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1998年(平成10年)

平成9年横審第90号
    件名
貨物船さんくいーん貨物船生田丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年3月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

雲林院信行、大本直宏、西山烝一
    理事官
清重隆彦

    受審人
A 職名:さんくいーん船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:さんくいーん一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
C 職名:生田丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
D 職名:生田丸一等航海土 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
さんくいーん…球状船首部に曲損及び亀裂
生田丸…左舷側中央部外板に破口を生じ、その後沈没して全損

    原因
さんくいーん、生田丸…狭視界時の航法(信号、速力)不遵守

    主文
本件衝突は、さんくいーんが、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、生田丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Dを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年7月6日06時00分
房総半島南東沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船さんくいーん 貨物船生田丸
総トン数 499トン 487トン
全長 76.52メートル 74.03メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット 882キロワット
3 事実の経過
さんくいーんは、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A、B両受審人ほか3人が乗り組み、空コンテナ16個を積載し、船首1.86メートル船尾3.90メートルの喫水をもって、平成9年7月5日14時15分名古屋港を発し、茨城県鹿島港に向かった。
A受審人は、船橋当直を同人、B受審人及び二等航海士による単独の4時間3直制とし、翌6日00時00分船橋当直を二等航海士と交替するとき、視界も良かったので、視界が制限された際の船長への報告について改めて強調しないまま、針路等を伝えて降橋し、自室で休息した。
ところで、A受審人は、視界制限の船橋当直者がとるべき注意書を、船橋海図台の正面壁に掲示して各当直者に周知しており、また、B受審人もこの注意書に記載されている、視界が悪化したときには船長に報告するということを心得ていた。
04時00分B受審人は、二等航海士と船橋当直を交替し、同時55分野島埼灯台から170度(真方位、以下同じ。)3.2海里の地点で、針路を059度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの海潮流に乗じて12.7ノットの対地速力で、航行中の動力船であることを示す灯火を掲げ、自動操舵により進行した。
05時30分ごろから霧により視界が急に悪化し、同時45分ごろには視程が約100メートルとなったが、B受審人は、そのうち視界が回復するものと思い、視界制限状態になったことをA受審人に報告することなく、また、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもなく同一の針路、速力で続航していたところ、同時50分レーダーによりほぼ正船首方3海里のところに生田丸の映像を初めて認めた。
05時53分B受審人は、勝浦灯台から224度15.1海里の地点に達したとき、生田丸の映像が方位にほとんど変化のないまま2海里となり、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことを知ったが、同船の沖側にも他船の映像があったので、生田丸と右舷を対して替わそうと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく、針路を044度に転じて進行した。
05時56分B受審人は、生田丸の映像を右舷船首18度1海里に認め、同時58分半同映像が0.3海里に接近したことから、手動操舵に切り替え、機関を半速力前進の5.5ノットに減じ、その後同映像が海面反射域内に入って捕捉(そく)できなくなり、不安を感じて左舵20度を取ったところ、同時59分半少し過ぎ船首やや左100メートルのところに生田丸の船首部を視認し、左舵一杯、機関を全速力後進としたが効なく、06時00分勝浦灯台から224度13.7海里の地点において、さんくいーんは、041度を向いたころ、その船首部が、生田丸の左舷中央部にほぼ直角に衝突した。
当時、天候は霧で風力4の南西風が吹き、視程は約100メートル、潮候は下げ潮の初期で、衝突地点付近には微弱な北東流があった。
A受審人は、自室で就寝中、機関停止に気付き、直ちに昇橋し事後の措置に当たった。
また、生田丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、C、D両受審人ほか3人が乗り組み、粗鉛及び含銅ドロス計827トンを積載し、船首2.70メートル船尾3.50メートルの喫水をもって、同月4日15時10分青森県八戸港を発し、広島県竹原港に向かった。
C受審人は、船橋当直を同人、D受審人及び甲板長による単独の4時間3直制と決め、船橋の前面に視界制限時の注意書を掲示し、普段から各当直者に対して、視界が制限される状況となったときには報告するよう周知しており、翌々6日00時00分船橋当直を甲板長と交替するとき、視界が良かったので、視界が制限された際の船長への報告について改めて強調しないまま、針路等を伝えて降橋し、自室で休息した。
04時00分D受審人は、勝浦灯台から127度4.5海里の地点で、甲板長と船橋当直を交替し、針路を240度に定め、機関を回転数毎分270にかけ、折からの海潮流に抗して7.5ノットの対地速力で、航行中の動力船であることを示す灯火を掲げ、自動操舵により進行した。
D受審人は、当直を引き継いだとき、霧により視程が約100メートルに狭められていたものの、周囲に航行の妨げとなる船舶の映像が認められなかったので、自分1人で当直を続けても大丈夫と思い、C受審人に視界制限状態になったことを報告することなく、また、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもなく続航した。
05時50分D受審人は、勝浦灯台から221度12.7海里の地点に達したとき、レーダーで左舷船首2度3海里にさんくいーんの映像を初めて認め、同船との航過距離を少し離すつもりで右転し、針路を245度として進行した。
05時53分D受審人は、さんくいーんの映像が左舷船首7度2海里に接近し、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことを知り、同船と左舷を対して替わそうと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく、自動操舵のまま針路を少しずつ右転しながら続航した。
05時56分D受審人は、さんくいーんの映像が1海里に接近したのを認め、機関を回転数毎分250として6.0ノットに減速し、手動操舵に切り替え、レーダーで同映像を監視しながら少しずつ右転を続けたものの、ますます接近するので不安となり、同時58分機関を停止して舵角を増しながら右転中、衝突直前、左舷側至近にさんくいーんを視認したが、どうするいとまもなく、船首がほぼ311度に向いたとき前示のとおり衝突した。
C受審人は、自室で就寝中、異常を感じて昇橋し事後の措置に当たった。
衝突の結果さんくいーんは、球状船首部に曲損及び亀(き)裂を生じ、のち修理され、生田丸は、左舷側中央部外板に破口を生じ、その後沈没して全損となり、同船の乗組員全員がさんくいーんに救助された。

(原因)
本件衝突は、両船が、霧のため視界が制限された房総半島南東沖合を航行中、さんくいーんが、霧中信号を行うことも安全な速力とすることもせず、レーダーで前路に認めた生田丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、生田丸が、霧中信号を行うことも安全な速力とすることもせず、レーダーで前路に認めたさんくいーんと著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
B受審人は、霧により視界制限状態となった房総半島南東沖合を航行中、レーダーで前路に認めた生田丸と著しく接近することを避けることができない状況となったことを知った場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに、同人は、同船の沖側にも他船の映像があったので、生田丸と右舷を対して替わそうと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により衝突を招き、さんくいーんの球状船首に曲損及び亀裂を生じさせ、また、生田丸の左舷側中央部外板に破口を生じさせた後沈没させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
D受審人は、霧により視界制限状態となった房総半島南東沖合を航行中、レーダーで前路に認めたさんくいーんと著しく接近することを避けることができない状況となったことを知った場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに、同人は、同船と左舷を対して替わそうと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により、小角度の右転を続けて衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、生田丸を沈没させるに至った。
以上のD受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
C受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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