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1998年(平成10年)

平成9年仙審第76号
    件名
漁船真海丸漁船第三新山丸漁船第一新山丸衝突事件〔簡易〕

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年3月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

半間俊士
    理事官
副理事官 小金沢重充

    受審人
A 職名:真海丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:第三新山丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
真海丸…船首左舷側外板を損壊
第三新山丸…左舷側後部の外板を損壊
第一新山丸…左舷船尾角の損壊

    原因
真海丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
第三新山丸…動静監視不十分、警告信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、真海丸が、見張り不十分で、前路で定置網の洗浄作業中の第三新山丸及び第一新山丸を避けなかったことによって発生したが、第三新山丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年7月20日08時20分
三陸海岸広田湾
2 船舶の要目
船種船名 漁船真海丸 漁船第三新山丸
総トン数 116トン 19.24トン
全長 37.75メートル
登録長 14.92メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 661キロワット
漁船法馬力数 160
船種船名 漁船第一新山丸
総トン数 12.37トン
登録長 14.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 130
3 事実の経過
真海丸は、かつお一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、操業の目的で、A受審人ほか20人が乗り組み、平成8年7月20日06時30分宮城県気仙沼港を発し、途中えさのいわしを積み込むために同港の北側に位置する広田湾に向かった。
ところで、同湾は南方に湾口が開き、湾の中央部にはえさ場と称するかつお一本釣り漁業用えさのいけすが存在し、同漁業に従事する漁船は、操業に先立ち、ここでえさを積み込んで漁場に向かうことになっていた。一方、同湾湾口付近では、ときどき定置漁業の船が、31組となって定置網の洗浄作業を行うことがあり、同作業は、1隻が船体中央付近の舷側でマスト上から定置網を吊るしたうえ、可搬式消防ポンプで放水し、汚れなどを落として海中に下ろした後、その船と接近して平行に並んで船首・尾をロープでつないだ他の1隻が海中からその網を揚収し、残りの1隻が作業中の2隻の平行間隔を保つため、裏漕(うらこぎ)の要領でどちらかの船をごく低速力で引きながら行うものであった。A受審人は、長年、広田湾のえさ場に出入りし、同作業を行っている傍らを航過したことが度々あり、同湾でこのような状態の漁船群を認めれば、特殊な曳航模様と外観及びごく低速力で移動していることなどから、これらは引船列でなく、同作業に従事する船舶であることを知っていた。
A受審人は、広田湾のえさ場で約2トンのえさの積込みを終えたのち、船首2.2メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、08時05分同えさ場を発し、単独で操船にあたって幾つかあるいけすを替わしたのち、同時10分広田港防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から301度(真方位、以下同じ。)1.8海里の地点で針路を湾口に向かう155度に定め、機関を13ノットの全速力前進にかけて自動操舵で進行した。
08時16分防波堤灯台から255度1海里の地点に達したとき、A受審人は、左舷船首2度1,490メートルのところに定置網の洗浄作業を行っている第三新山丸、第一新山丸及びこれら2隻の船を裏漕の要領で引いている船(以下「新山丸列」という。)を視認し得る状況となり、このまま進行すれば衝突のおそれがある態勢となって接近していたが、3海里及び6海里レンジとしたレーダー2台を一見したのみで他船の映像を認めなかったことから前路に他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行うことなく、在橋中の通信長と話しをしていて新山丸列に気付かなかった。
08時18分半A受審人は、新山丸列が同方向560メートルになったものの、依然見張り不十分でこれに気付かず、同列を避けないまま続航していたところ突然衝撃を受け、08時20分防波堤灯台から210度2,200メートルの地点において、真海丸は、原針路、原速力のままその船首が、第三新山丸の左舷側船尾に後方から約65度の角度で衝突して同船を擦過し、さらに前方の第一新山丸の左舷側後端に衝突した。
当時、天候は曇で風力2の南南東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、視程は約1海里であった。
また、第三新山丸は、定置漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか4人が乗り組み、定置網の洗浄作業を行う目的で、船首0.7メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日07時10分岩手県広田港を発し、僚船第一新山丸ほか1隻と共に同港西方沖合の作業海域に向かった。
同海域に着いたB受審人は、自船を東方に向け、同じく東方を向いた第一新山丸を右舷側に約50メートル離して船首・尾をロープでつなぎ、その南側で残りの1隻に裏漕の要領でこの2隻を南方に約1ノットで引かせ、07時20分防波堤灯台から266度1,100メートルの地点で洗浄作業に取りかかった。
08時16分B受審人は、防波堤灯台から212度2,100メートルの地点で090度に向首していたとき、左舷正横後27度1,490メートルのところに南下して来る真海丸が方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢となって接近する状況下で洗浄作業を続けた。
08時18分半B受審人は、自船が090度に向首しているとき、真海丸を左舷正横後27度560メートルに初めて視認したが、一見しただけで、定置網の洗浄作業を行っている自船に衝突する船はないものと思い、その後同船に対する動静監視を十分に行うことなく、警告信号を行わずに同作業を続け、同時20分少し前至近に迫った同船を認めたもののどうすることもできず、前示のとおり衝突した。
また、第一新山丸は、定置漁業に従事する木造漁船で、第三新山丸とともに定置網の洗浄作業中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、真海丸は、船首左舷側外板を損壊し、第三新山丸は、左舷側後部の外板を損壊及び第一新山丸は、左舷船尾角の損壊をそれぞれ生じ、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、三陸海岸の広田湾湾口付近において、同湾を出航のため南下する真海丸が、見張り不十分で、前路で近接してごく低速力で移動しながら定置網の洗浄作業中の第三新山丸及び第一新山丸を避けなかったことによって発生したが、第三新山丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、三陸海岸の広田湾を漁場に向け南下する場合、前路で近接してごく低速力で移動しながら定置網の洗浄作業を行っている第三新山丸及び第一新山丸を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、レーダーを一見したのみで他船の映像を認めなかったことから前路に他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、第三新山丸及び第一新山丸を避けずに同船等との衝突を招き、真海丸の船首左舷側外板に損壊、並びに第三新山丸の左舷側後部外板に損壊、及び第一新山丸の左舷船尾角に損壊をそれぞれ生じさせるに至った。
B受審人は、三陸海岸の広田湾湾口付近において、ごく低速力で移動しながら定置網の洗浄作業中、同湾口に向けて南下して来る真海丸を認めた場合、同船との衝突のおそれの有無を判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、定置綱の洗浄作業を行っている自船に衝突する船はないものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、警告信号を行わずに同作業を続けて真海丸との衝突を招き、前示のとおり各船に損傷を生じさせるに至った。

参考図






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