|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年6月22日08時15分 宮城県鮎川港南西方沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船第十二三重丸
漁船第五省栄丸 総トン数 8.50トン 3.37トン 登録長 13.45メートル 9.30メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
132キロワット 漁船法馬力数 90 3 事実の経過 第十ニ三重丸(以下「三重丸」という。)は、すくい網等雑漁業に従事するFRP製漁船で、新造船を迎えに行く目的で、A受審人が1人で乗り組み、同乗者を4人乗せ、船首0.50メートル船尾1.80メートルの喫水をもって、平成7年6月22日08時宮城県小淵漁港を発し、同県女川港に向かった。 ところで、A受審人は、日ごろから船長が乗船しているときも自らが操船に当たり、何ら支障がなかったことから、この日は船長としての資格を有する者を乗せずに発航した。一方、三重丸は、12ノット以上の速力で航行すると、船首部が浮上して舵輪後方のいすに腰掛けたままの姿勢では、船首の左右両舷にそれぞれ約8度の死角が生じるところから、この死角を補うためには操舵室天井にある取外し式のふたを開け、立ち上がって見張りを行うことになっていた。 発航後A受審人は、単独で操船に当たり、湾奥の小淵漁港から南下し、宮城県牡鹿半島と、網地島に挟まれた幅約1海里の狭い水道に出て南東進することとし、08時08分少し前鮎川港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から294度(真方位、以下同じ。)2,700メートルの地点で、針路を同水道の北東側にほぼ沿う140度に定め、機関を12ノットの半速力前進にかけ、舵輪後方のいすに腰掛けた姿勢のまま、自動操舵により進行した。 08時12分半A受審人は、南防波堤灯台から264度1,400メートルの地点に達したとき、正船首方1,000メートルのところに、第五省栄丸(以下「省栄丸」という。)が北東方に向首して漁労に従事していたが、周囲を一べつしただけで、前路に他船はいないものと思い、前示ふたを開け、立ち上がって船首方の死角を補うなどして、前方の見張りを十分に行うことなく続航し、その後同船と衝突のおそれがある態勢となって接近したが、この態勢に気付かなかった。 08時14分A受審人は、省栄丸と正船首方370メートルに接近したとき、同船が成規の形象物を表示せず、漁労に従事していたが、その船型や、ほぼ停留していること及び同船の作業模様から、通常の航行中の動力船とは異なった状態の船舶であると判断し得る状況にあったものの、見張り不十分のまま進行してこのことに気付かず、右転するなど同船を避けるための措置をとることなく続航した。 08時15分三重丸は、南防波堤灯台から220度1,150メートルの地点において、原進路、原速力のまま、その船首が省栄丸の左舷側中央部に、前方から約80度の角度で衝突し、A受審人は、突然衝撃を受けて衝突に気付いた。 当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、潮候は上け潮の中央期であった。 また、省栄丸は、雑漁業等に従事する、長音、短音を区別して吹鳴することのできる音響信号設備を備えたFRP製漁船で、かれいの底はえ縄漁の目的で、B受審人が1人で乗り組み、船首0.15メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、同日04時30分宮城県鮎川港を発し、同港沖合の漁場に向かった。 ところで、省栄丸のかれい底はえ縄漁は、70ないし80本の枝縄を取り付けた長さ約500メートルの幹縄を、その両端に目安のボンデンを結んで海底に2本沈め、のちこれを順次引き揚げて行うものであった。 B受審人は、04時40分ごろ漁場に着き、2本の幹縄を投入することとし、1本目の投縄を終えたのち、その西方約200メートル沖合の南防波堤灯台から239度1,250メートルの地点で、これとほぼ平行して、2本目の投縄を開始し、南東方に向け同水道にほぼ沿って約500メートル投縄し終えたところで、約1時間待機したのち揚縄に取りかかることとした。 B受審人は、07時15分ごろ1本目揚縄を終えたところで2本目の揚縄を開始し、船首を風に立てるためスパンカを展張し、船首部に立って前方を向いた姿勢で、縄を手繰り揚げ、機関を適宜使用して潮上りを行いながら、折からの北東風に船首を立て、南東方に向け約0.2ノットの速力で揚縄を開始したが、漁労に従事していることを示す成規の形象物は表示していなかった。 B受審人は、08時12分前示衝突地点付近で040度に向首していたとき、左舷船首80度1,000メートルのところに、南下して来る三重丸を初めて視認したが、まだ同船との距離があり、接近してからも自船を替わると思い、同船に対する動静監視を十分に行うことなく揚縄を続け、その後同船の方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢となって接近したものの、この態勢に気付かず、同時14分三重丸と370メートルに接近したが、警告信号を行うことなく、漁労に専念した。 08時15分少し前省栄丸が040度に向首したとき、B受審人が、至近に迫った三重丸を認めて危険を感じ、どう対処することもできずに大声で叫んだものの及ばず、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、三重丸は、船首材に損傷を生じたが、のち修理され省栄丸は、左舷側板に破口を生じて浸水し、三重丸により鮎川港に引き付けられたのち浸水がひどくて転覆し、油が流出するので同船に引かれて沖に出たところ、南防波堤灯台から174度1,650メートルの地点で沈没した。
(原因) 本件衝突は、宮城県鮎川沖合において、同県牡鹿半島と網地島との間の狭い水道を南東進中の三重丸が、見張り不十分で、成規の形象物を表示せずにほぼ停留して底はえ縄漁の幹縄を揚収中の省栄丸を避けなかったことによって発生したが、省栄丸が、三重丸に対する動静監視不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、宮城県鮎川港沖合において、同県牡鹿半島と網地島との間の狭い水道を南東進する場合、前路の船首死角内で揚縄作業を行っている省栄丸を見落とすことのないよう、操舵室天井開口部を開け、立ち上がって船首方の死角を補うなどして、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、周囲を一べつしただけで、前路に他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突を避けるための措置をとることなく進行して省栄丸との衝突を招き、三重丸の船首材に損傷を生じ、省栄丸の左舷側外板に破口を生じて浸水させ、その後沈没させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第1条第1号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。 B受審人は、宮城県鮎川港沖合において、ほぼ停留して底はえ縄漁の幹縄揚収作業中、南下して来る三重丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、まだ同船との距離があり、接近してからも自船を替わると思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、揚縄を続けて衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
|