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1998年(平成10年)

平成9年長審第48号
    件名
貨物船トムキャット2交通船第七鳳丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年3月6日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

保田稔、高瀬具康、関?彰
    理事官
平良玄栄

    受審人
A 職名:トムキャット2船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第七鳳丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
鳳丸…後部が大破し浸水、のち廃船、船長は、衝撃で頭部打撲傷など

    原因
トムキャット、鳳丸…速力不適切、見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守

    主文
本件衝突は、トムキャット2が、適度な速力で航行しなかったばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、第七鳳丸が、適度な速力で航行しなかったばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年11月2日19時05分
佐世保港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船トムキャット2 交通船第七鳳丸
総トン数 19トン
全長 19.70メートル 12.31メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 364キロワット 133キロワット
3 事実の経過
トムキャット2(以下「トムキャット」という。)は、佐世保港と五島列島諸港間を1日2便往復し、旅客定員10人の小型コンテナ輸送に従事するFRP製定期貨物船で、A受審人が1人で乗り組み、2便目の復航を空コンテナ11個及び旅客1人を乗せ、船首0.50メートル船尾0.70メートルの喫水をもって、平成7年11月2日17時20分長崎県宇久島平漁港を発し、佐世保港第1区に向かった。
A受審人は、発航前から不調となっていたレーダーのスイッチを切り、マスト灯、左右舷灯及び船尾灯を表示し、発航直後から機関を22.0ノットの全速力前進にかけ、特に死角のない操舵室右舷側操縦席に腰掛けて手動操舵をとり、肉眼による見張りに当たりながら進行し、19時03分少し過ぎ佐世保港港務部南端灯柱(以下「南端灯柱」という。)から170度(真方位、以下同じ。)1,300メートルの、同港第1区前畑岸壁の前面に達し、小型船舶などが縦横に往来するうえ周囲に灯火設備のない係船浮標や突堤などが存在する同港の最奥部に進入する状況であったが、他の船舶に危険を及ぼさないような適度な速力とせず、操縦席から立ち少し減速して18.0ノットの速力で続航した。
19時04分少し過ぎA受審人は、南端灯柱から165度800メートルの前畑岸壁北端角付近に達し、鯨瀬ふ頭突堤先端辺りに向首する019度に針路を定めたとき、背景の街明かり等に紛れて小型船の灯火が識別しにくかったものの、十分な見張りを行えば左舷船首30度570メートルのところに、左方から接近する第七鳳丸(以下「鳳丸」という。)の白、緑2灯を視認できる状況であったが、前路に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、同船に気付かず進行した。A受審人は、その後鳳丸の方位がほとんど変わらず同船と衝突のおそれがある態勢で急速に接近したものの、機関を停止するなどして衝突を避けるための措置をとらないまま続航中、同時05分わずか前鳳丸の白灯を至近距離に認めたがどうすることもできず、19時05分南端灯柱から135度500メートルの地点で、トムキャットは、原針路、原速力のまま、その船首が鳳丸の右舷後部に前方から80度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風がなく、視界は良好であった。
また、鳳丸は、佐世保港内において、専らアメリカ合衆国海軍(以下「米軍」という。)関係者の送迎に従事する旅客定員12人のFRP製交通船で、B受審人が1人で乗り組み、船首0.50メートル船尾0.80メートルの喫水で、同日11時00分南端灯柱から108度1,100メートルの、佐世保港港湾合同庁舎前の桟橋(以下「税関桟橋」という。)を発し、通船業務に就いた。
B受審人は、同港内の米軍艦艇などの諸施設と南端灯柱から323度780メートルの、米軍佐世保基地の桟橋間を税関桟橋経由で往復し、19時00分米軍桟橋において米軍関係者2人を降ろし、待機のため税関桟橋に向け、マスト灯、両色灯及び船尾灯を表示して発進し、特に死角のない操縦席に腰掛けて手動操舵により進行し、同時03分少し過ぎ南端灯柱から264度240メートルの地点に至り、小型船舶などが縦横に往来するうえ周囲に灯火設備のない係船浮標や突堤などが存在する同港の最奥部を横断する状況であったが、他の船舶に危険を及ぼさないような適度な速力とせず、機関を12.0ノットの全速力前進にかけ、針路を119度に定めて進行した。
19時04分少し過ぎB受審人は、南端灯柱から155度240メートルの地点に達したとき、背景の街明かり等に紛れて小型船の灯火が識別しにくかったものの、十分な見張りを行えば右舷船首50度570メートルのところに右方から接近するトムキャットの白、紅2灯を視認できる状況であったが、前路に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、同船に気付かず続航した。B受審人は、その後トムキャットの方位がほとんど変わらず同船と衝突のおそれがある態勢で急速に接近したものの、機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとらないまま進行中、鳳丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、トムキャットは、ほとんど損傷がなく、鳳丸は、後部が大破し浸水したがトムキャットにより税関桟橋まで曳航されたのち廃船とされ、B受審人は、衝撃で頭部打撲傷などを負った。

(航法の適用等)
本件発生地点は、港則法適用海域であって、トムキャットが、五島列島諸港と佐世保港間に就航する貨物船であることと、鳳丸が、専ら港内において交通船として運航されていることとから、港則法上形式的にそれぞれを雑種船以外の船舶と雑種船とみなすことができる。しかし、夜間において、トムキャットを雑種船でないとする判断が客観的にできないことと、鳳丸を雑種船と判断することが客観的にできないこととから、互いに形式的な関係に基づいて同じ意図を持った措置をとることができず、両船間に同形式的な関係を適用することは妥当でない。また、その他港則法上に両船の関係を律する規定がない。ただし、港内において他の船舶に危険を及ぼさないような速力で航行しなければならないとする規定については、港内の状況に応じて遵守されなければならない。
両船衝突前の相対的態勢は、互いに進路を横切り衝突のおそれがある関係にあった。しかし、発生海域が、目的の場所に向けて航行するために常に転針を伴うようなところであり、両船が互いに一定針路を十分な時間保てるところではなく、高速力であったこともあって短時間のうちに衝突のおそれを生じさせたことなどから、両船間に海上衝突予防法における横切り船の航法を適用して、両船がそれぞれ保持船及び避航船としての措置をとるべきであったとすることも妥当でない。また、一方的に新たな衝突の危険を生じさせたとも言い難い。
したがって、本件時の状況においては、短時間内に互いにその存在を認識し、かつ衝突のおそれがあり得ることを判断して互いに衝突を避けるための措置をとることが、船員の常務として要求されると考えるのが相当である。そして、港内で要求される通常の見張りを行っていれば互いにその存在を認識することも、衝突のおそれがあり得ると判断したうえ、両船の操縦性能、大きさなどを考慮すれば機関を停止するなどして衝突を回避することもできる状況であった。

(原因)
本件衝突は、夜間、佐世保港第1区港奥の狭い水域において、両船の進路が互いに交差して短時間のうちに衝突のおそれを生じた際、トムキャットが、他の船舶に危険を及ぼさないような適度な速力で航行しなかったばかりか、見張り不十分で、鳳丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことと、鳳丸が、他の船舶に危険を及ぼさないような適度な速力で航行しなかったばかりか、見張り不十分で、トムキャットとの衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、佐世保港第1区港奥の灯火設備のない係船浮標や突堤などが存在する狭い水域を鯨瀬ふ頭方面に向けて航行する場合、左方から短時間のうちに接近する鳳丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、前路に他船がいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、鳳丸を見落として衝突を避けるための措置をとらないまま同船との衝突を招き、B受審人が頭部打撲傷などを負い、鳳丸が廃船となる損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、佐世保港第1区港奥の灯火設備のない係船浮標や突堤などが存在する狭い水域を税関桟橋に向けて航行する場合、右方から短時間のうちに接近するトムキャットを見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、前路に他船がいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、トムキャットを見落として衝突を避けるための措置をとらないまま同船との衝突を招き、自身が負傷し、前示損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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