を除く航海灯のほか作業灯を、点灯し、船橋に当直者を配していた。 D指定海難関係人は、翌16日00時00分に03時までの予定で当直を交代し、海図台に腰かけ、プロッタに表示されている074度の予定針路を自動操舵で航行中、02時11分右舷船首3度2.9海里のところに協徳丸の灯火を初めて認め、立ち上がって操舵輪の前に行き同船の動静を監視しながら続航し、同時14分右舷船首1度1.9海里のところに接近した同船を認めたものの、マスト灯には気付かないままに、やや針路の交差した行会いに近い反航船であるものの、左舷を対して0.2海里隔てて無難にかわる態勢にあるとの判断ができず、同船が同航路で針路がいくぶん交差しているものと誤認し、船長に報告して指示を仰ぐこともなく、自船が少し左に転針すればよいと考え、自動操舵装置の針路設定ダイヤルで5度左に針路を転じて069度の針路とした。 D指定海難関係人は、協徳丸と接近するに伴い、いったん開いた見合い角度がまた狭まってきたように感じ、02時16分同船を右舷船首4度1.2海里に見る態勢となったとき、さらに5度左に転じて針路を064度としたが、同時18分同船を同6度0.6海里に見る態勢となり、相変わらず同船の態勢を判断できぬままに同様に5度左転して059度の針路で進行した。 D指定海難関係人は、02時19分協徳丸を右舷船首5度500メートルに見る態勢となったとき、3回の変針にもかかわらず同船との見合い角度が開いてもすぐにまた元に戻ってきたことから、初めて同船が針路を交差して反航することを覚ったものの、それまで左転してきた経緯もあって、右転する考えが浮かばないままに、今度は大きく左に進路を転じ、同船との新たな衝突の危険を生じさせ、同船とさらに接近するに及んで手動操舵に切り換え左舵一杯としたが、原針路より64度回答してして355度を向き、回頭による減速でやや速力を落として前示のとおり衝突した。 C受審人は、衝突の衝撃で直ちに昇橋し、事後の処理にあたった。 衝突の結果、協徳丸は、左舷後部外板に凹損を生じ、恵美須丸は右舷船首外板に亀(き)裂と凸損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、長崎県伊王島西方沖合で、恵美須丸が、機関故障の従船を引いて航行する際、動静監視不十分で、無難にかわる態勢にあった協徳丸に対し新たな衝突の危険のある関係を生じさせたことによって発生したが、協徳丸が動静監視不十分で、衝突を避けるための措置が遅れたことも一因をなすものである。 恵美須丸の運航が適切でなかったのは、船長が航海当直者の技量を考慮して、他船が接近したら報告するよう具体的な指示を行わなかったことと、航海当直者が、接近する他船の動静を的確に判断できないままに、船長に報告をしなかったこととによるものである。 協徳丸の運航が適切でなかったのは、船長が、他船と接近中は安全にかわるまで、十分な動静を行うよう航海当直者に指示しなかったことと、航海当直者が、十分な動静監視を行わなかったこととによるものである。
(受審人等の所為) C受審人が、夜間、長崎県伊王島西方沖合で、機関故障の従船を引いて航行するにあたり、甲板員に航海当直を行わせる場合、操縦性が通常とは違う状況にあったのであるから、各自の技量を考慮に入れ、他船が接近したら報告するよう具体的な指示を行べき注意義務があった。しかるに、同人は、日頃は危険があれば知らせるよう言い伝えてあるので大丈夫と思い、他船が接近したら報告するよう具体的な指示を与えなかった職務上の過失により、当直者が協徳丸に対し新たな衝突の危険のある関係を生じさせ、同船との衝突を招き、同船の左舷後部外板に凹損を、自船の右舷船首外板に亀裂と凹損を生じさせるに至った。 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人が、航海当直者に対し、他船と接近中は安全にかわるまで、十分な動静監視を行うよう当直者に指示しなかったことは本件発生の原因となる。 しかしながら、このことは、恵美須丸が間近に迫ってから大きく自船の前路に進路を転じ、新たな衝突の危険のある関係を生じさせた点に徴し、A受審人の職務上の過失とするまでもない。 D指定海難関係人が、単独で当直中協徳丸と接近した際、同船の動静を的確に判断できず、適切な避航動作がとれなかったにもかかわらず、同船の接近を船長に報告しなかったことは本件発生の原因となる。 D指定海難関係人に対しては、船長の指導と指示が適切でなかった点に徴し、勧告しない。 B指定海難関係人が、恵美須丸が無難にかわる態勢で接近した際、間近に迫ってから同船の動静監視を十分に行わず、衝突を避けるための措置が遅れたことは本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては、恵美須丸が間近に迫ってから自船の前路に向け針路を転じてきた点に徴し、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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