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1998年(平成10年)

平成9年長審第70号
    件名
漁船第十八喜代丸漁船第五喜代丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年3月12日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

安藤周二、高瀬具康、関?彰
    理事官
養田重興

    受審人
A 職名:第十八喜代丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
第十八喜代丸…船首上部に深さ約10センチメートルの凹損
第五喜代丸…船橋前方右舷側ブルワークに亀裂を伴う曲損

    原因
第十八喜代丸…操船・操機取扱不適切

    主文
本件衝突は、第十八喜代丸が、突堤係留中の第五喜代丸に接舷するにあたり、可変ピッチプロペラ翼角指示計の翼角確認が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年3月9日08時30分
長崎県館浦漁港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八喜代丸 漁船第五喜代丸
総トン数 135トン 85トン
全長 43.65メートル 39.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 860キロワット 669キロワット
3 事実の経過
第十八喜代丸は、大中型まき網漁業船団付属の鋼製網船で、1基1軸の可変ピッチプロペラ(以下「CPP」という。)推進装置を有し、A受審人ほか19人が乗り組み、潤滑油補給の目的で、船首2.00メートル船尾4.00メートルの喫水をもって、平成9年3月9日05時00分五島列島宇久島北西方沖合の漁場を発し、基地としていた長崎県生月島の館浦漁港に向かい、機関を全速力前進にかけて13.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
館浦漁港は、生月島東岸の生月大橋基部北側に位置し、漁港の入口付近には、北側に宮ノ下と北の両防波堤及び南側に南と新南の両防波堤が外内二重にそれぞれ設けられ、宮ノ下防波堤と南防波堤との間が東に開いた間口90メートルの防波堤入口をなしており、漁港の港奥には、岸壁が南北方向に構築されていて、その南端付近の同岸壁から直角の50度(真方位、以下同じ。)方向に、給油突堤と通称される長さ40メートルの突堤が設置されていた。
ところで、第十八喜代丸のCPP推進装置は、遠隔操縦盤が船橋の操舵スタンドに近接して装備され、CPP翼角指示計及びCPP変節ダイヤルが主機回転数制御スイッチ等と共に同操縦盤に組み込まれていて、同ダイヤル操作により機関室のCPP変節機構を介してCPP翼角の前・後進操作を行うようになっていた。
A受審人は、08時22分生月大橋手前で当直航海士から操船を引き継ぎ、北上して館浦漁港の入航操船にあたることとし、同橋下を航過後まもなく針路を左転して10.0ノットの前進速力で続航し、同時25分生月港館浦北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から135度250メートルの地点に達したとき、給油突堤北側に入船左舷付けで着岸係留していた第五喜代丸の船体上部を南防波堤越しに視認したので、同突堤基部付近岸壁の空所に着岸する予定とし、防波堤入口中央に向首する308度に針路を定め、機関を極微速力前進まで徐々に減速した。08時26分A受審人は、漁港内に進入して右舷側30メートルに北防波堤南端を通過し、船首を着岸予定岸壁の方向に向かって左転しながら3.0ノットの前進速力で進行し、同時28分前方25メートルで同突北側に接近したが、先着の第五喜代丸とは別の僚船が同所付近に係留されていたので、自船が着岸するには狭いと判断し、係留場所を第五喜代丸の右舷側に入船左舷付けで接舷することに変更し、ひとまず後進翼角として後退した。
A受審人は、08時29北防波堤灯台から249度230メートルのところに後退し、いったん後進行きあしを止め、165度の船首方向で第五喜代丸に向け、機関を微速力前進にかけて少しずつ右転しながら進行し、同時30分少し前3.0ノットの前進速力で第五喜代丸の右舷側20メートルに接近したとき、減速して接舷するため極微速力後進にかけることとした。
しかし、A受審人は、右手で操舵輪を握り、左手で主機回転数制御スイッチ及びCPP変節ダイヤル操作を行い、同スイッチを操作して主機を回転数毎分320(以下、回転数は毎分のものを示す。)としたが、前進5度としていたCPP翼角を後進側にする同ダイヤル操作を失念し、同操作を行ったつもりで、CPP翼角指示計で翼角の示度を確認することなく、前進翼角5度のまま進行した。
こうして、A受審人は、08時30分わずか前第五喜代丸の右舷側至近距離に迫り、船首にいた乗組員の「ゴースタン、ゴースタン」と叫んで警告する声を聞き、ようやくCPP変節ダイヤルの後進側操作を行っていないことに気付き、急ぎ同ダイヤルを後進側に操作したものの遅きに失し、08時30分北防波堤灯台から236度230メートルの地点において、第十八喜代丸は、船首が190度を向いて1.0ノットの前進惰力のまま、その上部が第五喜代丸の船橋前方右舷側ブルワークに、後方から40度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
また、第五喜代丸は、第十八喜代丸と同一船団付属の鋼製灯船で、船長Bほか5人が乗り組み、燃料油補給の目的で、船首2.15メートル船尾3.00メートルの喫水をもって、同日04時50分宇久島北西方沖合の漁場を発し、08時10分館浦漁港の給油突堤北側に入船左舷付けで着岸し、船首及び船尾をそれぞれ1本のロープで同突堤に係留した。
B船長は、船橋で後片付けを行い、08時29分補油作業の準備状況を見るため甲板に出たとき、右舷側50メートルに自船に向首して進行する第十八喜代丸を視認し、いつものように同船が自船に接舷係留するものと思いながら第十八喜代丸の動静を見ていたところ、同時30分わずか前同船の船首にいた乗組員の叫び声を聞き、同船が自船の右舷側に向けて衝突のおそれのある態勢で迫ってくるのを認めたが、どうすることもできないまま、第五喜代丸は、船首を230度に向けた突堤係留状態で、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、第十八喜代丸は、船首上部に深さ約10センチメートルの凹損を生じ、第五喜代丸は、船橋前方右舷側ブルワークに亀(き)裂を伴う曲損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、第十八喜代丸が、長崎県館浦漁港に入航し、突堤係留中の第五喜代丸に接舷するにあたり、CPP翼角指示計の翼角確認が不十分で、CPP翼角を後進側にする操作が遅れて前進惰力を止められず、同船に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、長崎県館浦漁港に入航し、突堤係留中の第五喜代丸に接舷するにあたり、前進側としていたCPP翼角を後進側にするCPP変節ダイヤルの操作を行う場合、同船と近距離に接近していたから、確実に同操作を行うよう、CPP翼角指示計で翼角の示度を確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、前進側としていたCPP翼角を後進側にする同ダイヤル操作を失念し、同操作を行ったつもりで、翼角の示度を確認しなかった職務上の過失により、前進惰力を止めないで第五喜代丸との衝突を招き、第十八喜代丸の船首上部に凹損及び第五喜代丸の船橋前方右舷側ブルワークに亀裂を伴う曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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