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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成6年12月16日12時45分 瀬戸内海播磨灘 2 船舶の要目 船種船名 漁船第三幸栄丸
貨物船菱秀丸 総トン数 199.43トン 199トン 登録長 34.95メートル 51.26メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
551キロワット 625キロワット 3 事実の経過 第三幸栄丸(以下「幸栄丸」という。)は、専ら活魚運搬に従事する船尾船橋型鋼製漁船で、A受審人ほか3人が乗り組み、鯛15.2トンを載せ、船首3.2メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成6年12月15日14時45分大分県佐伯港を発し、瀬戸内海を経由して三重県渡会郡南東町神前湾に向かった。 A受審人は、翌16日12時00分大角鼻灯台から157度(真方位、以下同じ。)5海里の地点で単独の船橋当直に就き、針路を鳴門海峡に向く109度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.3ノットの対地速力で自動操舵により進行した。 A受審人は、舵輪の後方に立って、見張りに当たっていたところ、12時25分大角鼻灯台から138度7.7海里の地点に達したとき、菱秀丸が左舷船尾9度0.5海里のところから、わずかな交角をもって針路を交差させ、衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況にあったが、まさか昼間広い海域で後方から衝突して来る他船はいないと思い、後方の見張りを行っていなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことなく続航した。 こうして、A受審人は、依然、見張り不十分のまま、原針路、原速力で進行中、12時45分大角鼻灯台から130度10.2海里の地点において、菱秀丸の右舷船首が幸栄丸の左舷後部に後方から15度の角度で衝突した。 当時、天候は曇で風力3の北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。 また、菱秀丸は、雑貨輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で、B受審人ほか2人が乗り組み、ポリエチレン及び合成ゴム628トンを載せ、船首2.6メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、同月15日21時00分山口県徳山下松港を発し、三重県四日市港に向かった。 B受審人は、翌16日10時ごろ単独の船橋当直に就き、11時20分地蔵埼灯台から210度0.7海里の地点で、針路を鳴門海峡に向く110度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。 12時25分B受審人は、大角鼻灯台から139度7.2海里の地点に達したとき、右舷船首8度0.5海里のところに幸栄丸を初認し、わずかな交角をもって両船の針路が交差していて、衝突のおそれがある態勢で接近していたが、一瞥(いちべつ)して同船の左舷側を無難に追い越すことができると思い、その後幸栄丸の動静監視を十分に行わず、同船を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けないで続航した。 こうしてB受審人は、幸栄丸から目を離し、鳴門海峡通峡に備え、いすに腰掛けたまま潮汐表を調べているうち、両船はますます接近し、12時45分少し前、ふと潮汐表から目を離して顔を上げたとき、正船首及び船首少し左方に漂泊中の漁船2隻を視認し、驚いて手動操舵に切り替えて右舵一杯にとったところ、至近に迫った幸栄丸に気付き、あわてて機関停止とするも及ばず、船首が124度を向いて、ほぼ原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、幸栄丸は左舷後部に凹損を生じてのち修理され、菱秀丸は右舷船首に軽微な凹損を生じた。
(原因) 本件衝突は、播磨灘において、幸栄丸を追い越す菱秀丸が、動静監視不十分で、幸栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、幸栄丸が、見張り不十分で、菱秀丸に対し警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) B受審人は、単独で船橋当直に就き、播磨灘を東行中、右舷船首方に同航する幸栄丸を認め、追い越しの態勢で接近することを知った場合、同船との衝突のおそれの有無を判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、このままで無難に追い越すことができると思い、潮汐表を調べるなどして、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、幸栄丸の進路を避けずに進行して衝突を招き、菱秀丸の右舷船首に軽微な凹損並びに幸栄丸の左舷後部に凹損を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人は、単独で船橋当直に就き、播磨灘を東行する場合、後方から接近する菱秀丸を見落とさないよう、後方に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、まさか昼間広い海域で後方から衝突して来る他船はいないと思い、前方の見張りのみに専念し、後方に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左舷後方から接近する菱秀丸に気付かず、警告信号を行わないまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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