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1998年(平成10年)

平成9年神審第67号
    件名
漁船賀津丸漁船第三祐幸丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年3月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

早川武彦、工藤民雄、織戸孝治
    理事官
北野洋三

    受審人
A 職名::賀津丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第三祐幸丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
賀津丸…左舷船首部に凹傷
祐幸丸…右舷1番魚倉外板に破口を生じて浸水し、餌が流失したほか、船尾のハンドレール、オーニング等に曲損

    原因
祐幸丸…見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
賀津丸…見張り不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第三祐幸丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る賀津丸の進路を避けなかったことによって発生したが、賀津丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年3月23日03時05分
潮岬南方70海里
2 船舶の要目
船種船名 漁船賀津丸 漁船第三祐幸丸
総トン数 19.91トン 19.00トン
全長 19.00メートル
登録長 16.23メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 478キロワット 478キロワット
3 事実の経過
賀津丸は、船体中央部に操舵室を有し、まぐろはえなわ漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか5人が乗り組み、操業の目的で、船首1.02メートル船尾3.05メートルの喫水をもって、平成8年3月19日12時和歌山県勝浦港を発し、潮岬南南西方80海里付近の漁場に向かった。
同日22時ごろ漁場に着いたA受審人は、翌20日05時北緯32度10分東経135度10分の地点で、操業を開始し、以後1日1回の操業を行い、作業は毎日05時投縄を開始して09時終了、漂泊、待機し、13時揚縄を開始し、23時ないし24時終了後、元の位置に潮昇りする繰り返しで行っていた。
同月22日23時当日の揚縄を終え、それまで計0.5トンのまぐろを漁獲したA受審人は、漂泊して食事をとり、23日00時ごろから休息、仮眠し、02時30分北緯32度18.4分東経135度48.9分の地点を発進し、単独の船橋当直に就き、航行中の動力船の灯火を掲げ、北緯32度10分東経135度45分の地点に潮昇りをするつもりで、針路を201度(真方位、以下同じ。)に定めて自動操舵とし、機関を半速力前進にかけ、北北西の風浪により、左方に1度圧流されながら8.0ノットの対地速力で進行した。
発進時、A受審人は、いったんウイングに出て周囲を見張り、作動中のレーダーも見たが、付近に船影を認めなかったことから、しばらく不良釣針の選別を行ったのち、操舵室右舷側でいすに腰掛けて見張りに当たって続航した。
02時58分A受審人が、北緯32度14.9分東経135度47.4分の地点にさしかかったとき、左舷船首26.5度1海里のところに、第三祐幸丸(以下「祐幸丸という。)の表示する白、緑2灯を視認できる状況にあり、その後同船が前路を右方に横切り方位が変わらず、衝突のおそれのある態勢となって互いに接近したが、発進時レーダーで船影を認めなかったことから、付近に他船はいないと思い、いすに腰掛け、専ら前方のみ見張り、周囲に対する見張りを十分に行っていなかったので、祐幸丸に気付かず、避航の様子のない同船に対して警告信号を行うことも、間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行中、03時05分突然衝撃を感じ、賀津丸は、北緯32度14分東経135度47分の地点において、原針路、原速力のまま、その船首部が祐幸丸の右舷前部に後方から89度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力四の北北西風が吹き、海上は荒天模様であった。
また、祐幸丸は、船体中央部に操舵室を備えたまぐろはえなわ漁業に従事するFRP製の漁船で、B受審人ほか4人が乗り組み、操業の目的で、船首1.40メートル船尾2.80メートルの喫水をもって、同月11日08時和歌山県勝浦港を発し、同港南南東方200海里の漁場に向かった。
翌12日05時B受審人は、北緯30度33分東経137度35分の漁場に到着し、同時50分から操業を開始し、以後付近海域を漁場移動しながら1日1回の操業を続けた。
操業は、毎日05時50分投縄を開始し、09時30分ごろ終了、漂泊、待機し、13時揚縄を開始し、23時ないし24時終了後、潮昇りし、潮昇り中は乗組員は休ませ、B受審人が1人で船橋当直を行っていた。
同月22日23時58分当日の揚縄を終えた時点で、B受審人は、まぐろ計5.2トンを漁獲し、次の投縄地点の北緯32度15分東経135度45分に潮昇りするため、翌23日00時30分北緯32度11分東経135度58分の地点を発進し、単独の船橋当直に就き、航行中の動力船の灯火を表示し、針路を290度に定めて自動操舵とし、機関を微速力前進にかけ、3.8ノットの対地速力で、北北西の風浪を右舷船首から受け、船体を左舷に傾斜し、2度左方に圧流されながら進行した。
ところで、当時、付近海域には賀津丸、祐幸丸のほか1隻のまぐろはえなわ漁船が操業中で、これら3隻は毎日05時に互いの操業模様について無線により定時連絡を行っていたところ、同月22日22時30分ごろB受審人は、賀津丸から北緯32度18分東経135度40分付近で漂泊している旨の無線連絡を受け、その後の同船の潮昇りについては何も連絡がないまま、同地点で漂泊中と思い込んでいた。
B受審人は、レーダー、GPSプロッターを作動させ、レーダーは6から24海里レンジに適宜切り替え、時折これらを見て続航し、北北西の風浪により、レーダーの海面反射が強く、小型船の判別が困難で、また波しぶきか絶えず船橋前面の窓ガラスに降りかかり、見張りがし難い状況にあったが、前示賀津丸の無線連絡を聞いていたので、同船は漂泊中で、進行方向に他船はいないと思い、旋回窓を回し、レーダーを最適状態に調整するなど、周囲に対する十分な見張りを行うことなく、船橋中央後部左側の2段ベッドの上段と右側の無線の棚に渡した2枚の渡し板に前方を向いて腰掛けた状態で、進行した。
翌23日02時58分B受審人は、北緯32度13.9分東経135度47.5分の地点に達したとき、右舷船首64.5度1海里のところに、賀津丸の表示する白、紅2灯を確認し得る状況にあり、その後同船が前路を左方に横切り方位が変わらず、衝突のおそれのある態勢で互いに接近したが、依然、前路に対する見張り不十分で、同船の存在に気付かず、早期に右転してその進路を避けないで続航中、03時05分わずか前右舷船首至近に賀津丸の灯火を認めたものの、どうすることもできず、祐幸丸は原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、賀津丸は、左舷船首部に凹傷を生じ、祐幸丸は、右舷1番魚倉外板に破口を生じて浸水し、餌(えさ)が流失したほか、船尾のハンドレール、オーニング等に曲傷を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、潮岬南方沖合において、両船が漁場移動中、互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近した際、祐幸丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る賀津丸の進路を避けなかったことによって発生したが、賀津丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、潮岬南方の漁場において、単独の船橋当直に就き、漁場移動をする場合、当時、北北西からの風浪を受け、船橋前面窓ガラスに波しぶきがかかり、見張りが困難であったから、前路を左方に横切る賀津丸を見落とさないよう、旋回窓を使い、レーダーを最適状態に調整するなど前路に対する十分な見張りを行うべき注意義務があった。しかるに同人は、漁場移動前に賀津丸から受けていた無線連絡により、進行方向に他船はいないと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、来航する賀津丸に気付かず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、祐幸丸の右舷1番魚倉外板に破口を、その他船尾ハンドレール等にも曲傷を生じさせるとともに、賀津丸の左舷船首部に凹傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、潮岬南方の漁場において、単独の船橋当直に就き、漁場移動をする場合、前路を右方に横切る祐幸丸を見落とさないよう、周囲に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、漁場発進時にレーダーを見て他船の映像を認めなかったことから、付近に他船はいないと思い、周囲に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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