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1998年(平成10年)

平成8年横審第156号
    件名
貨物船智勝丸漁船第二十一大徳丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年2月10日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

大本直宏、原清澄、西田克史
    理事官
吉澤和彦

    受審人
A 職名:智勝丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:第二十一大徳丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
智勝丸…右舷船首部に凹傷と亀裂
大徳丸…右舷船首部及びギャロス頂部付近の右舷側に損傷

    原因
智勝丸…狭視界時の航法(信号・速力)不遵守
大徳丸…狭視界時の航法(信号・レーダー・速力)不遵守

    主文
本件衝突は、智勝丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、第二十一大徳丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年6月22日03時45分
鹿島灘
2 船舶の要目
船種船名 貨物船智勝丸 漁船第二十一大徳丸
総トン数 498トン 53.44トン
全長 74.69メートル 28.57メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット 735キロワット
3 事実の経過
智勝丸は、最大舵角70度のシリングラダーを装備した船尾船橋型の鋼製貨物踏で、A受審人ほか4人が乗り組み、鋼材約1,400トンを載せ、船首3.5メートル船尾4.1メートルの喫水をもって、所定の航海灯を表示し、平成8年6月22日02時15分茨城県鹿島港を発し、兵庫県尼崎西宮芦屋港に向かった。
折から航海当直中の二等航海士は、03時30分銚子一ノ島灯台(以下「銚子灯台」という。)から352度(真方位、以下同じ。)5.3海里の地点において、針路を142度に定め、機関を12ノットの全速力前進にかけ、自動操舵により進行中、6海里レンジのレーダーで前路に漁船群らしい映像を探知し、次第に視界が悪化して1海里以下となった状況下、A受審人に同映像を認めたことを報告した。
A受審人は、直ちに昇橋して操船の指揮を執り、二等航海士を操舵位置付近に配し、間もなく霧のため視程500メートルの視界制限状態となったが、霧中信号を行うことも安全な速力とすることもなく、自ら3海里レンジのレーダーを監視していたところ、03時32分右舷船首25度3.2海里に第二十一大徳丸(以下「大徳丸」という。)の映像があり、前示漁船群の映像が大徳丸の東方に離れて存在し、その後同船の映像が接近してくるのを認めて続航した。
A受審人は、3海里レンジから1.5海里レンジに切り替えるなどしてレーダー監視を続け、03時39分銚子灯台から006度3.8海里の地点で、大徳丸の映像を右舷船首29度1.5海里に認め、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、自船の旋回性能が優れているので0.3海里まで接近してから避航動作をとればよいと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく、レーダーレンジを0.75海里として進行した。
03時44分A受審人は、大徳丸の映像が右舷船首61度0.3海里となったとき、二等航海士に手動操舵への切替えを命じて右舵一杯を令し、同映像が船首輝線のわずか左となる状況で針路を232度に転じて間もなく、右舷船首至近に大徳丸の白、緑2灯を初認して衝突の危険を感じ、同時45分少し前左舵一杯を命じ機関を全速力後進に操作したが及ばず、03時45分銚子灯台から018度3海里の地点において、智勝丸は、左転中の船首が198度を向き、3ノットの速力をもって、その右舷船首部が大徳丸の右舷後部に前方から60度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風力1の南東風が吹き、視程は約100メートルで、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、大徳丸は、航海全速力10ノットの可変ピッチプロペラを備えた、沖合底びき網漁業に従事する船首船橋型の鋼製漁船で、B受審人ほか6人が乗り組み、操業の目的で、船首2.5メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、同日02時50分千葉県銚子漁港を発し、鹿島港東方沖合の漁場に向かった。
B受審人は、自ら手動操舵について操船指揮を執り、その後霧のため視程が100メートルに狭められた状況となり、汽笛の自動吹鳴装置を作動させたが、2分間を超えない間隔で長音2回の吹鳴を開始し、所定の霧中信号を行わず、在橋中の漁ろう長に、主機と可変ピッチプロペラの遠隔操作にあたるよう指示して進行した。
03時14分B受審人は、銚子港東防波堤川口灯台から265度200メートルばかりの地点において、針路を354度に定め、機関回転数毎分350翼角10度とし、5.5ノットの速力で続流した。
03時26分半B受審人は、銚子灯台から000度1.4海里の地点で、針路を033度に転じ自動操舵に切り替えて進行中、同時36分3海里レンジのレーダーで左舷船首44度2.2海里に智勝丸の映像を認めたが、同映像は銚子漁港に帰港中の漁獲物運搬船で無難に航過できるものと思い、引き続きレーダーによる動静監視を十分に行うことなく進行した。
03時39分B受審人は、銚子灯台から014度2.4海里ばかりの地点において、智勝丸の映像が左舷船首42度1.5海里となり、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、そのことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく続航した。
03時44分半B受審人は、ふとレーダー画面を見たとき、智勝丸の映像が0.5海里の距離環の内側に入り、海面反射の中に紛れて見失い急に危険を感じ、手動操舵に切り替えて左舵一杯をとり、続いて漁ろう長が翼角0度に次ぎ後進10度としたのを認め、前方を注視していたところ、急に右舷側至近に智勝丸の船影が現れたがどうすることもできず、大徳丸は、左転中の船首が318度を向き、後進行きあしが約2ノットになったとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、智勝丸は右舷船首部に凹傷と亀(き)裂を生じ、大徳丸は右舷船首部及びギャロス頂部付近の右舷側に損傷を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、両船が霧のため視界制限状態となった鹿島灘を航行中、南下中の智勝丸が、霧中信号を行わず安全な速力としないまま、レーダーで前路に探知した大徳丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、北上中の大徳丸が、霧中信号を行わず、レーダーによる動静監視不十分で、前路に探知した智勝丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、霧のため視界制限状態となった鹿島灘を南下中、レーダーで前路に探知した大徳丸と著しく接近することを避けることができない状況となった場合、進路を保つことができる最小減度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船の旋回性能が優れているので0.3海里に接近してから避航動作をとればよいと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により、大徳丸と至近に接近するまで原速力のまま進行して同船との衝突を招き、智勝丸の右舷船首部に凹傷及び亀裂並びに大徳丸の右舷船首部及びギャロス頂部付近の右舷側に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、霧のため視界制限状態となった鹿島灘を北上中、レーダーで前路に智勝丸の映像を認めた場合、同船と著しく接近することを避けることができない状況となるかどうか判断できるよう、レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同船が銚子漁港に帰港中の漁獲物運搬船で無難に航過できるものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、智勝丸と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かずに接近し、同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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