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1998年(平成10年)

平成9年那審第30号
    件名
漁船普天間丸交通船アディフ衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年1月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

長浜義昭、東晴二、井上卓
    理事官
阿部能正

    受審人
A 職名:普天間丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士(5トン限定)
C 職名 アディフ船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
普天間丸…船首上部が破損
アディフ…左舷側前部の水線上に亀裂

    原因
アディフ…見張り不十分、船員の常務(新たな危険)不遵守(主因)
普天間丸…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、アディフが、見張り不十分で、普天間丸に対し新たな衝突の危険のある関係を生じさせたことによって発生したが、普天間丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこともその一因をなすものである。
受審人Cを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年9月27日11時45分
沖縄県宮古島西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船普天間丸 交通船アディフ
総トン数 2.6トン
登録長 9.90メートル 9.51メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 95キロワット
漁船法馬力数 35
3 事実の経過
普天間丸は、沖縄県宮古列島周辺海域で追込み網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人、B指定海難関係人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.05メートル船尾0.40メートルの喫水をもって、平成7年9月27日05時30分伊良部島の佐良浜漁港を出港し、来間島南方沖合の漁場に至って操業したのち、11時15分同漁場を発して帰途についた。
A受審人は、11時25分長山水路第8号灯標(以下「第8号灯標」という。)から156度(真方位、以下同じ。)4.7海里の地点に達したとき、321度の針路に定め機関を全速力前進にかけ15.0ノットの対地速力で、僚船の約900メートル後方を進行し、同時29分周囲の見張りを厳重に行って接近する他船があれば早期に報告するよう指示することなく、B指定海難関係人と当直を交替し、自身は船体中央部に左方を向いて座り、昼食をとり始めた。
当直についたB指定海難関係人は、11時39分半第8号灯標から197度1.5海里の地点に達したとき、001度の針路に転じ手動操舵で続航し、同時43分少し前右舷船首42度1海里に西行中のアディフを視認することができ、その後互いに進路を横切るも無難にかわる態勢で進行したが、右方の見張りを十分に行わず、同船の存在に気付かなかった。
B指定海難関係人は、11時44分わずか前右舷船首49度920メートルとなったアディフが右転したので、同船と新たな衝突の危険がある態勢となって互いに接近したが、依然同船に気付かなかった。
A受審人は、アディフの接近についてB指定海難関係人から何ら報告がなかったこともあって、同船に気付かず、速やかに行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとることができなかった。
B指定海難関係人は、11時45分わずか前右舷船首至近に迫ったアディフを初めて視認したものの、何をするいとまもなく、11時45分第8号灯標から268度720メートルの地点において、原針路、原速力のままの普天間丸の船首が、アディフの左舷側前部に直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、視界は良好であった。
A受審人は、衝撃で衝突に気付き、直ちに事後の措置に当たった。
また、アディフは、宮古列島周辺海域でダイビング客の送迎等に従事するFRP製交通船で、C受審人ほか1人が乗り組み、ダイビング客2人を乗せ、船首0.50メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、同日11時35分宮古島の平良港を発し、下地島南西洋沖合のダイビングポイントに向かった。
C受審人は、発航時から単独で操船にあたり、11時39分少し前第8号立標から060度1.7海里の地点に達したとき、針路を240度に定めて手動操舵とし、機関を全速力前進にかけ20.0ノットの対地速力で進行し、同時43分少し前左舷船首18度1海里に北上中の普天間丸を視認することができ、その後互いに進路を横切るも無難にかわる態勢で続航したが、正船首0.6海里付近を無難に右方に横切った北上中の別の小型漁船に気を取られ、左方の見張りを十分行わず、普天間丸の存在に気付かなかった。
C受審人は、11時44分わずか前、左舷船首10度920メートルとなった普天間丸に依然気付かず、第8号灯標を左舷側至近に通過したので、次の針路264度に転じたところ、同船と新たな衝突の危険がある態勢となって互いに接近したが、普天間丸を避けないまま進行中、同時45分わずか前左舷船首至近に迫った同船を初めて視認し、右舵一杯としたものの、271度に向首して、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、普天間丸は、船首上部が破損し、アディフは、左舷側前部の水線上に亀(き)裂を生じたが、のち、いずれも修理された。

(航法の適用)
長山水路付近の海域において、西行中のアディフと、北上中の普天間丸が衝突したものであるが、同水路に特定の航法はなく、また、両船の喫水と水深との関係で操船水域が制限される状況ではなかった。
北上中の別の小型漁船は、11時43分少し前昔天間丸の900メートル前方で、アディフの前路0.6海里を無難に右方に横切っており、3船の大きさ等を考慮して、普天間丸及びアディフ両船のいずれとも衝突のおそれがなかった。
11時44分わずか前アディフが右転しなければ、11時44分少し過ぎ同船の前路550メートルを普天間丸が通過できたことから、アディフの右転前の見合関係については、両船が互いに前路を横切るも無難にかわる態勢であった。
しかるに、アディフの右転によって普天間丸との間に初めて衝突の危険が生じ、そのおよそ1分後の11時45分に衝突したことから、同右転から後の見合関係において、両船の各速力を考慮すると時間的に衝突の危険が迫っていた。したがって、アディフが新たな衝突の危険のある関係を生じさせたもので、海上衝突予防法第15条の適用はなく、本件は船員の常務により律するのが相当である。

(原因)
本件衝突は、沖縄県宮古島と伊良部島との間の水域において、両船が互いに進路を横切るも無難にかわる態勢で航行中、西行するアディフが、見張り不十分で、北上する普天間丸に対し、右転して新たな衝突の危険のある関係を生じさせたことによって発生したが、普天間丸が見張り不十分で、行きあしを止めるなどアディフとの衝突を避けるための措置をとらなかったこともその一因をなすものである。
普天間丸の運行が適切でなかったのは、船長が、当直者に対して見張りを行うことについての指示が十分でなかったことと、当直者が、見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
C受審人は、沖縄県宮古島と伊良部島との間の水域を西行する場合、左方から接近する普天間丸を見落とさないよう、左方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、北上中の右方の別の小型漁船に気を取られ、左方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、互いに前路を横切るも無難にかわる態勢の普天間丸に気付かず、次の予定針路に向けて右転し、普天間丸に対して新たな衝突の危険のある関係を生じさせ、同船を避けないまま進行して衝突を招き、アディフの左舷側前部に損傷を、普天間丸の船首部に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、宮古島と伊良部島との間の水域を佐良浜漁港に向け北上中、甲板員に当直を行わせる場合、見張りを十分行うよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、日ごろ当直を行わせているので指示するまでもないと思い、見張りを十分に行うよう指示しなかった職務上の過失により、当直者の右方の見張り不十分で、互いに前路を横切るも無難にかわる態勢のアディフに気付かず、その後アディフが右転して新たな衝突の危険のある関係を生じさせたが、行きあしを止めるなど同船との衝突を避けるための措置をとることができないまま進行して衝突を招き、前示のとおり損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、沖縄県宮古島と伊良部島との間の水域を北上中、当直に当たる際、右方の見張りを十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、その後安全運航に留意している点に徴し、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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