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1998年(平成10年)

平成9年横審第23号
    件名
漁船第七敏栄丸プレジャーボートポインター衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年2月6日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

原清澄、雲林院信行、西山烝一
    理事官
吉澤和彦

    受審人
A 職名:第七敏栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名::ポインター船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
敏栄丸…船首部に擦過傷
ポインター…船尾外板を圧壊するなどの損傷を生じて廃船、船長は顔面挫創などの負傷

    原因
敏栄丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守
ポインター…船員の常務(錨泊)不遵守、見張り不十分、注意喚起信号不履行

    二審請求者
理事官吉澤和彦、受審人B

    主文
本件衝突は、第七敏栄丸が、見張り不十分で、錨泊中のポインターを避けなかったことと、ポインターが、船舶が輻輳(ふくそう)する港域内に錨泊したばかりか、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年4月15日08時30分
愛知県知多湾
2 船舶の要目
船種船名 漁船第七敏栄丸 プレジャーボートポインター
総トン数 6.1トン
全長 14.74メートル 8.19メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 102キロワット
漁船法馬力数 120
3 事実の経過
第七敏栄丸(以下「敏栄丸」という。)は、二そう船びき網漁業に従事するFRP製漁獲物運搬船で、A受審人が甲板員と2人で乗り組み、愛知県河和漁港東方沖合の漁場に向かう目的で、船首0.10メートル船尾1.35メートルの喫水をもって、平成8年4月15日08時10分同県豊浜漁港を発し、同時12分豊浜港南防波堤灯台を左舷側至近に替わし、機関を全速力前進にかけ、17ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
A受審人は、羽豆岬の南方500メートルばかり沖合を航行する進路をとり、羽島灯標を左舷側200メートルばかりに見る状況となったとき、左舷を取って徐々に回頭を始め、08時23分少し過ぎ同灯標から090度(真方位、以下同じ。)560メートルばかりの地点に達したとき、針路を000度に定めて続航した。
08時28分半A受審人は、大井港口灯標から137度960メートルの地点に達したとき、漁場に向けるため針路を左方に転じることにしたが、折りからの雨で視界がやや妨げられる状況となっていたものの、周囲を一べつしたところ、他船を認めなかったことから、航行するにあたっては前路に他船はいないものと思い、直ちに針路を340度に転じ、その後、周囲の見張りを厳重に行うことなく進行した。
針路を転じたころ、A受審人は、正船首820メートルのところに、船首をほぼ340度方向に向けて錨泊中のポインターを視認することができたが、このことに気付かないで同船を避けないまま続航中、08時30分わずか前船首至近に迫った同船の船尾部を初めて認め、衝突の危険を感じ、急いで左舵一杯としたものの、その効なく、敏栄丸は、08時30分大井港口灯標から79度375メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その船首がポインターの左舷船尾部にほぼ平行に衝突した。
当時、天候は雨で風力1の北東風が吹き、視程は約1,000メートルで、潮候は下げ潮の末期であった。
また、ポインターは、FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.22メートル船尾0.67メートルの喫水をもって、同日07時30分愛知県師崎港の大井を発し、羽豆岬南方沖合の釣り場に向かった。
08時ごろB受審人は、羽島灯標から196度3.4海里ばかりの釣り場に着いたところ、同釣り場では多数の遊漁船が流し釣りを行っており、自船が加わると遊漁船の釣りの邪魔になるものと思い、同釣り場での釣りをあきらめ、鳶(とび)ケ埼東方沖合の通称「トンビ礁」と呼ばれる魚礁で釣りを行うことにし、反転して同礁に向かい、同時25分前示衝突地点の釣り場に至り、同釣り場が師崎港の港域内で多数の船舶が航行する海域となっていたものの、錨泊することを思い止まらず、船首からダンホース型錨を投入し、同錨に取り付けた直径12ミリメートルのクレモナロープを40メートルばかり繰り出し、船首を340度方向に向けて錨泊を始めた。
投錨したあとB受審人は、錨泊中であることを示す形象物を掲げず、機関を停止回転としたまま左舷側船尾部に左舷方を向いて座り、直ちに釣りの準備に取りかかり、08時28分半正船尾820メートルのところに、自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する敏栄丸を視認できる状況であったが、右舷方至近の遊漁船への接近模様や釣りの準備に気を取られて、周囲の見張りが不十分となり、このことに気付かず、接近する敏栄丸に対し、速やかに注意喚起信号を行うことなく錨泊中、同時30分わずか前右舷方の遊漁船に接近する様子もないまま自船の状態が落ち着いたので、機関を停止したところ、正船尾方から他船の機関音を初めて聞き、自船に向首接近する敏栄丸を認めたが、どうする暇もなく、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、敏栄丸は船首部に擦過傷を生じただけであったが、ポインターは船尾外板を圧壊するなどの損傷を生じて廃船とされた。また、B受審人顔面挫創などの負傷をした。

(原因等に対する考察)
本件は、昼間、師崎水道北方海域において、北上中の敏栄丸と船首をほぼ北方に向けて錨泊中のポインターとが衝突したものであるが、その原因について考察する。
敏栄丸側においては、衝突地点付近には魚礁が設置され、漁船や遊漁船が平素から同礁付近で魚を釣っていることを知っており、当時の視程がやや狭められた状況下であったとしても前路の見張りを厳重に行っていれば、衝突を回避できる時機にポインターを視認することが可能であったと認められる。
また、そのころ、ポインターが、自船に対して船尾部を見せる状況にあり、同船が錨泊中の形象物を掲げていなかったから、同航船であるか、漂泊船であるか、または錨泊船であるかの判断が初認したときにはつきにくかったとしても、ポインターに接近するにしたがって少なくとも同航船か漂泊船かの判断をすることは可能であった。
一方、ポインター側においては、B受審人が投錨した地点は、師崎港の港域内に位置し、同人に対する質問調書中の供述記載及び当廷における同人の供述でも明らかなとおり、付近を航行する他の船舶が投錨して釣りをする船舶に対し、著しく接近する態勢で航過している状況にあり、錨泊すれば衝突を回避する可能性がほとんどない状況であった。
このような場合、B受審人としては、衝突の危険を感じた際には直ちに避航動作がとれるよう、投錨しないで漂泊し、周囲の見張りを厳重に行いつつ、釣りを行うことが求められるところである。
したがって、敏栄丸が、前路の見張りが不十分で、錨泊中のポインターを避けなかったことと、ポインターが、船舶が輻輳する港域内に形象物を掲げないまま錨泊したこと及び周囲の見張りを厳重に行わなかったこととが、本件発生の原因となる。
また、適用航法については、ポインターの当時の状況から判断して定型航法を適用する場合ではなく、船員の常務によって律するのが相当である。

(原因)
本件衝突は、師崎水道北方海域において、漁場に向かって航行中の敏栄丸が、見張り不十分で、形象物を掲げないまま錨泊中のポインターを避けなかったことと、ポインターが、船舶が輻輳する港域内に錨泊したばかりか、見張り不十分で、接近する敏栄丸に対して注意喚起信号を行わなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、師崎水道北方海域を漁場に向かって航行する場合、描泊中のポインターを見落とすことのないよう、周囲の見張りを厳重に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、周囲を一べつしただけで前路に他船はいないものと思い、見張りを厳重に行わなかった職務上の過失により、錨泊中のポインターに気付かず、同船との衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き、敏栄丸は擦過傷を生じただけであったが、ポインターの左舷船尾部を圧壊するなどの損傷を生じさせ、B受審人に顔面挫創などの負傷をさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、船舶が輻輳する師崎水道北方海域において、釣りを行う場合、自船に向首して接近する敏栄丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを厳重に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、釣りの準備などに気を取られ、周囲の見張りを厳重に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で後方から接近する敏栄丸に気付かず、注意喚起信号を行うことなく錨泊していて衝突を招き、前示損傷を生じさせ、負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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