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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年6月7日05時57分 北海道利尻島北端沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船第15大隆丸
漁船第3漁盛丸 総トン数 6.24トン 0.8トン 登録長 11.90メートル 6.66メートル 機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関 漁船法馬力数 90 30 3 事実の経過 第15大隆丸(以下「大隆丸」という。)は、刺網、一本釣りなどの漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、たこいさり漁の目的で、船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成9年6月7日05時50分北海道利尻島本泊漁港を発し、同港北方沖合の漁場に向かった。 ところで、大隆丸は、操舵室を船尾寄りに配し、操舵室を上下に分けてそれぞれ周囲に窓を設け、また下部操舵室内前面の天井に設置された航海計器等のケーブルが縦横に張り巡らされて前面窓からの視界を妨げ、下部操舵室内の踏み台に立つと上部操舵室の窓から前方を見通すことが可能であった。 05時53分A受審人は、本泊港北防波堤灯台から315度(真方位、以下同じ。)50メートルの地点を通過したとき、針路を352度に定め、機関を約7ノットの半速力前進にかけ、手動操舵により進行した。 そのころ、A受審人は、船首方850メートルで停留中の第3漁盛丸(以下「漁盛丸」という。)を認め得る状況で、操舵室外後部左舷側に立って遠隔操舵を行い、その位置から船首方1,500メートルばかりにたこいさり漁を行っている僚船を認め、更に身体を右舷側に寄せて前方を確認したものの、右舷前方をいちべつして漁盛丸を見落とし、また3海里レンジとしたレーダーでも僚船を確かめたものの、レーダーに手の届かない離れたところからではレーダー画像を繊細に見ることができずに漁盛丸を見落とし、前路には僚船以外の船舶がいないものと思い、常時周囲を見渡すことのできる上部操舵室から見張りを行わなかったので、同船の存在に気付かず、見張りをレーダーに頼ったまま、衝突のおそれのある態勢で同船を避けずに続航し、05時57分本泊港北防波堤灯台から350度900メートルの地点において、大隆丸の船首が漁盛丸の左舷中央部に後方から82度の角度で衝突した。 当時、天候は曇で風力2の北東風が吹き、視界は良好であった。 また、漁盛丸は、船外機を有するFRP製漁船で、Bが船長として1人で乗り組み、刺網揚収の目的で、同日05時10分本泊港北防波堤灯台から053度900メートルの地点の船置場を発し、同時16分ごろ衝突地点付近の漁場に至って、機関を停止して停留し、北東から南西方に入れてあった刺網の揚収にかかった。 上下の合羽を着用したB船長は、漁盛丸には見張りに支障をきたすような上部構造物がなかったが、漁ろうに従事していることを表示する形象物を掲げず、05時53分衝突地点付近において船首を270度に向け、救命作業衣を着用しないで揚網作業を行っていたとき、左舷船尾82度850メートルから自船に向首進行する大隆丸を認め得る状況で、同船が衝突のおそれのある態勢で接近していたが、衝突を避けるための措置をとらずにいたところ、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、大隆丸は船首部の右舷外板に擦過傷及び左舷外板に凹損を生じ、漁盛丸は左舷中央部外板にV字型の破口を生じてのち廃船になり、B船長(昭和16年10月14日生、一級小型船舶操縦士免状受有)が海に投げ出されて溺水により死亡した。
(原因) 本件衝突は、北海道利尻島北端沖合において、漁場に向けて北上する大隆丸が、見張り不十分で、前路で停留する漁盛丸を避けなかったことによって発生したが、漁盛丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、北海道利尻島北端沖合において、漁場に向けて北上する場合、当時の見張り位置の操舵室外からは正船首付近の見通しが悪く、またレーダーに手の届かない同位置からはレーダー画像を繊細に見ることができず、前路で停留する漁盛丸を見落とすおそれがあったから、常時周囲を見渡すことのできる上部操舵室から見張りを行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、レーダーを見て前路に船舶がいないものと思い、常時周囲を見渡すことのできる上部操舵室から見張りを行わなかった職務上の過失により、前路の漁盛丸に気付かず進行して同船との衝突を招き、大隆丸の船首部右舷外板に擦過傷、左舷外板に凹損を及び漁盛丸の左舷中央部外板に破口を生じさせ並びにB船長を死亡させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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