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1998年(平成10年)

平成9年横審第22号
    件名
漁船第八和久丸遊漁船第三福徳丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年2月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

西田克史、大本直宏、雲林院信行
    理事官
坂本公男

    受審人
A 職名:第八和久丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
C 職名:第三福徳丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
和久丸…船首部に擦過傷
福徳丸…右舷中央部外板に破口を生じて機関室に浸水、釣り客1人が額に全治3日間の打撲傷

    原因
和久丸…居眠り運航防止措置不十分(主因)
福徳丸…動静監視不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第八和久丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、漂泊中の第三福徳丸を避けなかったことによって発生したが、第三福徳丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年5月21日11時10分
静岡県御前埼南南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八和久丸 遊漁船第三福徳丸
総トン数 6.6トン 4.8トン
全長 14.90メートル 15.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 356キロワット 264キロワット
3 事実の経過
第八和久丸(以下「和久丸」という。)は、FRP製の小型遊漁兼用船で、A受審人が実父であるB指定海難関係人と2人で乗り組み、操業の目的で、船首0.40メートル船尾0.60メートルの喫水をもって、平成8年5月21日01時静岡県浜名港を発し、同県御前埼南方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、夜明けごろ御前埼の南方約25海里の地点に至って引き縄漁に取り掛かり、その後適宜移動しながら操業を続け、かつお約100キログラムを獲て帰航することとし、10時10分御前埼灯台から143度(真方位、以下同じ。)16.6海里の地点を発し、針路を浜名港港口に向く293度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、14ノットの対地速力で進行した。
ところで、この時期の和久丸は、静岡県の各港を適宜基地とし、連日のように夜半過ぎには出港し、日出ごろから同県沖合の漁場で操業を行ったのち、水揚げのため13時ごろには帰港する、いわゆる日帰り操業を繰り返していた。また、当日は連続操業の4日目にあたり、A受審人及びB指定海難関係人は、前日の入港の際も、漁獲物の水揚げ後燃料油、清水等の積込みや漁具の手入れなどを行い、20時ごろ操舵室の床で就寝したもので、睡眠時間4時間程度の状況が続き疲れ気味であった。
A受審人は、漁場発進時からB指定海難関係人とともに引き縄漁具などの後片付けを行ったのち、10時20分同指定海難関係人を見張りに当たらせ、自ら操船に就いて続航中、眠気を覚えたのでしばらく休息することとし、無資格の同指定海難関係人に船橋当直を委ねることとした。
その際、A受審人は、B指定海難関係人に疲れた様子が見られなかったので大丈夫と思い、居眠り運航の防止措置として、眠気を催したときには報告するよう指示することなく、休息することを告げただけで操舵室の隅の床に体を横たえ、間もなくして眠り込んだ。
B指定海難関係人は、10時30分ごろ船橋当直に就き、操舵室右舷側前方の窓際にもたれ掛かった姿勢で進行していたところ、連続操業の疲労と睡眠不足から次第に眠気を催すようになった。しかしながら、同人は、これまで一度も居眠りをしたことがなかったので、まさか眠り込むことはないと思い、操舵室内を歩きまわって眠気を払拭することも、眠気を催した旨を休息中のA受審人に報告することもなく当直を続けるうち、11時ごろ居眠りに陥った。
こうして、B指定海難関係人は、11時05分半少し過ぎ御前埼灯台から194度8.4海里の地点に達したとき、正船首1海里に漂泊中の第三福徳丸(以下「福徳丸」という。)を視認することができ、その後同船に向首する態勢で接近していたが、居眠りしていたのでこのことに気付かず、同船を避けないで進行中、11時10分御前埼灯台から201度8.4海里の地点において、和久丸は、原針路、原速力のまま、その船首が福徳丸の右舷側中央部にほぼ直角に衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期であった。
A受審人は、衝突の衝撃で目を覚まし、事後の措置に当たった。
また、福徳丸は、FRP製の小型遊漁兼用船で、C受審人が1人で乗り組み釣り客6人を乗せ、鯛釣りの目的で、船首0.20メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、同日04時30分静岡県大井川港を発して御前埼南南西方沖合のおもり漁場と称される釣り場に向かい、05時55分ごろ前示衝突地点付近に至り、機関を中立としてスパンカーを掲げ、船首が御前埼灯台に向く021度を中心に、長い周期をもって左右それぞれ約45度に振れ回りながら漂泊した。
C受審人は、魚群探知機の魚影を見ながら釣り糸の長さの調整を指示したり、適宜機関を使用して潮登りを行い、11時05分半少し過ぎ船首がほぼ053度に向いたとき、前示衝突地点において、右舷船首60度1海里に来航する和久丸を初認した。ところが、同人は、自船がスパンカーを掲げて漂泊中であるから航行船の方で避けるものと思い、そのころ3人の釣り客に魚が同時に釣れたのでその世話に気を取られ、引き続き和久丸に対する動静監視を十分に行うことなく、その後同船が自船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行わないまま、更に接近しても機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとらずに漂泊を続けた。
11時10分少し前C受審人は、ふと右舷方を見て約100メートルに接近している和久丸に気が付いて驚き、機関を後進に操作したが始動に手間取り、機関が後進にかかり始めたものの、及ばず、福徳丸は、船首がほぼ023度に向いたとき前示のとおり衝突した。
衝突の結果、和久丸は船首部を擦過しただけであったが、福徳丸は右舷中央部外板に破口を生じて機関室に浸水し、和久丸及び僚船に横抱きされて静岡県地頭方漁港に引き付けられ、その後修理された。また、福徳丸釣り客1人が額に全治3日間の打撲傷を負った。

(原因)
本件衝突は、御前埼南南西方沖合において、航行中の和久丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、漂泊中の福徳丸を避けなかったことによって発生したが、福徳丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
和久丸の運航が適切でなかったのは、船長が無資格者に船橋当直を委ねるに当たり、眠気を催したときには報告するよう指示しなかったことと、船橋当直者が眠気を催した際、船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、御前埼南東方沖合の漁場から帰航中、無資格者に船橋当直を委ねる場合、居眠り運航の防止措置として、眠気を催したときには報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、無資格の船橋当直者に疲れた様子が見られなかったので大丈夫と思い、眠気を催したときには報告するよう指示しなかった職務上の過失により、無資格の船橋当直者が居眠り運航となり、漂泊中の福徳丸を避けることができないまま進行して衝突を招き、和久丸の船首部を擦過させ、福徳丸の右舷中央部外板に破口を伴う損傷を生じさせ、福徳丸釣り客1人に軽傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
C受審人は、御前埼南南西方沖合において、スパンカーを掲げて漂泊中、自船に向けて来航する和久丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、引き続きその動静を十分に監視すべき注意義務があった。しかるに、同人は、スパンカーを掲げて漂泊しているので航行船が避けるものと思い、そのころ釣り客に魚が同時に釣れてその世話に気を取られ、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、警告信号を行うことも、また、衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けて衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、釣り客1人に軽傷を負わせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、船橋当直中に眠気を催した際、船長に報告しなかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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