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1998年(平成10年)

平成9年門審第66号
    件名
漁船第二十一鷹丸遊漁船長福丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年3月6日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

永松義人、杉?忠志、川本豊
    理事官
下川幸雄

    受審人
A 職名:第二十一鷹丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:長福丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
鷹丸…左舷船首外板に破口を伴う凹損
長福丸…船首部を圧壊

    原因
長福丸…居眠り運航防止措置不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
鷹丸…警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、長福丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切る第二十一鷹丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第二十一鷹丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年8月30日17時30分
山口県相島北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十一鷹丸 遊漁船長福丸
総トン数 199トン 9.7トン
全長 49.18メートル
登録長 11.99メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 360キロワット
漁船法馬力数 520
3 事実の経過
第二十一鷹丸(以下「鷹丸」という。)は、専ら活魚の輸送に従事する船尾船橋型鋼製漁船で、船長C及びA受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま船首1.00メートル船尾3.65メートルの喫水をもって、平成7年8月29日18時50分和歌山県和歌浦漁港を発し、島根県隠岐島の浦郷港に向かった。
C船長は、航海中の船橋当直をA受審人、甲板員及び自らの3人による単独4時間交替で行うようにしており、関門海峡を通航して山口県西岸沿いを北上し、各当直者に対しては、見張りを十分に行い不安が生じたときには直ちに報告するよう指示していた。
A受審人は、翌30日15時蓋井島北方沖合で甲板員から当直を引き継ぎ、同時35分角島灯台から305度(真方位、以下同じ。)1.8海里の地点で、針路を055度に定め、機関を全速力前進にかけて12.4ノットの対地速力で、自動操舵にして山口県北岸沿いを東行した。
こうして、A受審人は、舵輪後方に椅子を置き、これに腰掛けて前路を見張っていたところ、17時20分荻相島灯台から311度6.2海里の地点に達したとき、左舷船首42度4海里のところに、前路を右方に横切る態勢で南下する長福丸を初認し、やがてその方位が変わらず衝突のおそれがあることを知った。しかしながら、同人は、相手船が高速力の小型船であるので、そのうち接近したら避航してくれるものと思い、警告信号を行わず、椅子に腰掛けたままその動静を監視していたところ、避航動作が見受けられずに間近に接近するのを認めたが、長福丸の避航を期待するあまり、右転するなどして衝突を避けるための協力動作をとらないでいるうち、17時30分わずか前衝突の危険を感じ、椅子から立ち上がって手動操舵に切り替え、急ぎ右舵をとるとともに機関を停止したが、その効なく、17時30分萩相島灯台から330度6海里の地点において、原針路、全速力のままの鷹丸の左舷船首部に、長福丸の船首が、前方から68度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力1の南風が吹き、視界は良好であった。
また、長福丸は、旅客定員が12人の船体中央部に操舵室を、その後方に客室を設けたFRP製遊漁船で、B受審人が1人で乗り組み、釣客4人を乗せ、船首0.50メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、同月30日04時30分山口県長門市田の浦を発し、06時30分ごろ見島北方近くの釣り場に至って遊漁に従事した。
B受審人は、帰港予定時刻となったので遊漁を切り上げ、16時45分見島北灯台から350度1.4海里の地点を発進し、見島の東岸沿いを南下して同時56分見島北灯台から121度2.2海里の地点に達したとき、針路を167度に定め、機関を全速力前進にかけて18.4ノットの対地速力で、仙崎湾入口に向かって南下した。
ところで、B受審人は、民宿やレストランを経営するかたわら、遊漁船業を行なっており、たまたま1週間ほど前に予約を受けた釣客4人を乗せての航海であり、沖合での錨泊中も十分休息しており、睡眠不足や疲れは感じていなかった。
こうして、B受審人は、釣客を客室に収容し、1人で舵輪後方の椅子に腰掛けて操舵に当たり、正船首少し左舷に見る相島を針路目標にして進行しているうち、見島東岸近くに散在していた漁船群を替わし終えた安心感と前路に他船を認めなかったことから気が緩み、やがて眠気を催すようになった。しかしながら、同人は、仙崎湾の入口も近くなったので、まさか居眠りすることはあるまいと思い、椅子から立ち上がって操舵に当たるなどして気を引き締め、眠気を払うことに努めなかったので、椅子に腰掛けたままうとうとしているうちいつしか居眠りに陥り、17時25分萩相島灯台から333度7.5海里の地点に達したとき、右舷船首26度2海里のところに、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する鷹丸が存在したが、これに気付かず、右転するなどして鷹丸の進路を避ける措置をとらないまま続航中、突然衝撃を受けて、原針路、全速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、鷹丸は、左舷船首外板に破口を伴う凹損を生じ、長福丸は、船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、山口県相島北方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、長福丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切る鷹丸の進路を避けなかったことによって発生したが、鷹丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、遊魚を終えて単独で操船に当たり、山口県長門市田の浦に向け相島北方沖合を南下中、椅子に腰掛けていたところ気の緩みから眠気を催すようになった場合、居眠り運航とならないよう、椅子から立ち上がって操舵に当たるなどして気を引き締め眠気を払うことに努めるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、仙崎湾の入口も近くになったのでまさか居眠りすることはあるまいと思い、椅子に腰掛けたまま当直を続けて眠気を払う措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、前路を左方に横切る鷹丸の進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、長福丸の船首部を圧壊させ、鷹丸の左舷船首外板に破口を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、山口県相島北方沖合を東行中、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する長福丸を認め、同船に避航動作が見受けられないまま間近に接近するのを知った場合、右転するなどして衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、長福丸の避航のみを期待して警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、衝突を招いて両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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