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1998年(平成10年)

平成9年広審第49号
    件名
旅客船旭洋丸岸壁衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年3月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

亀山東彦、黒岩貢、花原敏朗
    理事官
清水正男

    受審人
A 職名:旭洋丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
旭洋丸…エプロン左舷前部に亀裂を伴う凹損、旅客3人が衝突の衝撃で転落し、全治1週間から3週間を要する口唇裂創、手指骨折、関節捻挫、手足肩打撲等の負傷

    原因
操船不適切、運航管理者の乗組員に立する指導不十分

    主文
本件岸壁衝突は、行きあしの減殺措置が不十分であったことによって発生したものである。
なお、旅客が負傷したのは、運航管理者の旅客誘導についての乗組員に対する指導が十分でなかったことによるものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年11月26日20時27分
松山港第1区観光港フェリー岸壁
2 船舶の要目
船種船名 旅客船旭洋丸
総トン数 696トン
全長 55.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,912キロワット
3 事実の経過
旭洋丸は、2基2軸を有する船首船橋型の旅客及び自動車運搬フェリーで、広島港と松山港間を定期的に就航しており、A受審人ほか9人が乗り組み、旅客42人、車両12台及び単車1台を載せ、平成8年11月26日17時40分広島港を発し、途中広島県呉港において、旅客2人を降ろし、同6人、車両1台及び単車1台を載せ、船首2.0メートル船尾2.9メートルの喫水をもって、同日18時29分同港を発し、松山港第1区通称松山観光港に向かった。
ところで、A株式会社では運航船舶の安全運航を計るために運航管理規程を定め、その遵守のための総括責任者として平成5年4月からB指定海難関係人を運航管理者に任命して乗組員の指導にあたらせていた。また、旅客の乗下船時の誘導については、運航管理規程の他に放送マニュアルを定めて乗下船時の船内放送によって旅客を案内しており、着岸前には旅客の安全のために「なお、着岸に際しまして、多少のショックがございますので、デッキや階段にお立ちのお客さまは、必ず手摺りをお持ちになって下さい。」と放送して転落事故を防止することとしていた。
B指定海難関係人は、これまで旅客の転落事故がなかったことから、同放送マニュアルが着岸前に旅客の階段への立ち入りを認めていることに特に疑問を感じておらず、訪船の際に、旅客誘導について、手摺りを持っていないお客様を見たら持つことをお願いするように乗組員を口頭で指導していたものの、特に文書による指示は行なわず、また、着岸前に事務部員は必ず階段口に立って旅客の状況を確認するなどの指導を十分に行っていなかったので、運航船舶の中には階段にいる旅客の確認を行っていない船舶もあることを知らなかった。
A受審人は、呉港発航から18時49分ごろ音戸瀬戸を通過するまで操船指揮をとったあと休息し、興居島(ごごしま)の頭埼(つむりさき)に並航した20時10分ごろ再び昇橋して入港操船の指揮にあたり、松山観光港着岸予定の約10分前に、事務部員が旅客に対する案内放送を行ったのを聞いたところで入港スタンバイを令し、その後着岸予定岸壁に向け高浜瀬戸を南下した。A受審人は、20時21分着岸予定の第1フェリー岸壁まで約1,400メートルになったとき同岸壁の先船が離岸中であることを認めたので、全速力前進としていた両舷機を一旦停止し、機関回転が落ちたところで機関後進テストを行い、異常がないことを確かめたあと機関停止のまま惰力で進行し、同時23分先船が離岸したので両舷機を半速力前進にかけるとともに左転して第2フェリー岸壁北端に向け、九十九島(つくもしま)に並航した同時24分極微速力前進に減速し、予定岸壁まで480メートルとなった20時25分少し前、松山港高浜5号防波堤灯台(以下「5号防波堤灯台」という。)から243度(真方位、以下同じ。)190メートルの地点で、針路を第1フェリー岸壁の可動橋に向首する176度に定め、手動操舵により折からの南に流れるわい潮に乗って9.0ノットの対地速力で続航した。
A受審人は、いつもは着岸予定地点の約200メートル手前で機関を停止し、約50メートルになったところで半速力後進として着岸していたが、当時高浜瀬戸が北流のほぼ最強時で、フェリー岸壁前面には南向きのわい潮があることを知っていたので、可動橋まで220メートルとなった20時26分少し前、5号防波堤灯台から204度380メートルの地点で、両舷機関を停止した。A受審人は、可動橋まで150メートルとなった20時26分少し過ぎ、いつもよりかなり速い7.9ノットの対地速力であったのに、岸壁を見て少し速いとは感じたものの、いつもより少し早めに後進をかければよいと思い、速やかに機関後進として行きあしを減殺する措置をとることなく、20時26分半可動橋まで70メートルとなったとき、両舷機を半速力後進としたが、思ったより行きあしが速いことにようやく気付き、急いで全速力後進としたが及ばず、旭洋丸は、20時27分原針路のまま1.0ノットの対地速力で、その船首エプロンの左舷前部が5号防波堤灯台から194度590メートルの可動橋前面の鉄製フェンダーに衝突した。
当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、付近には1.0ノットの南方に流れるわい潮があった。
衝突の結果、旭洋丸はエプロン左舷全部に亀(き)裂を伴う凹損を生じたが、のち修理され、下船を待って階段にいた旅客3人が衝突の衝撃で転落し、全治1週間から3週間を要する口唇裂創、手指骨折、関節捻挫、手足肩打撲等の負傷をした。
A株式会社は、本件発生後、再発防止のため乗組員に対する研修を行うとともに、放送マニュアルを改正して着岸前には階段への旅客立ち入りを禁止することとし、着岸前の事務部員の配置を明確にした。

(原因)
本件岸壁衝突は、夜間、松山港において、フェリー岸壁に接近する際、行きあしの減殺措置が不十分で、過大な行きあしのまま岸壁に向首接近したことによって発生したものである。
なお、旅客が負傷したのは、運航管理者の乗組員に対する旅客誘導についての指導が十分でなかったことによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、連れ潮がある状況下にフェリー岸壁に着岸のため接近する場合、わい潮があることを知っており、いつもより行きあしが速いと感じていたのだから、過大な速力で接近することのないよう、速やかに行きあしを減殺する措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、いつもより少し早めに後進とすれば大丈夫と思い、速やかに行きあしを減殺する措置をとらなかった職務上の過失により、過大な速力のまま進行して岸壁との衝突を招き、旭洋丸のエプロン左舷前部に亀裂を伴う凹損を生じさせ、旅客3人を負傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が乗組員に対する旅客誘導についての指導が十分でなかったことは旅客負傷の原因となるが、本件発生後放送マニュアルを改正して旅客を着岸前に階段に立ち入らせないなど、再発防止に努めていることに徴し、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。






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