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1998年(平成10年)

平成9年長審第74号
    件名
瀬渡船第七良和丸漁船萬徳丸衝突事件〔簡易〕

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年3月12日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

高瀬具康
    理事官
副理事官 尾崎安則

    受審人
A 職名:第七良和丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:萬徳丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
良和丸…船首部外板に擦過傷
萬徳丸…船尾部が圧壊して機関室に浸水、のち廃船、船長が2箇月の加療を要する骨折

    原因
萬徳丸…灯火・形象物不表示、船員の常務(衝突回避措置)不遵守

    主文
本件衝突は、萬徳丸が、停留中船尾灯ないし白色全周灯を表示せず、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したものである。
受審人Bを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年10月15日06時05分
五島列島漁生浦瀬戸西口南方
2 船舶の要目
船種船名 瀬渡船第七良和丸 漁船萬徳丸
総トン数 10トン 1.68トン
登録長 13.70メートル 7.05メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 433キロワット
漁船法馬力数 20
3 事実の経過
第七良和丸(以下「良和丸」という。)は、旅客定員20人のFRP製瀬渡船で、A受審人が1人で乗り組み、釣客10人を乗せ、マスト灯に代えて白色全周灯を表示したほか舷灯及び船尾灯を掲げ、船首0.85メートル船尾1.35メートルの喫水をもって、平成7年10月15日05時35分五島列島中通島の青方港を発し、同列島の若松島一ツ瀬鼻及び串島に釣客を分けて上陸させたのち、前日に同列島奈留島周辺に渡した釣客を見回る目的で、同島北東岸汐池鼻付近に向かった。
A受審人は、若松瀬戸の北口を横断したのち漁生浦瀬戸の湾曲した狭い水路を通航し、06時04分少し過ぎ同瀬戸西口にあたる、有福島馬頭山236メートル三角点(以下「馬頭山三角点」という。)から128度(真方位、以下同じ。)2,250メートルの地点に至り、針路を滝河原瀬戸の北部に向かう190度に定め、機関を半速力前進にかけ、操舵室中央の操縦席に座って手動操舵にあたり、18.0ノットの対地速力で進行した。
定針時、A受審人は、正船首方450メートルのところに停留中の萬徳丸が存在しており、その後自船が同船に向首接近して衝突のおそれがある状況であったが、成規の灯火を表示していなかった同船を視認できず、原針路、原速力のまま続航中、06時05分馬頭山三角点から137度2,470メートルの地点において、良和丸は、その船首が萬徳丸の船尾に後方から0度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の南風が吹き、潮候はほぼ低潮期であった。
また、萬徳丸は、一本釣り漁業に従事する木製漁船で、B受審人が一人で乗り組み、船首0.46メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、同日05時35分若松島榊ノ浦を発し、滝河原瀬戸北部の漁場に向かった。
B受審人は、漁生浦瀬戸を経て、06時02分前示衝突地点付近に至り、ぶりの引き釣りを行うこととし、機関を極微速力前進にかけ、折からの微弱な北流に対し船首を190度に向け、ほとんど対地速力を有しない停留状態で釣りの準備を始め、まだ付近海上がかなり暗かったが、点灯している機関室の室内灯の明かりが船外にもれているので大丈夫と思い、船尾灯ないし白色全周灯を表示することなく、マスト灯と両色灯を掲げたのみで、船尾から釣糸を延出した。
06時04分B受審人は、左舷船尾30度550メートルのところに、漁生浦瀬戸を西行する良和丸の白、紅2灯を初めて視認し、間もなく同時04分少し過ぎほぼ正船尾方向450メートルに同船の白、緑、紅3灯を認め、その後同船が自船に向首接近して衝突のおそれがある状況であったが、依然船尾灯ないし白色全周灯を表示せず、衝突を避けるための措置をとらないで更に釣糸を延ばしていた。
06時05分わずか前、B受審人は、船尾至近距離に迫った良和丸の船首部を認め、危険を感じて船首側に移動した直後、萬徳丸は、船首が190度に向いた停留状態のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、良和丸は、船首部外板に擦過傷を生じたのみであったが、萬徳丸は、船尾部が圧壊して機関室に浸水し、B受審人が2箇月の加療を要する骨折を負い、船体はのち廃船となった。

(原因)
本件衝突は、夜間、五島列島漁生浦瀬戸西口付近の滝河原瀬戸北部において、萬徳丸が、引き釣りの準備をして停留中、船尾灯ないし白色全周灯を表示せず、自船に向首接近する良和丸を認めた際、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって、発生したものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、五島列島漁生浦瀬戸西口付近の滝河原瀬戸北部において、引き釣りの準備をして停留する場合、曇天の日出前で海上がかなり暗かったのであるから、後方から接近する他船が自船の存在を認識できるよう、船尾灯ないし白色全周灯を表示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、点灯している機関室室内灯の明かりが船外にもれているので大丈夫と思い、船尾灯ないし白色全周灯の表示を怠った職務上の過失により衝突を招き、良和丸の船首部外板に擦過傷及び萬徳丸の船尾部圧壊を生じ、自ら負傷するに至った。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

参考図






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