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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年1月25日12時10分 伊予灘東部 2 船舶の要目 船種船名 貨物船第一芙蓉丸
漁船三光丸 総トン数 487トン 4トン 全長 65.00メートル 14.40メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
1,066キロワット 36キロワット 3 事実の経過 第一芙蓉丸(以下「芙蓉丸」という。)は、専ら砂糖及び飼料のばら積みのほか、鋼材の輸送に従事していた船尾船橋型貨物船で、A及びB両受審人ほか3人が乗り組み、砂糖1,200トンを倉内にバラ積みし、船首3.70メートル船尾4.65メートルの喫水をもって、平成8年1月23日16時20分鹿児島県徳之島亀徳港を発し、豊後水道経由で岡山県岡山港に向かった。 A受審人は、B受審人と2人で6時間ごとの輪番による航海当直体制を採り、翌々25日06時に1人で航海当直に入り、09時ごろ佐田岬灯台沖を通過し、11時30分伊予青島灯台から249度(真方位、以下同じ。)5.2海里の地点に達したとき、針路を海図記載の推薦航路線に沿う048度に定めて自動操舵とし、機関を10.5ノットの全速力前進にかけ、折からの0.8ノットばかりの北東流に順じて約11.3ノットの対地速力で進行していたところ、同時45分B受審人が昇橋してきたので、前方左右に漁船が点在していることを注意したのち、同時50分テレビで気象情報を見るため早めに当直を交代して降橋した。 B受審人は、2台のレーダーに電源が入れられていつでも使用できる状態で当直を交代したのち、右舷船首方から接近する漁船を見かけたので、目視のまま同漁船を替わし、折からの黄砂現象で視程が約1.5海里であったものの、他船を視覚で捉えることができたので、その後もレーダー監視を行わないまま目視による見張りを続け、12時05分少し前右舷船首12度0.8海里に法定の形象物を掲げて漁労に従事していた同航漁船の三光丸がいたが、同時に左舷船首20度1海里から接近していた他の反航漁船を認め、これに気をとられて三光丸を見落とした。 12時05分B受審人は、伊予青島灯台から004度2.6海里の地点に至ったとき、左舷側の反航漁船を替わすため自動操舵のまま針路を060度に転じたところ、反航漁船とは十分に替わる態勢となったものの、三光丸の船尾をほぼ正船首に見て同船に接近し始め、三光丸と衝突のおそれが生じたがこれに気づかず、漁船2隻をそれぞれ替わしたことに気が緩み、前方の状況を広くレーダーで確かめず、海図から伊予灘航路第8号灯浮標以遠の同航路第9号及び釣島水道各灯浮標の位置を求めてGSPプロッターに入力することに熱中し、依然として三光丸に気づかず、同船の進路を避けずに続航中、同時10分伊予青島灯台から018度3.2海里の地点において、芙蓉丸は、原針路・原速力のまま、その船首が三光丸の左舷船尾に右舷後方から30度の角度で衝突した。 当時、天候は曇で風力3の西北西風が吹き、付近には約0.8ノットの北東流があった。 A受審人は、衝突の衝撃で昇橋し、事後の措置にあたった。 また、三光丸は、小型底引網漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人が息子の甲板員とともに2人で乗り組み、船首0.30メートル船尾0.75メートルの喫水をもって、エビこぎ網漁操業のため、25日03時30分愛媛県上灘漁港を発し、青島西方沖合のカレイなど底魚の漁場に向かった。 C受審人は、漁場に至って操業を繰り返し、10時40分ごろ伊予青島灯台から331度2.2海里の地点で、当日3回目の操業を開始し、針路を061度に定め、機関を微速力前進にかけ、折からの0.8ノットばかりの北東流に順じ、約1.6ノットの対地速力で曳網(えいもう)を開始した。 C受審人は、甲板員を船室で休ませ、1人で舵輪を操りながら曳網にあたっているうち、12時05分ごろ右舷側後方から左舷側後方に追い抜くように航行していた芙蓉丸が急に針路を転じて三光丸に向首し、衝突のおそれが発生したが、これに気づかずに続航していたところ、同時09分少し過ぎ正船尾200メートルから接近していた芙蓉丸を漸く認め、汽笛で長音3声吹鳴し、右舵を一杯にとったが効なく、三光丸は、船首がほぼ090度に向いたとき前示のとおり衝突した。 衝突の結果、芙蓉丸に損傷はなく、三光丸は、左舷船尾外板に破口を生じたほか、漁網を流失したが、のち損傷部分は修理され、漁網は回収された。
(航法の適用について) 本件衝突は、芙蓉丸が、伊予灘東部において、法定の形象物を掲げて漁労に従事していた三光丸に、その後方から追越しの態勢で接近して衝突した事件である。 本件については、海上衝突予防法(以下「予防法」という。)の第13条及び第18条のいずれを適用しても差し支えないように思われるが、漁網を曳いていた三光丸は、その速力が1.6ノットで、むしろ、漂泊状態に近かったうえ、緊急時の避航動作をその意志があっても十分に行えなかったところに、本件の特徴があると認められるので、予防法第13条の追越し船の航法よりも、同法第18条各種船舶間の航法を適用するのが妥当である。
(主張に対する判断及び原因についての考察) 1 B受審人の見張りの状況 B受審人の当廷における、「左舷側にいた反航漁船は、網を揚げたばかりであったが、その後転針して芙蓉丸の前路に進出してきたと思われる。」旨の供述があるが、三光丸の運航模様、衝突模様及び損傷模様から判断すれば、左舷側にいた反航漁船と三光丸とは、とても同一とは認められず、三光丸を見落としたことは明白である。 2 A受審人の航行上の注意 A受審人が、B受審人に対して見張りに関する注意を指示しなかったとして、A受審人に職務上の過失があったとする見解があるが、B受審人は、有効な海技免状を受有し、単独で航海当直をしても十分な技量を備えていると認められるうえ、A受審人は、当直交代時付近に漁船が点在していたことを注意したのであるから、特に、航行上の注意が不十分であったとは認め難い。 3 B受審人の避航不履行の内容 2船の見合い関係から判断した場合、芙蓉丸の避航不履行は、その内容が甚だ良くない。すなわち、相手船の三光丸は、法定の形象物を掲げて漁労に従事していたうえ、その真後ろから同船を追い越す態勢で接近し、その進路を避けないまま衝突した点である。したがって、まず、芙蓉丸側に衝突の主要な原因があったとするが相当である。 4 三光丸の衝突防止措置開始時期 一方、三光丸は、避航に関して芙蓉丸と立場が全く違い、見合い関係発生の時点から速やかに芙蓉丸の進路を避ける義務はない。つまり、芙蓉丸がある程度まで接近し、同船に避航の気配が全く認められないと判断できる時期まで、むしろ、芙蓉丸の避航動作を妨げるような余分な動作をとってはならず、三光丸の衝突防止措置はあくまでも最後の手段である。 ところで、三光丸側が芙蓉丸と200メートルに接近するまで気づかなかったことを、見張り不十分ではなかったかとする見解があるが、200メートルという距離は、切迫した衝突の危険のある状況であったとはいえるが、2船の間で衝突防止措置をとる余裕が全くない状況であったと断定的に認めるには少々無理がある。いま仮に、芙蓉丸が三光丸の汽笛信号に気づいて速やかに避航動作をとったとしたならば、200メートルは同船の長さのほぼ三倍の距離で、かつ、三光丸の速力が1.6ノットであったとはいえ、追越しの態勢であって、互いに接近していたわけではないから、むしろ、芙蓉丸は三光丸の進路を十分に避けることができる状況にあったといえる。 ただし、三光丸は重い漁網を曳いていたため、単独の避航動作については十分な効果が期待できなかったことは事実で、特に、真後ろから追越しの態勢で接近する船舶に対する緊急時の有効な避航動作は不可能に近い状態であったといえる。だからこそ、予めこれを周知するため、漁労中を示す法定の形象物を掲げていたのであろう。 5 2船の各動作に関する比較判断 芙蓉丸については、衝突地点は海図に記載された推薦航路付近の船舶交通の輻輳(ふくそう)する海域にあり、つまり、厳重な見張りが求められるところで見張りを十分に行わなかったこと、一方、三光丸については、予め法定の形象物を掲げていたこと、芙蓉丸が接近してきたとき汽笛による注意喚起を行ったこと、そして、最終的に衝突を避けるために右舵をとって衝突防止に努めたこと、これらを総合すれば、三光丸は衝突の予防又は防止上、同船にできる必要な措置をすべて行ったことになり、芙蓉丸に一方的に衝突の原因があったとするのが相当である。
(原因) 本件衝突は、伊予灘東方において、芙蓉丸が、見張り不十分で、法定の形象物を掲げて漁労に従事していた三光丸にその真後ろから接近し、同船の進路を避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為) B受審人は、漁船が点在して操業する伊予灘東方海域で単独の航海当直に従事した場合、前方で操業していた三光丸を見落とすことのないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、2隻の漁船を替わしたことに気が緩み、レーダーで周囲の状況を確認せず、航海計器の操作・調整に熱中し、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、三光丸の進路を避けないまま進行して衝突を招き、三光丸の左舷船尾外板に破口を生じさせ、漁網を流失させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。 C受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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