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1998年(平成10年)

平成9年門審第50号
    件名
漁船大歳丸プレジャーボート裕紀丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年3月5日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

永松義人、酒井直樹、藤江哲三
    理事官
森田秀彦

    受審人
A 職名:大歳丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:裕紀丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
大歳丸…船首右舷側に擦過傷
裕紀丸…右舷側後部を破損して転覆、船長顔面打撲傷

    原因
大歳丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
裕紀丸…動静監視不十分、注意喚起信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、大歳丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中の裕紀丸を避けなかったことによって発生したが、裕紀丸が、動静監視不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年9月10日17時05分
山口県仙崎港
2 船舶の要目
船種船名 漁船大歳丸 プレジャーボート裕紀丸
総トン数 16.76トン 0.92トン
登録長 14.90メートル 4.69メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 14キロワット
漁船法馬力数 160
3 事実の経過
大歳丸は、刺網及び建網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか、1人が乗り組み、山口県仙崎港西方沖合漁場に向け出漁の途中、漁獲物冷蔵用の砕氷を積む目的で、船首0.20メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、平成8年9月10日16時38分山口県三見漁港を発し、仙崎港に向かった。
離岸後、A受審人は、単独で操舵操船に当たって仙崎湾に至る陸岸沿いを西行し、16時56分仙崎港沖防波堤南灯台(以下「防波堤南灯台」という。)から078度(真方位、以下同じ。)2.6海里の地点で、仙崎湾の東部にある三ツ子岩を左舷側に400メートル離して通過したとき、防波堤南灯台を右舷側近くに替わすよう針路を257度に定めて自動操舵とし、機関を回転数毎分1,400にかけ、12.2ノットの対地速力として仙崎港東口に向け進行した。
17時01分、A受審人は、防波堤南灯台から079度1.6海里の地点に達したとき、正船首1,500メートルのところの仙崎港内に、右舷側を見せて錨泊中の裕紀丸を視認できる状況にあった。しかしながら、同人は、定針したとき、付近には錨泊して魚釣りをしている船が見当らなかったことから、前路には航行の支障となる他船はいないものと思い、折からの陽光による前方の海面反射から目をそらしたまま、船首方の見張りを十分に行わなかったので、裕紀丸が存在することも、同船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近していることにも気付かなかった。
こうして、A受審人は、右転するなどして裕紀丸を避けるための措置をとらないまま続航中、突然衝撃を受け、17時05分防波堤灯台から080度1,400メートルの地点において、原針路、原速力のまま大歳丸の船首が、裕紀丸の右舷側後部に前方から37度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、視界は良好であった。
また、裕紀丸は、船尾端に船外機を装備した和船型FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、船首0.10メートル船尾0.15メートルの喫水をもって、同日15時00分仙崎港内の小島漁港を発し、15時15分ごろ山口県野波瀬漁港北方700メートルばかりの釣り場に到着して魚釣りを行ったのち、16時30分仙崎港内の前示衝突地点に移動し、水深約13メートルの海中に錨を投じ、錨索を船首から20メートルばかり延出して錨泊し、錨泊中の船舶が掲げる形象物を表示しないまま魚釣りを開始した。
17時01分、B受審人は、折からの北東の風に立って船首が040度を向いて錨泊した状態で、腕時計を見て魚釣りを打ち切り帰航することにしたとき、右舷船首37度1,500メートルのところに自船に向首する態勢で接近して来る大歳丸を認めた。しかしながら、同人は、平素、錨泊して魚釣り中の自船を航行船側が避けてくれていたので、接近することがあっても相手船の方で避航してくれるものと思い、その後大歳丸の動静を監視することなく、船尾方を向き釣り道具の片付けを始めてこれに気を奪われ、大歳丸が避航動作をとらないまま衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かなかった。
こうして、B受審人は、大歳丸に対して避航を促すべく有効な音響による注意喚起信号を行わないまま錨泊を続けているうち、17時05分わずか前、釣り道具の片付けを終えて立ち上がったとき、右舷方至近に迫った大歳丸を認めたが、何をする間もなく、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大歳丸は船首右舷側に擦過傷を生じたのみであったが、裕紀丸は右舷側後部を破損して転覆し、のち損傷部は修理され、衝突時の衝撃で海中に投げ出されたB受審人は、大歳丸に救助されたものの顔面打撲傷などを負った。

(原因)
本件衝突は、大歳丸が、山口県仙崎湾を西行中、見張り不十分で、前路で錨泊中の裕紀丸を避けなかったことによって発生したが、裕紀丸が、動静監視不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、山口県仙崎湾を西行する場合、前路で錨泊して魚釣り中の他船を見落とすことのないよう、船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、前路には航行の支障となる他船はいないものと思い、前方の海面反射から目をそらしたまま船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で裕紀丸に接近していることに気付かず、右転するなどして裕紀丸を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、大歳丸の船首右舷側に擦過傷を生じ、裕紀丸の右舷側後部を破損して同船を転覆させ、衝突時の衝撃で海中に投げ出された相手船の乗組員に顔面打撲傷などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、山口県仙崎港内で錨泊して魚釣り中、右舷方から自船に向首する態勢で接近して来る大歳丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、接近することがあっても相手船の方で避航してくれるものと思い、釣り道具を片付けることに気を奪われ、大歳丸の動静監視を行わなかった職務上の過失により、大歳丸が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行わないまま錨泊を続けて衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせて裕紀丸を転覆させ、自身が負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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