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1998年(平成10年)

平成9年横審第89号
    件名
引船新辰丸貨物船冨士徳丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年3月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

原清澄、西田克史、西山烝一
    理事官
甲斐賢一郎

    受審人
A 職名:冨士徳丸船長 海技免状:四級海技士 (航海)
    指定海難関係人

    損害
新辰丸…右舷船首部外板に凹損
富士徳丸…船尾アンカーストック及び同アンカー受台に曲損

    原因
気象・海象配慮不十分

    主文
本件衝突は、冨土徳丸が、風圧に対する配慮が不十分で、係留中の新辰丸に圧流されたことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年3月15日16時00分
横須賀港
2 船舶の要目
船種船名 引船新辰丸 貨物船冨士徳丸
総トン数 657トン 499トン
全長 57.50メートル 54.53メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 3,383キロワット 735キロワット
3 事実の経過
新辰丸は、主としてえい航作業に従事する鋼製引船で、船長ほか8人が乗り組み、船首4.0メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、平成8年3月15日午前中から横須賀港の平成2号岸壁に左舷付けで係留中、同日16時00分横須賀港安浦2防波堤北灯台(以下「安浦防波堤灯台」という。)から253度(真方位、以下同じ。)305メートルの地点において、同船の右舷側前部に、平成1号岸壁に着岸のため右回頭中の冨士徳丸の左舷船尾が、前方から30度の角度で衝突した。
当時、天候は雨で風力4の北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
また、冨士徳丸は、船尾船橋型の砂利運搬船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首2.0メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、同日15時15分吾妻山(106メートル頂)から276度1,410メートルにある横須賀港第2区の岸壁を発し、福島県久之浜港に向かった。
A受審人は、出航時から引き続き操船に当たり、吾妻島に沿って北上中、折からの北東風による波浪で船首に衝撃を受ける状況となり、外洋に出れば更に波浪の影響を受けて航行が困難になると予想されたことから、久之浜港に直航することを取りやめ、これまでに何回も入出港の経験があった平成岸壁で避泊することにした。
ところで、平成岸壁は、南東方に面した1号岸壁と北東方に面した2号岸壁とが直角に交わるL字型で構成され、2本の防波堤が平成岸壁の北東沖に設置されており、同防波堤の内側には縦約250メートル横約330メートルの操船水域があった。
A受審人は、吾妻島北端の沖合で針路を転じて平成岸壁に向かい、15時44分安浦防波堤灯台から335度1,090メートルの地点で、針路を150度に定め、機関を半速力前進にかけて手動操舵とし、6.2ノットの対地速力で進行した。
15時49分A受審人は、安浦防波堤灯台の北方160メートルの地点に達したとき、平成2号岸壁に係留中の新辰丸を認め、平成1号岸壁には係留中の船舶がいなかったので、同岸壁に左舷付けに着岸することとし、右転を始め、同時50分安浦防波堤灯台から033度40メートルの地点に達したとき、針路をほぼ平成2号岸壁の北西端に向く253度とし、一たん機関を半速力後進にかけて速力を減じたのち、機関を中立とし、1.2ノットの前進行きあしで続航した。
15時57分A受審人は、安浦防波堤灯台から260度210メートルの地点に達したとき、右舷錨を投下し、その後錨鎖を延ばしながら右舷を取って右回頭を始めたところ、回頭するにつれ右舷側から強い北東風を受ける状況となり、空船状態で行きあしも十分でなかったことから、風圧で新辰丸に向け圧流される状況となったが、このまま右回頭を続けても同船を替わせるものと思い、機関を適切に使用するなど風圧に対する配慮を十分行うことなく回頭を続けた。
15時59分A受審人は、新辰丸の右舷前部と約10メートルに接近したのを認め、衝突の危険を感じ、微速力前進にかけたものの効なく、冨土徳丸は、その船首が339度に向いたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、新辰丸は右舷船首部外板に凹損を生じ、冨士徳丸は船尾アンカーストック及び同アンカー受台に曲損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、空船状態の冨士徳丸が、強い北東風が吹く状況下、横須賀港の平成1号岸壁に着岸するために右回頭を始めた際、風圧に対する配慮が不十分で、係留中の新辰丸に圧流されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、空船状態の冨士徳丸が、強い北東風が吹く状況下、横須賀港の平成1号岸壁に着岸するために右回頭を始めた場合、風圧で新辰丸に向けて圧流されることのないよう、機関を適切に使用するなど風圧に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、このまま回頭を続けても同船を替わせるものと思い、風圧に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、圧流されて同船との衝突を招き、新辰丸の右舷船首部外板に凹損、冨土徳丸の船尾アンカーストック及び同アンカー受台に曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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