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1998年(平成10年)

平成9年門審第90号
    件名
貨物船第二神陽丸漁船満徳丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年3月20日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

酒井直樹、杉?忠志、藤江哲三
    理事官
下川幸雄

    受審人
A 職名:第二神陽丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:満徳丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
神陽丸…船尾部右舷側ブルワークに凹損
満徳丸…船首部を圧壊

    原因
神陽丸…見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
満徳丸…見張り不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第二神陽丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る満徳丸の進路を避けなかったことによって発生したが、満徳丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年3月25日18時20分
玄界灘玄界島北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二神陽丸 漁船満徳丸
総トン数 749トン 6.1トン
全長 69.08メートル 15.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット
漁船法馬力数 90
3 事実の経過
第二神陽丸(以下「神陽丸」という。)は、主として関門港から九州及び瀬戸内海の各港にセメントを輸送している船尾船橋型セメント運搬船で、A受審人ほか5人が乗り組み、セメント1,646トンを載せ、船首3.97メートル船尾5.05メートルの喫水をもって、平成9年3月25日14時00分関門港小倉日明岸壁を発し、熊本県八代港に向かった。
A受審人は、14時40分、関門航路西口を通過したとき、船橋当直を一等航海士に任せて一時休息し、16時ごろ妙見埼灯台の西北西方3海里ばかりの地点で、前直の一等航海士から当直を引き継いで再び単独船橋当直に就き、16時50分、倉良瀬戸を通過したのち玄界島の1海里ばかり北西方沖合に向け西行した。
A受審人は、18時04分、玄界島灯台から020度(真方位、以下同じ。)2.5海里の地点に達したとき、針路を灯台瀬灯標の少し南方に向く228度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で自動操舵により進行し、同時14分、玄界島灯台から336度1.3海里の地点に達したとき、ほぼ正船首遠くに1隻の反航船を認め、同船と左舷を対して航過することとし、自動操舵のまま灯台瀬灯標に向首する238度に転針し、同船の動静監視に当たって続航した。
こうしてA受審人は、18時16分、西浦岬灯台から009度2.5海里の地点に達したとき、右舷船首48度1.6海里のところに、満徳丸を視認でき、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めることができる状況であった。しかしながら、同人は、船橋前面中央部に左舷前方を向いて立ち正船首少し左方に見るようになった前示反航船の動静に気を取られて右舷前方の見張りを行わなかったので、満徳丸の接近に気付かず、右転するなどしてその進路を避けないまま続航中、同時20分少し前、反航船の方位が左方に替わったのを認め、針路を228度に戻した18時20分、突然船尾に衝撃を感じ西浦岬灯台から354度2.1海里の地点において、全速力のままの神陽丸の船尾部右舷側に、満徳丸の船首が前方から85度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、視界は良好であった。
また、満徳丸は、主として福岡県小呂島周辺の玄界灘で一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、同日早朝に福岡県玄界漁港の港外付近で刺し網により餌用の小魚を獲て漁具を陸揚げしたのち06時30分船首0.60メートル船尾1.10メートルの喫水をもって、同漁港を発し、小呂島北東方漁場に向かった。
B受審人は、07時30分ごろ前示漁場に至ってはまちの一本釣りを行いはまち約100キログラムを獲て操業を打ち切り、17時35分、小呂島109メートル頂から020度1,400メートルの地点を発進して帰途についた。
漁場発進後B受審人は、玄界島と西浦岬のほぼ中央に向け南下し、18時14分、西浦岬灯台から335度3.6海里の地点に達したとき、針路を玄界漁港西防波堤の150メートル西方沖合に向く133度に定め、機関を全速力前進にかけ、18.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
定針後間もなくB受審人は、レーダーを一見したのみで前路には航行の支障となる他船はいないものと思い、漁場でGPSの船位表示が不安定であったことから、操舵室前面の物入れからGPSの取扱説明書を取り出し操舵室右舷側の椅子に腰を掛けてこれを読み始めた。
こうしてB受審人は、18時16分、西浦岬灯台から339度3.1海里の地点に達したとき、左舷船首27度1.6海里のところに、神陽丸を視認でき、その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めることができる状況であった。しかしながら、同人は、GPSの取扱説明書を読むことに気を取られて前方の見張りを行わなかったので、神陽丸が避航の気配を見せないまま接近していることに気付かず、警告信号を行わず、同船がなおも避航しないまま間近に接近しても右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく続航中、18時20分わずか前、他船の機関音を聞いてふと顔を上げたとき、至近に迫った神陽丸の船体を初認し、機関を全速力後進としたが、及ばず、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、神陽丸は船尾部右舷側ブルワークに凹損を生じ、満徳丸は船首部を圧壊した。

(原因)
本件衝突は、玄界灘の玄界島北西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、神陽丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る満徳丸の進路を避けなかったことによって発生したが、満徳丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、玄界灘の玄界島北西方沖合を西行する場合、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する他船を見落とすことのないよう、右舷前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、左舷船首遠方の反航船に気を取られ、右舷前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、右転するなどして満徳丸の進路を避けることなく進行して衝突を招き、同船の船首部を圧壊させ神陽丸の船尾部右舷側ブルワークに凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、玄界灘の小呂島北東方漁場から玄界漁港に向けて南下する場合、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する他船を見落とすことのないよう、左舷前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、定針したときレーダーを一見したのみで前路には航行の支障となる他船はいないものと思い、操舵室右舷側の椅子に腰を掛けたままGPSの取扱説明書を読むことに気を取られ、左舷前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、警告信号を行わず、更に接近しても右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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