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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年6月27日23時30分 宮城県金華山東方沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船第参拾正進丸
漁船佐賀明神丸 総トン数 245トン 131トン 全長 51.75メートル 38.30メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
860キロワット 772キロワット 3 事実の経過 第参拾正進丸(以下「正進丸」という。)は、まき網漁業船団に所属する船尾船橋型の鋼製漁獲物運搬船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか7人が乗り組み、氷約120トンを載せ、漁獲物の水揚げ後再び船団に戻る目的で、船首3.10メートル船尾4.30メートルの喫水をもって、平成7年6月27日16時35分宮城県石巻港を発し、途中、大原湾小網倉浜で活餌(いきえ)のいわしを買い込んだのち、同県金華山東方60海里ばかり沖合の漁場に向かった。 A受審人は、船橋当直を自らとB指定海難関係人、一等航海士、甲板長及び甲板員の5人による単独3時間交替と決め、正規の航海灯を掲げて出航時から引き続き操舵操船にあたり、18時58分少し過ぎ金華山灯台から180度(真方位、以下同じ。)2.5海里の地点に達したとき、針路を090度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、13.5ノットの対地速力で進行した。 ところで、当時の操業はかつおのまき網漁で、4月から始めていたが6月になって急に漁獲が良くなり、魚群探知器による探索や漁獲物の運搬及び水揚げ等に忙殺され、十分に休息がとれない日が続き、船橋当直者の中には、疲れから時々眠気を催す者もいたが、コーヒーを飲んだり顔を洗ったりして眠気を払拭(しょく)しながら何とか日々の船務をこなす状況であった。 A受審人は、21時金華山灯台から095度27.5海里の地点に達したとき、B指定海難関係人に船橋当直を任せるにあたり、自らも当直中に眠気を催すことがあったので、他の当直者も眠気を催すことがあるかも知れないとの懸念を持っていたが、眠り込んでしまうようなことはあるまいと思い、同指定海難関係人に対し、眠気を催した際には眠気を払拭するように努め、それでも眠気がとれないときには報告するようなど居眠り運航の防止措置についての指示を十分に行うことなく、針路及び速力のみを告げて降橋した。 B指定海難関係人は、早朝から出航間際までの水揚げ作業中クレーン操作を担当し、出航後網船との連絡や気象情報の収集などの通信業務に就き、十分な休息がとれないまま引き続き航海当直に入った。そして、同指定海難関係人は、交替してすぐに舵輪後方に置かれた台に座ってあぐらをかき、背後の柱にもたれた姿勢で見張りにあたり、引き継いだままの針路及び速力で、自動操舵により航行した。 B指定海難関係人は、12マイルレンジとしたレーダーを併用して見張りにあたっていたが他船を認めず、前示姿勢のままでいるうち22時ごろから眠気を催すようになった。しかしながら、同指定海難関係人は、眠気を感じるがまだ大丈夫だし、まさか眠り込んでしまうようなことはあるまいと思い、台から立ち上がるなどして眠気を払拭することもA受審人に報告することもなく当直を続けていたところ、いつしか居眠りに陥った。 23時21分少し過ぎB指定海難関係人は、正船首方2海里のところに佐賀明神丸が点灯する多数の灯火を視認することができ、漂泊中の同船に向首して接近する態勢であったが、居眠りに陥っていてこのことに気付き得ず、A受審人に報告できず、針路を転じるなど同船を避ける措置がとられないまま続航した。 こうして、正進丸は、23時30分北緯38度14分、東経142度53分の地点において、原針路、原速力のままの船首が、佐賀明神丸の左舷側中央部にほぼ直角に衝突した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。 A受審人は、機関音の変動に気付き、昇橋して衝突の事実を知り、事後の措置にあたった。 また、佐賀明神丸は、かつお一本釣り漁業に従事する船尾船橋型のFRP製漁船で、C受審人及びD指定海難関係人ほか18人が乗り組み、操業の目的で、船首1.80メートル船尾4.00メートルの喫水をもって、同日15時30分岩手県大槌(つち)港を発して金華山東方の漁場に向かい、21時45分前示衝突地点に至り、夜明けからの操業に備えて休息をとるため、船首を北方に向け機関を停止し、正規の航海灯、停泊灯、甲板上を照らす多数の作業灯及びマスト上に黄色回転灯を掲げて漂泊した。 ところで、佐賀明神丸の甲板上には、船首部左右舷に2個とその後方船首尾線上に5個の活餌倉、同倉の左右舷側にそれぞれ6個の氷倉が並び、各活餌倉には活餌のいわしが入れられており、漁ろう長が、各船橋当直者に対し、水温の変化で活餌が弱ることがあるので、1時間ごとにその状況を見回るよう指示していた。 C受審人は、漂泊中の船橋当直を単独2時間交替と決め、22時に昇橋したD指定海難関係人に船橋当直を任せるにあたり、同人の乗船歴が長く、これまでに事故を起こしたこともなかったので、十分に見張りができるものと思い、活餌倉見回り中も周囲の見張りを十分に行うよう指示することなく、同倉の見回りと周囲に漂泊する4隻の漁船の動静に注意するようにとのみ告げて降橋し、自室で休息した。 D指定海難関係人は、6マイルレンジとしたレーダーを見たり、窓から周囲の状況を確認したりして船橋で見張りにあたっていたが、周囲の状況に変化がなく航行する船舶も認めなかったので、23時活餌倉の見回りを行うために降橋した。そして、同指定海難関係人は、船首方の活餌倉から点検を始め、死んだいわしを見つけると同倉の栓を開けて排出するなどの作業を各倉ごとに順次繰り返した。 23時21分少し過ぎD指定海難関係人は、左舷方2海里のところに正進丸のマスト灯及び両舷灯を視認でき、その後同船が自船に向首して接近するのを知ることができる状況となった。しかし、同指定海難関係人は、航行する船舶はいないものと思って前示作業に専念し、見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、C受審人に報告できず、警告信号が行われることも衝突を避けるための措置がとられることもないまま漂泊を続けた。 23時30分少し前D指定海難関係人は、前示作業を終えて船橋に戻る途中、ふと左舷方を見て至近のところに正進丸の航海灯及び船影を初めて認め、急きょ機関の始動を頼もうとして機関室入口の方に向かった。しかし、同指定海難関係人が同入口に達したころ、佐賀明神丸は、船首を000度に向け、前示のとおり衝突した。 C受審人は、衝突の衝撃音で目覚め、昇橋して衝突の事実を知り、事後の措置にあたった。 衝突の結果、正進丸は、船首部に擦過傷を生じたのみで、のち修理され、佐賀明神丸は、左舷中央部外板に破口を生じて浸水し、乗組員全員が正進丸に救助されたが、C受審人、D指定海難関係人、佐賀明神丸一等航海士E及び同船操機手Fが軽度の打撲傷等を負った。 水船となった佐賀明神丸は、タグボート会社の引船により曳(えい)航中の翌7月8日17時35分北緯35度40分、東経142度12分の地点において沈没した。
(原因) 本件衝突は、夜間、宮城県金華山東方沖合において、正進丸が、船団に戻る目的で東行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、漂泊中の佐賀明神丸を避けなかったことによって発生したが、佐賀明神丸が、漂泊中、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。 正進丸の運航が適切でなかったのは、船長が、当直者に対して居眠り運航の防止措置についての指示を十分に行わなかったことと、当直者が、居眠り運航の防止措置をとらず、居眠りに陥ったこととによるものである。 佐賀明神丸の運航が適切でなかったのは、船長が、当直者に対して活餌倉見回り中も周囲の見張りを十分に行うよう指示しなかったことと、当直者が、活餌倉の見回り中、見張りを十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人等の所為) A受審人は、夜間、船団に戻る目的で宮城県金華山沖を東行中、当直者に単独の船橋当直を任せる場合、操業期間中で十分に休息がとれない日が続き、自らも船橋当直中に眠気を催すことがあり、他の当直者も眠気を催すことがあるかも知れないとの懸念を持っていたのであるから、居眠り運航とならないよう、当直者に対して眠気を催した際には眠気を払拭するように努め、それでも眠気がとれないときには報告するようなど居眠り運航の防止措置についての指示を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、まさか眠り込んでしまうようなことはあるまいと思い、当直者に対して居眠り運航の防止措置についての指示を十分に行わなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、漂泊中の佐賀明神丸を避けることができないまま進行して衝突を招き、同船の左舷中央部外板に破口を生じ、同船の乗組員に負傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 C受審人は、夜間、宮城県金華山沖合で漂泊中、当直者に単独の船橋当直を任せる場合、自船に向首接近する船舶があれば報告を受けることができるよう、活餌倉見回り中も周囲の見張りを十分に行うよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、当直者の乗船歴が長く、これまでに事故を起こしたこともなかったので、十分に見張りができるものと思い、活餌倉見回り中も周囲の見張りを十分に行うよう指示しなかった職務上の過失により、自船に向首接近する船舶についての報告を受けることができず、衝突を避けるための措置をとれないまま漂泊を続けて衝突を招き、前示のとおり両船に損傷及び自分を含め自船乗組員に負傷を生じさせるに至った。 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B指定海難関係人が、夜間、単独で船橋当直について宮城県金華山沖合を東行中、居眠り運航の防止措置をとらないまま居眠りに陥ったことは、本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては、その後立って当直にあたるなど居眠り運航の防止措置に努めている点に徴し、勧告しない。 D指定海難関係人は、夜間、単独で船橋当直に就き、活餌倉の見回り中、見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。 D指定海難関係人に対しては、その後活餌倉の見回り中も見張りを十分に努めている点に徴し、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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