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1998年(平成10年)

平成9年広審第66号
    件名
貨物船第一神勢丸貨物船伸社丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年3月18日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

上野延之、亀山東彦、花原敏朗
    理事官
清水正男

    受審人
A 職名:第一神勢丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:伸社丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
C 職名:伸社丸機関長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
神勢丸…左舷船首部の外板に破口を伴う凹損
伸社丸…右舷前部外板に破口

    原因
伸勢丸、伸社丸…狭視界時の航法(信号、速力)不遵守

    主文
本件衝突は、第一神勢丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、伸社丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年7月4日06時55分
瀬戸内海上蒲刈島北岸沖
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第一神勢丸 貨物船伸社丸
総トン数 173.97トン 129トン
登録長 38.06メートル 33.03メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 294キロワット 316キロワット
3 事実の経過
第一神勢丸(以下「神勢丸」という。)は、専ら北九州及び瀬戸内海の諸港間のコークス及びチップ輸送に従事する船尾船橋型の貨物船で、A受審人ほか1人が乗り組み、コークス192トンを載せ、船首1.8メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成8年7月4日06時広島県呉港を発し、同県契島の東邦亜鉛株式会社の岸壁に向かった。
A受審人は、発航から航行中の動力船の灯火を表示して操舵操船に当たり、猫瀬戸に入るころから霧がかかり視界が狭められ、視程が200メートルの視界制限状態となったが、霧中信号を行わず、また、安全な速力にすることなく東行し、06時32分少し前下碇磯灯標から242度(真方位、以下同じ。)5.7海里の地点で、針路を066度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの逆潮流に抗して9.3ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
A受審人は、06時49分下碇磯灯標から238度3海里の地点に達したとき、霧が濃くなって視程が200メートル以下となり、レーダーで右舷船首5度1.5海里に伸社丸の映像を初めて探知し、同映像が接近してきたので、同時49分少し過ぎ同船を左舷側に離すこととして針路を082度に転じ、同時50分半下碇磯灯標から237度2.8海里の地点に至ったところ、左舷船首11度1海里に伸社丸のレーダー映像を見るようになり、著しく接近することが避けられない状況であることを知ったが、右転したから同船と左舷を対して無難に航過できるものと思い、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めることなく続航し、同時54分伸社丸の映像が左舷船首8度370メートルに接近し、衝突のおそれを感じて汽笛による短音3回を吹鳴したが、同映像がレーダー中心付近の海面反射で見えなくなり、同時55分少前左舷船首至近に迫った伸社丸を視認し、右舵をとったが及ばず、06時55分下碇磯灯標から228度2.2海里の地点において、神勢丸は、原速力のまま、130度に向首したその船首が伸社丸の右舷前部に直角で衝突した。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、視程は約100メートルで、衝突地点付近には弱い西流があった。
また、伸社丸は、専ら瀬戸内海の諸港間の塩酸輸送に従事する船尾船橋型の塩酸タンク船で、B、C両受審人ほか1人が乗り組み、塩酸100トンを載せ、船首1.4メートル船尾2.7メートルの喫水をもって、同月3日15時40分大阪港を発し、広島県佐伯郡大野のソーダニッカ株式会社の岸壁に向かった。
B受審人は、船橋当直を単独6時間2直制とし、発航から操舵操船に当たり日没になったとき、航行中の動力船の灯火を表示し、23時受審人に船橋当直を引き継いで降橋し、翌4日05時三原瀬戸の幸陽船渠株式会社の沖合で機関音が変わり減速されたことから昇橋して霧がかかり視界制限状態になったことを知ったが霧中信号を行うことを指示しないで、当直中のC受審人に操舵操船を任せ、見張りに当たって西行した。
C受審人は、視界の状況に合わせ速力を調整しながら西行し、同県臼島山尾埼に並航したころ霧が晴れて視界が回復し、06時12分少し前下碇磯灯標から059度5海里の地点で、針路を236度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの順潮流に乗じて10.5ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
C受審人は、06時48分少し前下碇磯灯標から224度1.4海里の地点に達したとき、再び霧が濃くなって視界が狭められ、視程が100メートルの視界制限状態となったが、B受審人から特に指示されなかったので、霧中信号を行わず、また、安全な速力にしないまま続航した。
B受審人は、06時49分少し過ぎ右舷船首15度1.5海里に神勢丸のレーダー映像を初めて探知したので自ら操舵指揮を執り、C受審人を操舵に当たらせて進行し、同時50分半下碇磯灯台から228度1.8海里の地点で、右舷船首15度1海里に神勢丸のレーダー映像を見るようになり、著しく接近することが避けられない状況であることを知ったが、同船と右舷を対して無難に航過できると思い、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めることなく、針路を231度に転じ、機関を半速力前進に落とし、6.0ノットの対地速力として続航し、同時53分少し前神勢丸の映像が更に接近してきたので、機関を中立にして針路を226度に転じ、同時55分少し前右舷船首至近に迫った神勢丸を視認し、汽笛による短音3回を吹鳴して全速力後進にかけたが及ばず、伸社丸は、1.0ノットの速力で220度に向首したとき前示のとおり衝突した。
衝突の結果、神勢丸は、左舷船首部の外板に破口を伴う凹損を生じ、伸社丸は、右舷前部外板に破口を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、霧による視界制限状態の瀬戸内海上蒲刈島北岸沖において、東行する神勢丸が、霧中信号を行わず、また、安全な速力にすることなく、レーダーにより前路に探知した伸社丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、西行する伸社丸が霧中信号を行わず、また、安全な速力にすることなく、レーダーにより前路に探知した神勢丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、視界制限状態の、上蒲刈島北岸沖を東行中、レーダーで前路に探知した伸社丸と著しく接近することを避けることができない状況であることを知った場合、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに、同人は、右転したから伸社丸と左舷を対して無難に航過できるものと思い、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じで行きあしを止めなかった職務上の過失により、続航して伸社丸と衝突を招き、神勢丸の左舷船首部の外板に破口を伴う凹損及び伸社丸の右舷前部外板に破口をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、視界制限状態の上蒲刈島北岸沖を西行中、レーダーで前路に探知した神勢丸と著しく接近することを避けることができない状況であることを知った場合、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに、同人は、神勢丸と右舷を対して無難に航過できるものと思い、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により、少角度で左転を繰り返し、速力を落としながら続航して神勢丸と衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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