|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年8月4日21時00分 香川県志々島沿岸 2 船舶の要目 船種船名
プレジャーボートさふみ 登録長 9.71メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
169キロワット 3 事実の経過 さふみは、上甲板中央部に操舵室及びキャビンを設置したFRP製プレジャーボートで、A受審人が単独で乗り組み、知人の家族12人を乗せ、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水で、平成8年8月4日18時00分香川県三豊郡詫間町瀬戸マリーナを発し、同時30分岡山県笠岡市真鍋島に至って海浜で夕食を楽しんだのち、20時00分ごろ同島本浦を発航し、志々島の西側を経て同マリーナへの帰途に就いた。 A受審人は、乗船者の中に小さな子供が6人いて、出航したのちキャビンで眠りに就いていたことから、機関を微速力前進にかけて南下し、20時36分板持鼻灯台から282度(真方位、以下同じ。)1,050メートルばかりの地点に達したとき、針路を169度に定め、10.0ノットの対地速力で進行した。 ところで、志々島南側海域には、東西700メートル南北200メートルのはまちの養殖施設が海岸から500メートルばかりのところに設置されており、その頂点の4個所には光達距離約3キロメートルの太陽電池内蔵の標識灯が備え付けられていた。 A受審人は、備讃瀬戸や燧灘の諸島に週に一度の割合で釣りに出かけており、夜間、瀬戸マリーナに帰ることも多かったので、衛星航法装置のプロッタに常用のコースを入れ、これを利用しており、粟島と志々島との間を南下するときは、両島のほぼ中間を170度で南下し、志々島の南西端から206度900メートルばかりの地点で、津島に向首する125度に転じることとしており、前示養殖施設がこの常用コースから離れていたこともあって、その存在を知らずに航行していた。 A受審人は、20時57分少し前、志々島に並行したころ、当夜がたまたま津島の神社の夏祭りで、その祭礼の灯火を認めたことから、同灯に向け転針することとした。しかし、同受審人としては、同地点はいつもの転針地点より1,100メートルばかり手前であり、神社の灯火に向けると志々島に接航することとなり、これまで、この海域の状況を承知していなかったばかりか、夜間は水路の状況を十分に確認できないおそれがあったのであるから、手前の地点で転針を行うことなく、このまま常用コースを航行すべき状況にあった。 A受審人は、20時57分三玉岩灯標から346度1.5海里ばかりの地点に達したとき、津島神社の灯火に向く134度に転針したところ、養殖いかだの標識灯に向首する態勢となったが、船首の浮上で大きな死角が生じていたこともあって、これに気付かないまま続航中、21時00分さふみは、三玉岩灯標から004度1,850メートルの地点において、原針路のまま養殖いかだに衝突し、これを乗り越えた。 当時、天気は晴で風力3の西南西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった A受審人は、さふみが外板の破口から浸水して水船となったので、ただちに、乗船者を養殖いかだに移動させ、救助を待つうち、捜索中の巡視船に翌5日03時ごろ発見された。 衝突の結果、さふみは、船底外板の船首部に長さ0.56メートル幅0.08メートル及び船尾部に長さ1.30メートル幅0.08メートルの破口が生じたが、マリーナに引き寄せられ、他人に譲渡されたのち修理され、養殖いかだは、係止用のロープが切れたが、のち取り替えられ、乗船者は、負傷もなく、無事に救助された。
(原因) 本件養殖いかだ衝突は、夜間、備讃瀬戸の粟島と志々島間の常用コースによって帰港中、予定地点で転針しなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人が、夜間、粟島と志々島間の常用コースにより定係港に帰港中、転針しようとした場合、志々島沿岸の水路状況を知らなかったのであるから、志々島を十分に離すよう、いつもの地点で転針すべき注意義務があった。しかるに、同人は、神社の祭礼の灯火を視認したことから、これに向けることとし、いつもの地点の手前で転針した職務上の過失により、志々島に接航して養殖いかだとの衝突を招き、さふみに船底破口及び養殖いかだにロープ切断並びに乗船者に危険を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。 |