日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成9年那審第34号
    件名
漁船第三十六松良丸漁船福聚海丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年2月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

長浜義昭、東晴二、井上卓
    理事官
阿部能正

    受審人
A 職名:第三十六松良丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
C 職名:福聚海丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士免状
    指定海難関係人

    損害
松良丸…船首上部が破損
福聚海丸…船橋右舷側が大破

    原因
松良丸…居眠り運航防止措置不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
福聚海丸…見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第三十六松良丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、漂泊中の福聚海丸を避けなかったことによって発生したが、福聚海丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったこともその一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年5月4日04時50分
沖縄島東方海上
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十六松良丸 漁船福聚海丸
総トン数 19.91トン 19.86トン
登録長 14.97メートル 14.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 130 130
3 事実の経過
第三十六松良丸(以下「松良丸」という。)は、主としてまぐろ延(はえ)縄漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人、B指定海難関係人ほか3人が乗り組み、操業の目的で、船首尾とも1.5メートルの等喫水をもって、平成8年4月25日17時和歌山県勝浦港を発し、同月28日沖縄島東方の漁場に至って操業を開始した。
ところで、A受審人は、連日、06時ごろから10時ごろまで投縄を、14時ごろから00時ごろまで揚縄を、01時ごろから投縄開始まで漁場移動をそれぞれ行う形態で操業を続けていたところ、越えて5月4日01時北緯25度59分東経129度27分の地点において5回目の操業を終え、漁具の整理等のため1時間ほど漂泊したのち、僚船に工具を貸すために洋上で会合することと漁場移動とを兼ねて南東方13海里ばかりの地点に向かうこととしたが、B指定海難関係人に漁場移動も含む操業全般を任せているので指示するまでもないと思い、連日の操業で睡眠不足の同人に対し、漁場移動を開始する前に漂泊して休息をとるなど居眠り運航の防止措置について十分指示せず、漁具の後片付けを終え、02時ごろから自室で休息した。
一方、B指定海難関係人は、投縄中に約1時間と投縄終了から揚縄開始まで約4時間の休息をとるだけで連日操業を続けており、睡眠不足となっていたが、慣れているので居眠りすることはあるまいと思い、僚船との会合時刻に合わせで漂泊し休息をとるなど居眠り運航の防止措置をとらないまま、02時前示地点を発し、漁場移動を開始した。
こうしてB指定海難関係人は、発進時から単独で船橋当直に当たり、針路を130度(真方位、以下同じ。)に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ5.0ノットの対地速力で、航行中の動力船の掲げる法定の灯火を表示し、6海里レンジとしたレーダーの見張り警報装置を2海里に設定して進行していたところ、03時50分同装置の警報ブザー音を聴き、正船首2海里のところに、白、緑2灯、黄色の回転灯及び光力の強い多数の作業灯で甲板を明るく照明した福聚海丸を初めて視認し、続いて会合時刻を調整するため微速力に減じ2.0ノットの対地速力として続航した。同人は、その後、福聚海丸が漂泊中であることを認めたものの、減速したこともあって接近してから避けるつもりで船橋内右舷側のいすに腰掛けて当直を続けていたところ、睡眠不足からいつしか居眠りに陥った。
自室で休息中のA受審人は、福聚海丸に向首して衝突のおそれがある態勢で接近したが、当直中のB指定海難関係人が居眠りしたため、同船を避けることができなかった。
その後、B指定海難関係人は、依然居眠りしたまま進行し、04時50分北緯25度52分東経127度37分の地点において、松良丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、福聚海丸の船橋右舷側に、前方から70度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南南東風が吹き、視界は良好であった。
A受審人は、衝突の直後にB指定海難関係人が機関を後進にかけたので目覚めて昇橋したところ、同人から報告を受けて衝突を知り、事後の措置に当たった。
また、福聚海丸は、主としてまぐろ延縄漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人、D指定海難関係人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首1.2メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、同年4月25日10時宮崎県目井津漁港を発し、翌々27日沖縄島東方海上の漁場に至って操業を開始した。
C受審人は、越えて5月4日01時6回目の操業を終え、単独で船橋当直に当たって漁場移動を行い、03時20分前示衝突地点付近において機関を中立運転とし、航行中の動力船が掲げる法定の灯火及びマスト頂部に黄色の回転灯をそれぞれ表示し、400ワットの投光器2基を含む多数の作業灯で甲板を明るく照明し、06時ごろの投縄開始までの予定で漂泊を開始したが、D指定海難関係人が機関中立の音で目覚めて昇橋するものと思い、同人が昇橋するまで自身が船橋当直を続けるなど周囲の見張りを行わず、すぐに船橋内の床に横になって休息した。
一方、D指定海難関係人は、01時ごろから船橋後部左舷側ベッドで休息していたところ、03時20分機関中立の運転音で1度目覚めたものの、その後間もなく再び寝入ってしまった。
C受審人は、03時50分240度に向首していたとき、右舷船首70度2海里のところに、松良丸の白、紅、緑3灯を視認でき、その後松良丸が自船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近したが、これに気付かず、警告信号を行うことも、機関を使用するなど衝突を避けるための措置をとることもできないまま漂泊中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、松良丸は、船首上部が破損し、福聚海丸は、船橋右舷側が大破したが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、沖縄島東方海上において、漁場移動中の松良丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で漂泊中の福聚海丸を避けなかったことによって発生したが、福聚海丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとらなかったこともその一因をなすものである。
松良丸の運航が適切でなかったのは、船長が漁撈長に対し居眠り運航の防止措置について十分指示しなかったことと、漁撈長が居眠り運航の防止措置を十分とらなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、沖縄島東方海上において、漁撈長に漁場移動を行わせる場合、連日の操業で睡眠不足の状態であったのであるから、漁場移動を開始する前に漂泊して休息をとるなど居眠り運航の防止措置について十分指示すべき注意義務があった。しかるに同人は、漁場移動を含む操業全般を漁撈長に任せているので居眠り運航の防止措置について指示するまでもないと思い、なんら指示しなかった職務上の過失により、漁場移動中の漁撈長が居眠りに陥り、強力な灯火を多数点じて漂泊中の福聚海丸を避けることができないまま、進行して衝突を招き、松良丸の船首上部に損傷を、福聚海丸の船橋右舷側に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人が、夜間、沖縄島東方海上において、漁場移動を終え投縄までの予定で漂泊中、周囲の見張りを行わず、自船に向かって衝突のおそれのある態勢で接近する松良丸に対し、警告信号を行うことも、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとることもできなかったことは、本件発生の原因となる。
しかしながら、以上のC受審人の所為は、光力の強い多数の作業灯で甲板を明るく照明するなどの手段を講じていたうえ、漂泊していたのが外洋であった点に徴し、職務上の過失とするまでもない。
B指定海難関係人が、夜間、沖縄島東方海上において連日操業を行う際、漁場移動を開始する前に漂泊して休息をとるなど居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、その後安全運航に留意している点に徴し、勧告しない。
D指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION