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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年1月14日06時48分 周防灘東部 2 船舶の要目 船種船名 押船第二徳船丸
バージゆきかぜ 総トン数 193.16トン 登録長 29.97メートル 全長
66.60メートル 幅 12.00メートル 深さ 4.80メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 1,544キロワット 船種船名 貨物船イズモ 総トン数
3,797.00トン 登録長 90.60メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
2,059キロワット 3 事実の経過 第二徳船丸(以下「徳船丸」という。)は2基2軸でフォイトシュナイダプロペラを装備した鋼製押船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか3人が乗り組み、空倉のまま船首1.60メートル船尾1.80メートルの喫水となった鋼製バージゆきかぜ(以下「ゆきかぜ」という。)の船尾凹部に船首部を嵌合(かんごう)し、直径75ミリメートル長さ12メートルのホーサーを先取り索とした直径50ミリメートルのワイヤロープ各1本を、自船の後部両舷にあるウインチから船尾部ローラーを介してゆきかぜの船尾部両舷にあるビットにそれぞれ係止し、両船を堅固に結合して全長約92メートルの押船列(以下「徳船丸押船列」という。)を構成し、船首3.20メートル船尾3.80メートルの喫水をもって、平成8年1月14日04時00分山口県徳山下松港第1区晴海埠頭(ふとう)岸壁を発し、大分港に向かった。 A受審人は、大分港までの航海時間が8時間ばかりであったので、航海中の船橋当直をB指定海難関係人と2人で行うことにし、発航時の操船に引き続いて自ら単独で操船に当たり、徳船丸には上下に連掲したマスト灯2個、舷灯一対及び船尾灯を、ゆきかぜの船首部には徳船丸からの供給電源による舷灯一対及び追加のマスト灯1個を表示して徳山湾を出航し、04時58分姫島灯台から009度(真方位、以下同じ。)14海里の地点で針路を186度に定め、機関を全速力前進にかけて6.5ノットの押航速力として間もなく、B指定海難関係人に船橋当直を引き継ぐことにした。 ところで、A受審人は、周防灘東部の海域は、周防灘、伊予灘及び伊予灘西の各推薦航路が姫島北東方沖合で交差し、船舶の交通が輻輳(ふくそう)する難所であることをよく知っていたが、平素、B指定海難関係人が単独で当直に当たって度々通航している海域なので大丈夫と思い、当直を交替する際に、接近する他船があるときには速やかにその旨を報告するよう具体的な指示を与えることなく、同人に当直を委(ゆだ)ねて降橋し、自室で休息した。 こうして、B指定海難関係人は、船橋当直を引き継いで単独で操船に当たり、前示の針路、同速力で手動操舵により周防灘東部を南下し、06時40分姫島灯台から022度3海里の地点に達したとき、右舷船首67度2海里ばかりのところに白、白、紅3灯を掲げて前路を左方に横切る態勢で接近するイズモを初認した。ところが、同人は、イズモを短時間見ただけでその前路を無難に航過できるものと思い、同船と接近する旨を速やかにA受審人に報告してその指揮を仰ぐことなく、手動で操舵することに気を取られ、その後同船に対する動静監視を十分に行わなかったので、イズモの方位に変化がなく衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同船の進路を避ける措置がとられないまま続航中、06時47分半右舷前方間近に迫ったイズモを認めて衝突の危険を感じ、急ぎ左舵一杯、続いて全速力後進としたが及ばず、06時48分姫島灯台から027度2.2海里の地点において、原速力のまま24度左転して162度を向いたゆきかぜの右舷前部に、イズモの船首が後方から60度の角度で衝突した。 当時、天候は曇で風力2の南風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、視界は良好であった。 A受審人は、自室で休息中、衝突の衝撃で本件発生を知り、急ぎ昇橋して事後の措置に当たった。 また、イズモは、鋼製貨物船で、船長C及び一等航海士Dほか韓国人及びフィリピン人船員13人が乗り組み、空倉のまま船首2.44メートル船尾3.80メートルの喫水をもって、同年1月13日16時30分大韓民国プサン港を発し、関門海峡経由で岡山県水島港に向かった。 C船長は、航海中の船橋当直を4時間交替の3直制とし、0時から4時までを二等航海士、4時から8時までを一等航海士及び8時から12時までを三等航海士にそれぞれ当たらせ、各直に操舵手1名を配置して2人で当直を行わせ、狭水道通航や視界制限時には昇橋して運航の指揮を執るようにしており、航行中の動力船の灯火を揚げ自ら運航の指揮を執って関門海峡を通航したのち、翌14日03時50分ごろ部埼灯台から125度1海里ばかりの地点で二等航海士に当直を委ねて降橋した。 D一等航海士は、04時ごろ部埼灯台から125度3海里ばかりの地点で二等航海士から当直を引き継ぎ、同時37分、同灯台から125度10.6海里の地点で針路を102度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて12.2ノットの対地速力で周防灘を東行した。 06時15分ごろD一等航海士は、左舷船首29度7海里ばかりのところに徳船丸押船列の掲げる灯火を初認し、同押船列が南下していると思って続航したのち、同時40分姫島灯台から345度2.4海里の地点に達したとき、徳船丸押船列を左舷船首29度2海里ばかりに見るようになり、引き続きその動静を監視したところ、その後その方位に変化がなく、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることを知った。 06時46分、D一等航海士は、徳船丸押船列との距離が800メートルとなっても同押船列に避航の気配が認められないまま互いに接近していたものの、そのうち相手船の方で避航するものと思い、同押船列に避航を促すよう警告信号を行わないで続航し、同時47分同押船列がなおも避航しないまま間近に接近したが、速やかに右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく進行中、06時48分少し前、衝突の危険を感じて右舵一杯としたが及ばず、原針路、全速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、ゆきかぜの右舷船首部外板に破口を伴う約5メートルの凹損、船尾部外板に曲損並びに徳船丸の船首部ブルワークに約2メートルの座屈損及びイズモの左舷船首部に凹損を生じたほか、徳船丸とゆきかぜを係止していたワイヤロープが切断されて海中に垂れ下がり、同ロープを巻き込んで徳船丸の右舷側フォイトシュナイダプロペラに損傷を生じ、同ロープの回収作業中にA受審人が右腓骨骨折を、一等機関士Eが鼻骨骨折をそれぞれ負った。
(原因) 本件衝突は、夜間、周防灘東部において、両船が互いに針路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、徳船丸押船列が、動静監視不十分で、前路を左方に横切るイズモの進路を避けなかったことによって発生したが、イズモが、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。 徳船丸押船列の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格者に船橋当直を委ねる際、接近する他船があるときには速やかにその旨を報告するよう、具体的な指示を与えなかったことと、船橋当直者が、前路を左方に横切る態勢で接近するイズモを認めた際、速やかに船長にその旨を報告しなかったこととによるものである。
(受審人等の所為) A受審人は、夜間、山口県徳山下松港の出航操船を終えて、無資格の甲板長に船橋当直を委ねる場合、接近する他船があるときには速やかにその旨を報告するよう、具体的な指示を与えるべき注意義務があった。しかるに、同人は、甲板長が単独で当直に当たって度々通航している海域なので大丈夫と思い、具体的な指示を与えなかった職務上の過失により、イズモが右舷方から接近している旨の報告が得られず、その進路を避ける措置がとられないまま進行して衝突を招き、ゆきかぜの右舷船首部外板に破口を伴う凹損、船尾部外板に曲損及び徳船丸の船首部ブルワークに座屈損及びイズモの左舷船首部に凹損を生じさせたほか、徳船丸とゆきかぜを係止していたワイヤロープが切断されて海中に垂れ下がり、同ロープを巻き込んで徳船丸の右舷側フォイトシュナイダプロペラに損傷を生じさせ、同ロープの回収作業中に自身が右腓骨骨折を、一等機関士が鼻骨骨折をそれぞれ負うに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B指定海難関係人が、夜間、単独で船橋当直に就き周防灘東部を南下中、イズモが前路を左方に横切る態勢で接近していることを速やかに船長に報告しなかったことは本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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