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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年11月16日09時05分 岩手県宮古港 2 船舶の要目 船種船名 漁船第三十八天龍丸
漁船第三光栄丸 総トン数 130トン 1.3トン 全長 36.07メートル× 登録長
6.74メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 617キロワット 漁船法馬力数 25 3 事実の経過 第三十八天龍丸(以下「天龍丸」という。)は、従業制限を第一種とし、船体のほぼ中央部に船橋を有する1軸1舵の右回転の固定ピッチ推進器を装備した鋼製の凹甲板型漁船で、さんま棒受網漁の目的で、A受審人及びB受審人ほか12人が乗り組み、船首1.50メートル船尾3.50メートルの喫水をもって、平成7年11月16日09時00分岩手県宮古港出先埠(ふ)頭を発し、青森県八戸港の東方約10海里の漁場に向けて出航した。 B受審人は、船舶所有者の実弟で、昭和57年に同船が建造されて以来、船長兼漁労長として乗り組んで操船に従事し、平成7年4月にA受審人を同船の船長として雇入れした以降も、水揚げ後の甲板作業があるときは、同人を他の甲板員と共に甲板作業等にあて、自らは出入航操船に従事していた。 他方、A受審人も、甲板作業のないときは、出入航操船等に従事してはいたものの、B受審人が出入航操船を行うときには、同人の操船技量を見守っていたが、平素、無難に操船をこなしており、長年同船の船長として港内操船に従事していたことから、出入航時の操船を行わせても支障がないものと考えるに至り、適宜、同人に出入航時の操船を行わせることとし、自らは操船指揮をとらないこともあった。 ところで宮古港出崎埠頭の北側水域(以下「港内」という。)は、同埠頭岸壁を南端とする東西方向に約580メートル、南北方向に約500メートルの逆コの字形をした水域で、同埠頭北東端から089度(真方位、以下同じ。)260メートルの沖合の防波堤南端には宮古港防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)が設置され、出崎埠頭北東端との間が港への出入口となっていた。一方、出崎埠頭はその北東端から292度の方向に約410メートルが岸壁になっており、ここで北方に向けほぼ直角に折れ曲がり、ここから北側は、漁船用の水揚げ岸壁となっていて、魚市場用の建物が設けられていた。 B受審人は、防波堤灯台から282度550メートルの出崎埠頭の係船地を出航するに際し、入船状態から機関を後進にかけて離岸を開始し、09時03分半少し前同灯台から287度490メートルの地点で、247度に向首し、船首が同埠頭岸壁から約50メートル離れた状態となったとき船体を停止させ、この地点から右回頭を行って港の出口に向かうこととした。 09時03分半B受審人は、船首が同方向に向いているとき、右舷船首87度137メートルのところの港内に、南下する模様の第三光栄丸(以下「光栄丸」という。)を初めて視認したものの、同船が小型の漁船であったことから、接近すればいずれ自船を避けるものと思い、針路信号を行わないまま一べつしただけで、同船に対する動静を監視することなく、機関を2.5ノットの微速力前進にかけて右舵一杯とし、その後同船と衝突のおそれのある態勢となって接近したがこのことに気付かなかった。 B受審人は、09時04分半防波堤灯台から286度580メートルの地点に達し、船首が011度を向いて船尾部が同埠頭岸壁から離れるのを確認したのち、引き続き船首右方の回頭方向の見張りに当たったが、このとき左舷船首9度65メートルに光栄丸が港の出口に向け回頭して進行する態勢となっていたものの、依然、同船に対する動静監視が不十分で、この態勢に気付かず、機関を全速力後進にかけるなどして衝突を避けるための措置をとることなく右回頭を続けた。 09時05分少し前B受審人は、ふと左舷方を見たとき、左舷至近の所に光栄丸を認め、慌てて全速力後進としたが及ばず、09時05分防波堤灯台から291度550メートルの地点において、天龍丸の船首が76度を向いたとき、同船の左舷船首部が、光栄丸の右舷側中央部付近に、後方から約40度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期であった。 船尾甲板で作業中のA受審人は、乗組員から報告を受けて衝突の事実を知り、事後の措置にあたった。 また、光栄丸は、船首に操舵室を有する音響信号設備を備えない、さけはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人が一人で乗り組み、船体傾斜修正用の固定バラスト用として石約30キログラムを右舷側甲板上に並べ、船首尾0.30メートルの等喫水をもって、同日09時02分防波堤灯台から294度700メートルの前示水揚げ岸壁を発し、出崎埠頭南側の閉伊川河口上流の係留地に向け出航した。 C受審人は、出港に際し、船首をほぼ南方に向けて右舷付けの状態から機関を後進にかけ、右回頭を行いながら離岸し、同岸壁から約300メートル隔てた地点で船首が北方を向いたとき、機関を前進にかけて右回頭を行い、航行を開始した。 09時03分半C受審人は、防波堤灯台から294度610メートルの地点に達したとき、出崎埠頭に向け針路を165度に定め、機関を3ノットの微速力前進にかけて進行した。このときC受審人は、左舷船首11度137メートルの所に天龍丸が船首を南西に向けて右回頭を開始しながら出航する模様を視認し得る状況となったが、周囲に他船はいないものと思い、見張りを十分に行うことなく続航しその後、天龍丸と衝突のおそれのある態勢となって接近していることに気付かなかった。 C受審人は、09時04分半少し前防波堤灯台から290度600メートルの地点に達したとき、右舷船首17度70メートルの所に天龍丸が右回頭を行いながら接近していたものの、依然、見張りが不十分で、このことに気付かず、機関を全速力後進にかけるなどして衝突を避けるための措置をとることなく、同時04分半針路を116度に転じ、出崎埠頭の岸壁と約90メートル離してほぼこれに沿う進路となって進行した。 09時05分少し前C受審人は、天龍丸が右舷船首至近に接近したが、このことに気付かず続航中、09時05分操舵室右舷後方に突然衝撃を受け、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。 衝突の結果、天龍丸は左舷船首部外板に擦過傷を生じ、光栄丸は右舷側中央部付近外板に亀(き)裂を生じて左舷から転覆し、他船により前示水揚げ岸壁の北端にある造船所に引き付けられたがのち修理され操船中のC受審人が顔面挫傷等を負った。
(原因) 本件衝突は、岩手県宮古港出崎埠頭の北側水域において、天龍丸が同埠頭の岸壁を離岸後、右回頭を行って防波堤出口に向け進行を開始した際、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、光栄丸が、同埠頭に向け南下する際、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為) B受審人は、岩手県宮古港出崎埠頭の北側水域において、同埠頭の岸壁を離岸後、右回頭を行って同水域東方の防波堤出口に向け進行を開始した際、右舷船首方向に南下中の光栄丸を初めて視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、相手船が小型の漁船であったことから、接近すればいずれ自船を避けるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近していることを判断できないまま右回頭を続けて光栄丸との衝突を招き、天龍丸の左舷船首部の外板に擦過傷及び光栄丸の右舷側中央部付近の外板に亀裂をそれぞれ生じさせて、光栄丸を転覆させ、C受審人に顔面挫傷等を負わせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 C受審人は、岩手県宮古港出崎埠頭の北側水域において、同埠頭に向けて南下する場合、同埠頭の岸壁から防波堤出口に向けて右回頭を開始する模様の天龍丸を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、周囲に他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近してくる天龍丸に気付かないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自身も顔面挫傷等を負うに至った。 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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