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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年6月24日03時05分 能登半島珠洲岬北東方沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船第18長盛丸
漁船第11北洋丸 総トン数 4.97トン
4.96トン 登録長 11.23メートル
11.18メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 漁船法馬力数 90 90 3 事実の経過 第18長盛丸(以下「長盛丸」という。)は、小型機船底曳網漁業などに従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、あまえびの駆け回し式底曳網漁を行う目的で、空倉のまま、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成8年6月24日01時10分石川県蛸島漁港を発し、能登半島珠洲岬北東方沖合の漁場に向かった。 ところで、長盛丸の駆け回し式底曳網漁の投網作業は、引綱の先端に付けた浮標を船尾から投入し、機関を前進にかけて引綱を繰り出しながら航走して、約1,000メートル引綱を繰り出したところで、いったん行きあしを停止し、同綱の後端に重りとなるチェーンと手綱、さらに漁網を継手金具で連結したのち、再び機関を前進にかけて左に針路を変え、チェーンと手綱を海中に投入しながら約400メートル航走して漁網の投入を終え、その後同様の方法で反時計回りに航走し、浮標を収納して作業を終えるものであった。 A受審人は、02時50分ごろ漁場に着き、マスト灯、両色灯のほかに、船尾付近に白色全周灯1個を点灯したほか、甲板上の前・後部に多数の作業灯をそれぞれ点じたが、トロールにより漁労に従事する船舶が表示しなければならない緑、白の全周灯を表示しないまま、投網準備をしたあと、03時01分半禄剛埼灯台から066度(真方位、以下同じ。)10.5海里の地点で、引綱のついた浮標を投じ、針路を329度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10ノットの対地速力で、舵輪後方で見張りに当たって投網作業を開始した。 定針したときA受審人は、左舷船首56度1,200メートルのところに、第11北洋丸(以下「北洋丸」という。)の緑1灯を初めて視認し、その後窓枠で確かめ、方位がほとんど変わらないまま衝突のおそれがある態勢で接近していることを知ったが、同船が僚船であろうから、自船が多数の作業灯を点灯しているので操業中と分かり、そのうち避けてくれるものと思いながら、引綱を延出して続航した。 03時04分わずか過ぎ、A受審人は、北洋丸が同方位300メートルに接近したとき、衝突の危険を感じたが、依然同船が避けてくれるものと思い、速やかに機関を停止するなどの衝突を避けるための措置をとることなく、同船の注意を喚起するつもりで無線電話で周囲に呼びかけたものの、応答が得られないまま、そろそろ引綱の延出を終えるころで、転針地点が迫っていたことから、船尾の様子を確かめたのち左方を見たとき、至近に迫った北洋丸を認めたが、どうすることもできず、03時05分禄剛埼灯台から063度10.5海里の地点において、長盛丸は、原針路、原速力のまま、その左舷側中央部に、北洋丸の船首が後方から68度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期であった。 また、北洋丸は、小型機船底曳網漁業などに従事するFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、あまえびの駆け回し式底曳網漁を行う目的で、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日01時25分蛸島漁港を発し、珠洲岬北東方沖合の漁場に向かった。 B受審人は、出港時からマスト灯の電球が切れていることを知っていたが、これを取り替えずにマスト灯を表示しないまま、両色灯と船尾灯を掲げただけで出港し、甲板員を操舵室の後ろで休息させ、自ら単独で操舵と見張りに当たって能登半島沿岸沿いに東行し、01時52分長手埼灯台から132度1,000メートルの地点で、針路を037度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10ノットの対地速力で進行した。 ところで、B受審人は、3月中旬から6月末までのあまえび漁の期間中、悪天候のときや市場が休みとなる日曜、祝日、第1及び第3火曜日の各前日を除き、01時ごろ出漁して操業を行ったのち、17時ごろ帰港して自宅に帰り、20時ないし21時ごろに就寝して翌日再び出漁することを繰り返していたところ、当時3日間連続出漁し、1日の睡眠時間が4時間ほどで、睡眠不足気味で疲労が蓄積した状態であった。 定針後、B受審人は、操舵室内前部の両舷に渡された棚の右舷側に左方を向いて座り、右舷側壁に背をもたれて前路の見張りに当たり、02時32分ごろ先航する僚船を追い越して間もなく、疲れや睡眠不足から眠気を催すようになった。しかし、B受審人は、これまで居眠りしたことがなかったので、居眠りすることはないものと思い、居眠り運航とならないよう、休息中の甲板員を起こし2人で当直に当たるなど居眠り運航の防止措置をとることなく、同じ姿勢で見張りを続けるうち、いつしか居眠りに陥った。 03時01分半B受審人は、禄剛埼灯台から065度9.5海里の地点に達したとき、右舷船首56度1,200メートルに、長盛丸の白、紅2灯のほか多数の明るい作業灯を認めることができる状況にあり、その後同船の方位がほとんど変わらず衝突のおそれがある態勢で接近したが、居眠りをしていてこのことに気付かず、機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとらないまま続航中、北洋丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。 衝突の結果、長盛丸は左舷側中央部外板に破口を生じて浸水し、僚船に曳航(えいこう)されて蛸島漁港に向かう途中、沈没して全損となり、北洋丸は船首部に破口を生じて浸水したが、自力で帰港し、のち修理された。
(航法の適用) 本件は、夜間、能登半島珠洲岬北東方沖合において、駆け回し式底曳網漁に従事して引綱を投入中の長盛丸と航行中の北洋丸が衝突したものであるが、どのような航法が適用されるかについて検討する。 長盛丸は、駆け回しを開始して引綱を投入しながら進行していたが、マスト灯、両色灯及び船尾付近に白色全周灯を点灯したほか、甲板上に多数の作業灯を点じていたものの、漁労に従事することを示す緑、白の全周灯を表示しておらず、また10ノットの速力で進行し、他船から漁労に従事中であることが客観的に判別できる状況になかったことから、漁労に従事している船舶と認めることができず、海上衝突予防法第18条に規定する各種船舶間の航法を適用することは相当でない。 一方、両船は横切りの関係にあったものの、北洋丸は、10ノットの速力で漁場に向けて航行中で、マスト灯の表示が必要であったのに、両色灯と船尾灯を点灯しただけでマスト灯を点灯しておらず、他船には舷灯のみが視認可能であり、船種、その動静及び接近模様を的確に把握できる状況になかったことから、海上衝突予防法第15条に規定する横切り船の航法を適用することも相当でない。 従って、本件は、船員の常務によって律するのが相当である。 両船は、今後、海上衝突予防法の規定に従って法定の灯火を必ず表示しなければならない。
(原因) 本件衝突は、夜間、能登半島珠洲岬北東方沖合において、長盛丸が、底曳網の駆け回し中、トロールにより漁労に従事していることを示す緑、白の全周灯を表示せず、接近する北洋丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことと、漁場に向けて航行中の北洋丸が、両色灯と船尾灯のみを点灯してマスト灯を表示せず、かつ居眠り運航の防止措置が不十分で、接近する長盛丸との衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人が、夜間、珠洲岬北東方沖合の漁場において、緑、白の連掲する全周灯を掲げずに駆け回し式底曳網漁に従事中、北洋丸の緑灯1個を視認し、その後衝突のおそれがある態勢で間近に接近した場合、機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、自船が多数の作業灯を点灯して操業しているので、北洋丸が避けてくれるものと思い、機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、そのまま進行して同船との衝突を招き、長盛丸の左舷側中央部外板及び北洋丸の船首にそれぞれ破口を生じせしめ、長盛丸が曳航途中で沈没するに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人が、夜間、単独の船橋当直に就き、マスト灯を表示しないまま、自動操舵として操舵室内の両舷に渡された棚に座って漁場に向け北上中、連日の操業による疲れと睡眠不足から眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、休息中の甲板員を起こし2人で当直に当たるなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。 ところが、同人は、これまで居眠りしたことがなかったので、居眠りすることはないものと思い、休息中の甲板員を起こし2人で当直に当たるなど居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、長盛丸が接近したとき、衝突を避けるための措置をとることができないまま進行して衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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