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1998年(平成10年)

平成9年神審第97号
    件名
漁船千恵丸漁船法守丸衝突事件〔簡易〕

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年3月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明
    理事官
副理事官 山本茂

    受審人
A 職名:千恵丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:法守丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
千恵丸…船首部に擦過傷
法守丸…転覆して船尾部に損傷、船長は頚椎を負傷

    原因
法守丸…見張り不十分、船員の常務(新たな危険)不遵守(主因)
千恵丸…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、法守丸が、見張り不十分で、同航する千恵丸の進路上で停止し、同船に対して新たな衝突の危険のある関係を生じさせたことによって発生したが、千恵丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年1月1日23時10分
徳島県徳島小松島港
2 船舶の要目
船種船名 漁船千恵丸 漁船法守丸
全長 7.07メートル 5.40メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
漁船法馬力数 30 30
3 事実の経過
千恵丸及び法守丸は、しらすうなぎの卸売業を営むCが、しらすうなぎ漁を行う目的で所有する、船外機を備えたFRP製和船型漁船で、千恵丸をA受審人に、法守丸を息子のB受審人にそれぞれ貸与し、2人の漁獲物を買い取ることにしていた。
両船は、船首部の甲板上に発電機を、船尾部につり下げ式集魚灯2個を、船首部のマスト上に両色灯1個を、及び船尾右舷側のブルワーク上に設けた鋼製手摺(てす)りに110ボルト60ワットの白色灯をそれぞれ設置していた。Cは、所有船舶や他の僚船が夜間に狭い海域の漁場に集まって操業するところから、互いに相手船を識別するため、船尾の白色灯にそれぞれ異なった色のテープを巻き付けたプラスチック製の傘をかぶせることにし、千恵丸には青色テープを、法守丸には緑色テープを巻いた傘をかぶせていた。
こうして、A受審人は、妻の甲板員と2人で千恵丸に乗り組み、船首尾とも0.20メートルの喫水をもって、両色灯及び船尾の灯火を表示し、平成8年1月1日23時00分徳島県小松島市和田島町太田川右岸の船だまりにある定係地を発し、同県吉野川河口のしらすうなぎ漁場に向かった。
A受審人は、船外機の前に座って操縦ハンドルを握って操船に当たり、甲板員を発電機の後方に座らせて太田川を下航し、23時06分わずか前、河口部にあたる小松島飛行場灯台(以下「飛行場灯台」という。)から168度(真方位、以下同じ。)1,000メートルの地点に達したとき、針路を322度に定め、機関を全速力前進からわずか減じて13ノットの速力で進行した。
23時07分ごろA受審人は、自船より少し遅れて同定係地を発した法守丸が自船の右舷側30メートルばかりを追い越し、同じ漁場に向かっていることをその船尾の緑色を示す灯火から知り、同船の後に続き、同時08分半少し前、飛行場灯台から234度450メートルばかりの地点で、針路を於亀瀬灯標を正船首わずか右に見る009度に転じたところ、北寄りの風浪を船首方向から受けるようになり、後方を向いて座っている甲板員に波しぶきをかけないよう、機関を半速力前進に減じ、10ノットの速力で続航した。
23時09分少し過ぎA受審人は、正船首方向200メートルばかりを航行中の法守丸が突然停止し、衝突のおそれがある態勢で接近したが、法守丸が自船より高速力で先行しているものと思い、波しぶきを避けて前方の見張りを十分に行うことなく、法守丸の緑色を示す灯火の接近に気付かず、同船との衝突を避けるための措置をとらないまま進行中、23時10分飛行場灯台から314度380メートルの地点において、原針路、原速力のままの千恵丸の船首が、法守丸の船尾に後方からほぼ平行に衝突した。
当時、天候は晴で風力3の北風が吹き、潮侯は上げ潮の初期であった。
また、法守丸は、B受審人が1人で乗り組み、船首尾とも0.20メートルの喫水をもって、同日23時00分半、千恵丸に少し遅れて前示定係地を発し、両色灯及び船尾の灯火を表示して同船と同じ漁場に向かった。
B受審人は、船外機の前に座って操縦ハンドルを握り、千恵丸の船尾の青色を示す灯火を見ながら太田川を下航し、23時06分わずか過ぎ、飛行場灯台から168度1,000メートルの地点で、先行する千恵丸を正船首わずか左に見る324度に針路を定め、機関を全速力前進にかけて15ノットの速力で進行し、同時07分ごろ千恵丸を左舷側に追い越し、同時08分同灯台から239度420メートルばかりの地点で、針路を於亀瀬灯標を正船首わずか右に見る009度に転じた。
B受審人は、後方の見張りを行っていなかったので、千恵丸が自船と同様に転針し、船尾方近距離を同航中で、次第に遠ざかる状況であることに気付かなかった。
B受審人は、転針後北寄りの風浪で船体振動が大きくなり、船尾左舷側にある集魚灯の架台に取り付けていたナットが緩んで大きな音を立て始めたので、23時09分少し過ぎいったん船を止めてその締め付け作業を行うこととしたが、周囲に対する見張りを十分に行うことなく、そのころ正船尾方向200メートルばかりに視認できる状態であった千恵丸の両色灯の灯火に気付かず、大きく右転するなどして同船の進路から外れたところで停止するなど、同船を避ける措置をとらないで停止し、千恵丸に対して新たな衝突の危険のある関係を生じさせたまま同作業を終え、再び発進しようとしたところ、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、千恵丸は船首部に擦過傷を生じただけであったが、法守丸は転覆して船尾部に損傷を生じ、B受審人は頚椎(けいつい)を負傷した。

(原因)
本件衝突は、夜間、徳島小松島港内を漁場に向け航行中の法守丸が、見張り不十分で、後方近距離を次第に遠ざかる状態で同航する千恵丸の進路上で停止し、新たな衝突の危険のある関係を生じさせたことによって発生したが、千恵丸が、見張り不十分で、前路で停止した法守丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、徳島小松島港内を漁場に向け航行中、集魚灯の架台につけていたナットが緩んで大きな音を立て始め、これを修理するため機関を停止して行きあしを止める場合、後方近距離を同航中の千恵丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同船の進路上で機関を停止し、新たな衝突の危険のある関係を生じさせて衝突を招き、自船を転覆させ、自らも頚椎を負傷するに至った。
A受審人は、夜間、徳島小松島港内を漁場に向け航行する場合、前路を先行する法守丸の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、法守丸が自船より高速力で先行しているので大丈夫と思い、前路の見張りを十分行わなかった職務上の過失により、自船を追い越したのち進路上で停止した法守丸との衝突を避けるための措置をとらず、同船の船尾に衝突して転覆させ、B受審人に前示の傷を負わせるに至った。

参考図






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