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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年2月10日08時50分 長崎県大蟇島南方沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船第8正徳丸
漁船初生丸 総トン数 8.5トン 3.2トン 登録長 14.55メートル 9.95メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 漁船法馬力数 120 70 3 事実の経過 第8正徳丸(以下「正徳丸」という。)は、一本釣り漁業及び漁獲物運搬に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、長崎漁港(三重地区)において漁獲物の陸揚げを終え、船首0.50メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、平成9年2月10日08時20分同漁港を発し、五島列島福江島の三井楽漁港に向かった。 A受審人は、08時30分ノ瀬灯標から180度(真方位、以下同じ。)200メートルの地点に至り、進路を273度に定めて機関を全速力前進にかけ、23.0ノットの対地速力で自動操舵によって進行した。 ところで、A受審人は、空倉のまま全速力で航行すると船首側が著しく浮上し、操縦席に座った状態では正船首付近に水平線を見ることができない死角が生じるので、平素、時々船首を左右に振るか、操舵室天窓から屋上に顔を出すかして死角を補う見張りを行っていた。 定針後A受審人は、操縦席に座って運航にあたり、08時44分操舵室天窓上から右舷船首方に同航船を認め、再び操縦席に腰掛けて続航するうち、同時47分大蟇島大瀬灯台(以下「大瀬灯台」という。)から145度5.1海里の地点でこの同航船を追い越し、そのころほぼ正船首2,100メートルに漂泊中の初生丸を視認することができ、その後同船に向首接近して衝突のおそれがある状況であった。しかし、同受審人は、同航船を追い越したばかりなので、前路に他船はいないものと思い、船首を左右に振るなどして船首死角を補う見張りを行わなかった。 こうして、A受審人は、初生丸に気付かなかったので、転針して同船を避けないまま進行中、08時50分、正徳丸は、大瀬灯台から156度4.5海里の地点において、原針路、原速力のまま、その船首が初生丸の左舷船尾部に前方から57度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期にあたり、付近海域には弱い北北西流があった。 また、初生丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、船首0.40メートル船尾0.70メートルの喫水をもって、同日06時40分長崎県瀬戸港の瀬戸福島郷船だまりを発し、母子島付近海域に出漁した。 B受審人は、その後不漁であったことから適宜に漁場を変え、08時20分前示衝突地点付近に移動して船首から海中にシーアンカーを投入し、船首が150度に向いた漂泊状態で一本釣りの操業にとりかかった。 B受審人は、右舷側船尾甲板で手釣りを始め、間もなく魚が釣れだし、活魚倉のある同舷側船首甲板に移動して釣りを続けるうち、08時47分左舷船首57度2,100メートルに正徳丸を視認することができ、その後同船が自船に向首接近して衝突のおそれがある状況であったが、釣りに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行なわなかった。 こうして、B受審人は、正徳丸に気付かなかったので、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊中、08時50分わずか前、左舷側至近距離に迫った同船を初めて視認し、立って両手を振りながら大声で叫んだものの効なく、船首が150度に向いた漂泊状態のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、正徳丸は船底外板に破口と亀(き)裂を生じて推進器を曲損し、初生丸は左舷側船尾部が圧壊し、B受審人が腰部打撲擦過傷及び外傷性頸椎症等を負った。
(原因) 本件衝突は、長崎県大蟇島南方沖合において、正徳丸が、見張り不十分で、漂泊中の初生丸を避けなかったことによって発生したが、初生丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、長崎県大蟇島南方沖合を航行する場合、船首死角が大きい状態であったから、前路の初生丸を見落とさないよう、船首を左右に振るなどして船首死角を補う見張りを行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路に他船はいないものと思い、船首死角を補う見張りを行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊している初生丸を避けることなく進行して衝突を招き、正徳丸の船底外板に破口等を生じて推進器を曲損し、初生丸の船尾都を圧壊して乗組員に打撲擦過傷等の負傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。 B受審人は、長崎県大蟇島南方沖合で漂泊して一本釣りを行う場合、接近してくる正徳丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、釣りに気を奪われたまま、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突を避けるための措置をとらないで衝突を招き、正徳丸及び初生丸に前示の損傷を生じ、自身も前示のように負傷するに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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