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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年6月5日19時05分 日本海西部沿岸 2 船舶の要目 船種船名 漁船第3協和丸
漁船正慶丸 総トン数 17.92トン 3.24トン 登録長 14.93メートル 8.90メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 漁船法馬力数 130 40 3 事実の経過 第3協和丸(以下「協和丸」という。)は、FRP製の中小型まき網漁業運搬船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業のため、船首1.0メートル船尾1.5メートルの喫水で、平成9年6月5日19時02分島根県五十猛漁港を発し、同港の西方10海里ばかりの漁場に向かった。 A受審人は、港内を低速力で航行し、19時03分少し前、鏡ヶ鼻防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から180度(真方位、以下同じ。)40メートルの地点で針路を274度に定め、機関を13.0ノットの全速力前進にかけ、手動操舵で進行した。 ところで、A受審人は、協和丸では機関を全速力前進にかけて航走すると、船首部が水平線を越えて浮上し、前方の小型漁船が隠れるほどの死角ができることから、これまで、ときどき船首を左右に振って見張りをしており、そして、この時季はいかの盛漁期を迎えていたので、五十猛漁港周辺には多数のいか釣り漁船が出漁するのを知っており、定針するころ同港の港外に数隻の漁船がいるのを認めていた。 ところが、A受審人は、定針の少し前、防波堤に並航したころ前方をいちべつしただけで十分な見張りを行わなかったので、右舷船首700メートルばかりの錨泊中の正慶丸に気付かず、間もなく同船に向首する態勢となり、その後、少し先に出港した2隻の僚船が船首少し左舷寄り200メートルばかりを先行していたので、これについていけば大丈夫と思い、船首を振るなどして死角を補う十分な見張りを行わないで西行した。このため、同受審人は、19時04分ほぼ正船首400メートルとなった正慶丸が白灯と作業灯を点灯したが、依然として同船に気付かず、これを避けないで続航し、19時05分少し前、船首右舷寄りの至近に迫った正慶丸の船尾マストを視認し、急いで機関を後進に操作したが、及ばず、協和丸は、19時05分防波堤灯台から271度700メートルの地点において、その船首が原針路のまま正慶丸の左舷中央部に90度の角度で衝突した。 当時、天気は霧雨で風力2の南風が吹き、潮侯は低潮期で、日没は19時23分であった。 また、正慶丸は、FRP製のいか一本釣り漁船で、B受審人が単独で乗り組み、船首0.2メートル船尾1.1メートルの喫水で、同日13時00分五十猛漁港を発し、同時15分ごろ防波堤灯台から271度700メートルの地点に至り、水深23メートルのところに投錨し、錨索を約60メートル伸ばして操業を開始した。 B受審人は、周囲の多数のいか釣り漁船から200メートルばかり離し、錨泊していることを示す球形形象物を揚げず、船尾甲板で一本釣りを行い、19時03分ごろ五十猛漁港を出港するいつものまき網船団を認め、そのうちの協和丸がほぼ184度に向首した自船の左舷中央に向かっていたことから、同時04分日没前ではあったが、船体中央にあるマスト頂部の白色灯と作業灯を点灯して同船の動静を監視していた。 B受審人は、19時04分半協和丸が転進しないまま200メートルに接近し、同船に避航の気配が認められなかったので、モーターホーンが海水で錆びついて使用できなかったことから、機関を使用することとし、機関室に入って電源を入れて始動し、機関のクラッチを前進に入れようか、後進に入れようか迷っているとき、正慶丸は、原針路のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、協和丸は、船首に擦過傷を生じ、正慶丸は、操舵室が損壊し、左舷側に破口を生じて浸水したが、協和丸とその僚船に横抱きされて入港し、のち、いずれも修理され、B受審人は、右鎖骨を骨折して45日入院し、退院後約3箇月の通院加療を要した。
(原因) 本件衝突は、日本海西部沿岸において、協和丸が、見張り不十分で、錨泊中の正慶丸を避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、機関を全速力前進にかけると前方に大きな死角が生じる協和丸を操船して周辺にいか釣り漁船の多い五十猛漁港を出港する場合、船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを行うべき注意義務があった。しかるに、同人は先行する僚船についていけば大丈夫と思い、船首を振るなど死角を補う見張りを行わなかった職務上の過失により、正慶丸に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、協和丸の船首に擦過傷及び正慶丸の左舷側に破口並びにB受審人に負傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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