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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年7月27日22時30分 京浜港東京区 2 船舶の要目 船種船名
プレジャーボートクラムパワー 総トン数 2.5トン 全長 7.35メートル 機関の種類
電気点火機関 出力 110キロワット 3 事実の経過 クラムパワーは、船体中央部に操縦室のあるFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、同乗者9人を乗せ、花火見物の目的で、平成8年7月27日18時30分東京都江東区の東雲(しののめ)北運河沿いにある係留地を発し、隅田川下流の両国橋に向かった。 A受審人は、両国橋付近で花火見物をしたのち、隅田川を下航してお台場海浜公園に向かい、京浜港東京区第2区の第10号係船浮標(以下「係船浮標」という。)の付近を航過したとき、その周辺一帯は、周囲の街の明かりに照らし出されて明るく、夜間でも同浮標をはっきりと視認することができた。また、同受審人は、この水域を何回も航行した経験があったので、以前から同浮標の存在についてよく知っていた。 A受審人は、お台場海浜公園で八ワイアンコンサートを聴いたあと、22時ごろ同公園を発し、少しの間同乗者の1人に操舵をさせたほかは自ら操舵にあたり、隅田川河口付近まで北上した後反転し、同時28分ごろ晴海信号所から252度(真方位、以下同じ。)1,100メートルの地点に達したとき、他の同乗者に操舵の練習を行わせることとして停留した。 22時29分A受審人は、女性の同乗者を指名して操縦席につかせ、操舵方法を教えたのち、自らはその背後に立って操縦レバーの操作にあたり、針路を中央区有明1丁目の埋立地北西端に向く112度に定め、機関を2ノットの極微速力前進にかけて前示地点を発進したところ、ほぼ正船首390メートルのところに係船浮標を視認できる状況で、船首が同浮標に向首していたが、花火見物時の飲酒により注意力が散漫となり、前路の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、機関回転数を徐々に上げて2,700回転とし、16.0ノットの対地速力で進行した。 こうしてA受審人は、係船浮標に向首したまま続航中、22時30分わずか前、船首甲板に座っていた同乗者から、同浮標の存在について手振り及び声により注意を受けたが、このことにも気付かず、クラムパワーは、22時30分原針路、原速力のままの船首が、晴海信号所から235度850メートルの同浮標に衝突した。 当時、天候は曇で風力1の南南西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。 衝突の結果、クラムパワーは、船首に大破口を生じて廃船処理され、係船浮標には損傷がなかった。また、衝突の衝撃で、同乗者Bが前額部挫創及び右手関節骨折により全治1箇月、他の5人の同乗者が肋骨骨折や打撲傷等により全治1ないし2週間の傷を負った。
(原因) 本件係船浮標衝突は、夜間、京浜港東京区第2区において遊覧航行中、見張り不十分で、係船浮標に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、京浜港東京区第2区において遊覧航行する場合、係船浮標の存在を知っており、かつ、周囲の街の明かりにより同浮標を視認できる状況であったから、同浮標を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、飲酒により注意力が散漫となり、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同浮標に向首進行して衝突を招き、クラムパワーの船首に大破口を生じさせ、同乗者6人に重軽傷を負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。 |