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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年4月24日21時18分 潮岬東方沖合 2 船舶の要目 船種船名 油送船第103菱化丸
漁船大黒浩栄丸 総トン数 995.46トン 19.99トン 全長 68.05メートル 登録長
14.95メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 1,471キロワット
478キロワット 3 事実の経過 第103菱化丸(以下「菱化丸」という。)は、船尾船橋型液化石油ガスばら積船で、A受審人ほか7人が乗り組み、空倉のまま、船首2.10メートル船尾3.90メートルの喫水をもって、平成8年4月24日12時三重県四日市港を発し、岡山県水島港に向った。 同日20時ごろA受審人は、三木埼南南東方沖合13海里付近で、単独の船橋当直に就いて熊野灘を西行し、21時03分樫野埼灯台から074度(真方位、以下同じ。)7.5海里の地点に達したとき、針路を228度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.5ノットの対地速力で進行した。 定針したときA受審人は、右舷船首37度1.4海里のところに、大黒浩栄丸の黄色点滅灯を初認し、操業中の漁船かと思いながら続航するうち、21時06分半右舷船首39度1海里のところに、同船のいずれの舷灯も認めないまま、その船尾灯を視認できる状況となり、その後方位に明確な変化のないまま、同船を追い越す態勢で接近した。 21時10分半A受審人は、右舷船首43度0.6海里に大黒浩栄丸の左舷灯を認め、マスト灯も認めるようになり、同時13分樫野埼灯台から083度5.7海里の地点で、同船が右舷船首51度650メートルに近づいたので、用心のため機関を半速力前進の10ノットに減じたところ、それまでわずかに右方に変わっていた方位が全く変わらなくなったが、コンパス方位を確かめるなどして動静監視を十分行わず、このまま無難に追い越すことができると思い、同船の進路を避けずに進行した。 その後A受審人は、大黒浩栄丸から目を離し、海図や周囲を見たりしているうち、両船はますます接近し、21時18分少し前右舷船首至近に迫った同船を認め、衝突の危険を感じ、急いで左舵一杯、機関を停止したが及ばず、21時18分樫野埼灯台から089度5.1海里の地点において、菱化丸は、船首が224度に向首したとき、大黒浩栄丸の船首が右舷中央部に後方から20度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、視界は良好であった。 また、大黒浩栄丸は、まぐろ延縄(はえなわ)漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか4人が乗り組み、操業の目的で、船首1.20メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、同日20時和歌山県勝浦港を発し、北緯31度東経135度付近の漁場に向かった。 ところで、B受審人は、有限会社A社の代表者で、長年、本船に乗り組み、船長兼漁労長として漁業に携わってきたところ、長男が海技免状を取得してから同人を船長職に就けたものの、依然、自ら運航指揮をとり続け、勝浦出港に際しても出港操船を行い、引き続き単独の船橋当直に就いた。 B受審人は、成規の灯火のほか、操舵室上部のマストに24ボルト20ワットの黄色点滅灯を表示し、同日20時48分梶取埼灯台から147度3.5海里の地点に達したとき、針路を204度に定め、機関を全速力前進にかけ、8ノットの対地速力で進行した。 21時06分半B受審人は、樫野埼灯台から076度5.9海里の地点に達したとき、左舷船尾63度1海里のところに、菱化丸の白、白、緑3灯を視認することができ、その後方位に明確な変化がなく、同船に追い越される態勢で接近したが、操舵室右舷側で、いすに腰掛けて専ら前方の見張りに当たり、後方に対する見張りを行っていなかったので、菱化丸に気づかなかった。 21時13分B受審人は、左舷正横後15度650メートルばかりに菱化丸を視認でき、それまでわずかに右方に変わっていた方位が以後変わらなくなり、衝突のおそれがより確かな状況となっったが、依然見張り不十分で、これに気付かず、避航の様子のない同船に対し、警告信号を行わず、同時17分同方位150メートルに接近したとき、右転するなど衝突を避けるための協力動作をとらないで続航中、大黒浩栄丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、菱化丸は、右舷側外板に凹傷及び擦過傷を、一方、大黒浩栄丸は、左舷船首部に亀裂(きれつ)、凹傷を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、潮岬東方沖合において、大黒浩栄丸を追い越す菱化丸が、動静監視不十分で、大黒浩栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、大黒浩栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人が、夜間、単独で船橋当直に就き、潮岬東方沖合を西行中、右舷前方に認めた大黒浩栄丸に接近して同船を追い越す場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、動静監視を十分行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、このままで無難に追い越すことができるものと思い、コンパス方位を確かめるなど動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、大黒浩栄丸の進路を避けずに進行して衝突を招き、菱化丸の右舷外板に凹傷等並びに大黒浩栄丸の左舷船首部に亀裂などを生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人が、夜間、単独で船橋当直に就き、潮岬東方沖合を漁場に向けて航行する場合、後方から接近する菱化丸を見落とさないよう、後方に対する見張りを十分行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、操舵室右舷側でいすに腰掛けて前方の見張りのみに専念し、後方に対する見張りを十分行わなかった職務上の過失により、左舷後方から接近する菱化丸に気づかず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作もとらないまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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