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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年9月6日18時20分 玄界灘小呂島北方沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船威徳丸
漁船清賞丸 総トン数 18トン 6.3トン 登録長 16.75メートル 11.82メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 漁船法馬力数 190 90 3 事実の経過 威徳丸は、旋網漁業船団に付属するFRP製漁獲物運搬船で、A受審人が妻と2人で乗り組み、砕氷約4トンを積み、船首0.40メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、平成8年9月6日16時45分福岡県大島漁港を発し、船団とともに魚群探索のため沖合漁場に向かった。 ところで、威徳丸は、砕氷を船首魚倉に積むようにしていたものの、全速力に増速すると、船首部が浮上して船首船幅間が死角となって、操舵位置から前方を見通すことができない状況にあったので、操舵室の天井上部に、高さ0.60メートル幅1メートル長さ1メートルの突出した天窓が増設され、高さ0.70メートルの踏み台の上に立って船首方の見張りを行うことが出来るようになっていた。 A受審人は、自ら操船に当たり、大島南岸沖合を迂(う)回して北西方沖合漁場に向け進行中、船団と別れて魚群探索を行うことにし、17時25分筑前大島灯台から300度(真方位、以下同じ。)6海里の地点に達したとき、GPSプロッターに設定しておいた小呂島港西防波堤灯台(以下「西防波堤」という。)から310度8.6海里の、沈船が存在する魚群探索地点に向く269度に針路を定め、機関を全速力前進にかけて自動操舵にし、18.0ノットの対地速力で進行した。 A受審人は、全速力に増速したことにより船首方が見通せなくなったが、作動中のレーダーを一見したのみで前路には航行の支障となる他船はいないものと思い、妻を船首に配置するか、自ら踏み台の上に立つなどして船首死角を補う見張りを行っていなかったので、18時13分西防波堤灯台から347度6海里の地点に達したとき、正船首少し左2海里のところに右舷側を見せて漂泊中の清賞丸を視認しうる状況にあったが、清賞丸の存在に気付かなかった。 こうして、A受審人は、妻を操舵室で休息させ、自らはGPSプロッターに針路を合わせることなどに気をとられたまま目的地に向け進行中、GPSプロッターに設定しておいた目的地点の南東方1海里ばかりのところにある、瀬の付近を先に探索してみようと思い直し、18時18分西防波堤灯台から335度6.3海里の地点で、針路を264度に転じたところ、清賞丸に向首する態勢となった。しかしながら、A受審人は、依然として船首死角を補う見張りを行わなかったので、衝突のおそれがある態勢で清賞丸に接近していることに気付かず、右転するなどの避航措置をとらないまま続航中、18時20分突然、衝撃を受けて、小呂島港西防波堤灯台から330度6.5海里の地点において、原針路、全速力のまま威徳丸の船首が、清賞丸の右舷側船尾に前方から70度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、視界は良好であった。 また、清賞丸は、いか1本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が、同人の父と2人で乗り組み、空倉のまま船首0.30メートル船尾0.50メートルの喫水をもって、同日16時佐賀県小川島漁港を発し、小呂島北方沖合漁場に向かった。 B受審人は、17時50分ごろ前示衝突地点付近に至り、船首からパラシュート型シーアンカーを投じ、引索を8メートルばかり延出してこれに掛かり、マスト上に装備された黄色回転灯を点灯し、機関を中立運転にしたまま船首をほぼ014度に向けて漂泊した。 こうして、B受審人は、甲板上で集魚灯の点灯準備をしていたところ、18時10分ごろ右舷船首70度3海里ばかりのところを、ほぼ自船に向けて接近してくる威徳丸を認めた。しかしながら、B受審人は、黄色回転灯を点灯して漂泊しているので、接近することがあっても相手船の方で避航してくれるものと思い、威徳丸に対する動静監視を行っていなかったので、同時18分威徳丸が1,100メートルに接近したとき少し左転し、その後その方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かなかった。 B受審人は、操業開始時刻まで間があったので、父を船首甲板上で餌(えさ)切りに従事させ、自らは操舵室でコーヒーを飲みながら休息をとり、依然として威徳丸に対する動静監視を行わなかったので、同船が避航動作をとっていないことに気付かず、警告信号を行わず、運転中の機関を前進にかけるなどして衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊を続けているうち、18時20分わずか前操舵室から船尾甲板に出たとき、右舷方至近のところに迫った威徳丸を認め、身に危険を感じて船尾から海中に飛び込んだ直後、船首が014度を向いたまま前示のとおり衝突した。 衝突の結果、威徳丸は船首部外板に破口を生じたが、のち修理され、清賞丸は右舷船尾外板に破口を生じて機関室に浸水し、僚船によって小川島漁港に向け曳航中、衝突地点近くで沈没し、全損となった。
(原因) 本件衝突は、玄界灘の小呂島北方沖合漁場において、魚群探索地点に向け航行中の威徳丸が、見張り不十分で、前路でシーアンカーを投じて漂泊中の清賞丸を避けなかったことによって発生したが、清賞丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、玄界灘の小呂島北方沖合漁場を魚群探索地点に向け航行する場合、船首方に死角を生じていたのであるから、前路に漂泊する他船を見落とすことのないよう、前方が見通せる天窓を利用するなどして船首死角を補う見張りを行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、レーダーを一見したのみで前路には航行の支障となる他船はいないものと思い、GPSプロッターに針路を合わせることなどに気をとられ、船首死角を補う見張りを行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で清賞丸に接近していることに気付かず、右転するなどして衝突を避ける措置をとらないまま進行して衝突を招き、威徳丸の船首部外板に破口及び清賞丸の右舷船尾外板に破口をそれぞれ生ぜしめ、清賞丸を沈没させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。 B受審人は、玄界灘の小呂島北方沖合漁場で、船首からシーアンカーを投じて漂泊中、右舷方から接近して来る威徳丸を認めた場合、衝突するおそれがあるか否かを判断できるよう、引き続きその動静監視を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船は黄色回転灯を点灯して漂泊しているので、接近することがあっても相手船の方で避航してくれるものと思い、操舵室で休息して威徳丸の動静監視を行わなかった職務上の過失により、警告信号を行わず、運転中の機関を前進にかけるなどして衝突を避けるための措置をとらないで衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、清賞丸を沈没させるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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