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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年10月31日10時43分 沖縄島南方沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船祐翔丸
貨物船クレーンマーキュリー 総トン数 14トン
3,866トン 全長 17.60メートル
103メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 433キロワット
3,089キロワット 3 事実の経過 祐翔丸は、まぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人及び甲板員1人が乗り組み、船首0.38メートル船尾2.20メートルの喫水をもって、平成8年10月31日08時沖縄県糸満漁港を発し、沖縄島南方沖合の漁場に向かった。 発航後A受審人は、1人で船橋当直に当たり、喜屋武埼灯台西方沖合を通過後も南下を続け、10時10分喜屋武埼灯台から177度(真方位、以下同じ。)11.7海里の地点に達したとき、針路を176度に定め、自動操舵とし、機関を全速力前進よりも少し減じ、7.0ノットの対地速力で、僚船を追尾しながら進行した。 10時33分A受審人は、クレーンマーキュリー(以下「ク号」という。)が左舷正横後5度2海里にあって、同船を視認でき、かつその方位が変わらず、互いに進路を横切り、衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、接近する他船があれば僚船が知らせてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、同船に気付かず、その後接近する他船はいないと思い、少しの間のつもりで操舵室を離れ、階下の船員室に入って魚類売買業者に電話をし始め、見張りを行わなかった。 こうして、A受審人は、時間が経過するのも忘れて電話中、接近するク号に対して警告信号を行わず、更に接近しても衝突を避けるための協力動作をとらないでいるうち、10時43分喜屋武埼灯台から177度15.5海里の地点において、同一針路の祐翔丸の船首が、ク号の船首部右舷側に後方から55度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力2の南東風が吹き、視界は良好であった。 また、ク号は、船尾船橋型のケミカルタンカーで、韓国人船長B、韓国人三等航海士Cほか韓国人、中国人及びフィリピン人船員16人が乗り組み、パラキシレン、アセトンなど5,778トンを積載し、船首6.30メートル船尾7.40メートルの喫水をもって、同月28日16時京浜港横浜区を発し、マレーシアのクアンタン港に向かった。 越えて同月31日08時C三等航海士は、沖縄島南方沖合を航行中、一等航海士から船橋当直を引き継ぎ、操舵手1人と共に船橋当直に当たり、10時喜屋武埼灯台から137度12.6海里の地点に達したとき、針路を231度に定め、機関を全速力前進にかけ、14.0ノットの対地速力で、自動操舵として進行した。 10時33分C三等航海士は、祐翔丸が右舷船首30度2海里にあって、同船を視認でき、かつ方位が変わらず、互いに進路を横切り、衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、当直の操舵手には救命艇の修理を行わせ、自分は操舵室内左舷後部において天気図の受信作業を始めており、見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かなかった。 こうして、C三等航海士は、祐翔丸の進路を避けないまま同一針路で続航中、10時43分少し前前方を確かめようと、操舵室内前部に移動したとき、右舷船首至近に祐翔丸を初めて認め、手動操舵に切り換えて左舵一杯、機関停止としたが、ほぼ同一針路で、前示のとおり衝突した。 B船長は、衝突直後昇橋し、事後の措置に当たった。 衝突の結果、祐翔丸は、船首部の左舷側外板、マスト等を損傷し、のち修理され、ク号は、右舷側外板に擦過傷を生じた。
(原因) 本件衝突は、沖縄島南方沖合において、両船が互いに進路を横切り、衝突のおそれがある態勢で接近中、ク号が、見張り不十分で、前路を左方に横切る祐翔丸の進路を避けなかったことによって発生したが、祐翔丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったこともその一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、沖縄島南方沖合を漁場に向かって南下中、船橋当直に当たる場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、接近する他船があれば前方の僚船が知らせてくれると思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ク号に対して警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して衝突を招き、祐翔丸に船首部の左舷側外板、マスト等の損傷を、ク号に右舷側外板の擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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