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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年7月1日01時20分 岩手県久慈港東方沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船第二十三寳來丸
漁船第三十六寶來丸 総トン数 138トン 138トン 全長 40.02メートル 38.21メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
735キロワット 603キロワット 3 事実の経過 第二十三寳來丸(以下「23寳來丸」という。)は、いか一本釣り漁業に従事する鋼製漁船で、操業の目的で、A受審人ほか6人が乗り組み、船首2.30メートル船尾4.10メートルの喫水をもって、平成8年6月1日13時00分石川県小木港を発し、日本海で操業したのち、同月23日岩手県久慈港沖に移動した。 A受審人は、久慈港沖から北上しながら操業を続け、同月30日青森県八戸港沖に至ったとき、僚船から得た久慈港沖での漁模様が良いとの情報により、漁場を移動することとし、22時30分鮫角灯台から056度(真方位、以下同じ。)17.4海里の地点で、針路を170度に定め、機関を11.5ノットの全速力前進よりやや回転数を下げた速力にかけ、航行中の動力船の灯火を表示し、船尾には500ワットの投光器2個を点灯して自動操舵で進行した。 A受審人は、乗組員を休息させ、1人で船橋当直を行って南下していたところ、翌7月1日00時50分ごろ6海里レンジとしたレーダーで、船首方向の外周付近に船舶の映像を認めたものの、まだ距離が十分あると思って気にかけず、01時05分ごろ前方を確認しないまま船橋内の後方にある海図台に向かい、操業地点の検討を始めた。 01時15分少し前A受審人は、久慈牛島灯台から104度8.3海里の地点で、正船首方1海里に第三十六寶來丸(以下「36寶來丸」という。)の掲げる白灯1個のほか集漁灯や作業灯を視認し得る状況となった。しかし、同受審人は、後方を向いて海図を見ながら操業地点の選択に気を奪われ、前方の見張りを十分に行うことなく、36寶來丸の存在にもその後の同船との方位が変わらず衝突のおそれのある態勢で接近することにも気付かず続航した。 01時17分半A受審人は、36寶來丸が同方位で0.5海里に接近したが、依然、見張り不十分で同船に気付かず、漂泊している同船との衝突を避けるための措置をとらずに進行中、01時20分久慈牛島灯台から110度8.8海里の地点において、突然衝撃を受け、23寳來丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首部が36寶來丸の左舷側中央部に後方から約5度の角度で衝突した。 当時、天候は曇で風力3の南南東風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。 また、36寶來丸は、いか一本釣り漁業に従事する鋼製漁船で、操業の目的で、B受審人ほか6人が乗り組み、船首2.50メートル船尾3.00メートルの喫水をもって、同年6月2日11時00分小木港を発し、日本海で操業したのち、同月23日八戸港沖に移動した。 八戸港沖で操業を続けていたB受審人は、岩手県宮古港沖の漁模様が良いとの情報により移動することとし、同月30日22時同海域での操業を中断して南下していたところ、翌7月1日01時ごろ前示衝突地点付近に至ったとき、機関長から主機関を修理するため停止したとの報告を受け、運転不自由船の灯火を掲げず、航行中の動力船の灯火と船橋の後方に2キロワットの集魚灯6個及び500ワットの作業灯2個を点灯し、右舷船首からパラシュート型シーアンカーを投入して折からの南南東風に船首をたて、ゆっくりと左右に約10度振れ回りながら漂泊を開始した。 B受審人は、甲板員1人を伴って船橋当直を行い、01時15分少し前前示衝突地点付近で150度を向首しているとき、左舷船尾20度1海里のところに23寳來丸の白、紅及び緑3灯並びに投光器の明かりを視認できる状況にあった。しかし、同受審人は、航行中の運転不自由船の灯火を表示していないけれども、集魚灯や作業灯を点灯しているので、接近して来る船があってもその船が衝突を避けるための措置をとると思い、後方の見張りを十分に行うことなく、23寳來丸の存在にもその後の同船の衝突のおそれのある態勢で接近することにも気付かず船首方を見ていた。 01時17分半B受審人は、23寳來丸が0.5海里に接近したが、依然、見張り不十分で同船に気付かないまま、警告信号を行わずに漂泊中、同時20分少し前左舷後方至近に同船を初めて認めたものの、どうすることもできず、36寶來丸は、165度を向首したとき前示のとおり衝突した。 衝突の結果、23寳來丸は、船首部右舷側外板及びバルバスバウに凹損を生じ、36寶來丸は、左舷側外板に破口を生じで浸水し、甲板上のいか釣り機等に損傷を生じたが、それぞれ自力で八戸港に帰港し、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、岩手県久慈港東方沖合において、南下中の23寳來丸が、見張り不十分で、航行中の動力船の灯火のほか集魚灯や作業灯を点灯し、パラシュート型シーアンカーを投入して漂泊中の36寶來丸を避けるための措置をとらなかったことと、36寶來丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったこととによるものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、1人で船橋当直を行って岩手県久慈港東方沖合を南下する場合、航行中の動力船の灯火のほか集魚灯や作業灯を点灯し、パラシュート型シーアンカーを投入して漂泊している36寶來丸を見落とさないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船橋内の後方にある海図台に向かい、後方を向いて海図を見ながら操業地点の選択に気を奪われ、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、36寶來丸との衝突を避けるための措置をとらないまま進行して同船との衝突を招き、23寳來丸の船首部右舷側外板及びバルバスバウに凹損、36寶來丸の左舷側外板に生じた破口による浸水及び甲板上のいか釣り機等に損傷を生じさせるに至った。 以上のA受番人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、夜間、岩手県久慈港東方沖合において、主機関の修理のため、パラシュート型シーアンカーを投入して漂泊中、甲板員1人を伴って船橋当直を行う場合、後方から接近する23寳來丸を見落とさないよう、後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、集魚灯や作業灯を点灯しているので、接近して来る船があってもその船が衝突を避けるための措置をとると思い、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、23寳來丸に気付かないまま、警告信号を行わずに漂泊して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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