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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年6月26日15時40分 青森県三沢市東方沖 2 船舶の要目 船種船名 漁船第八海晃丸
漁船第五興富丸 総トン数 124.65トン
59.33トン 全長 37.80メートル 登録長 25.40メートル 機関の種類
ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 1,029キロワット
367キロワット 3 事実の経過 第八海晃丸(以下「海晃丸」という。)は、沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人及び漁労長D(当時五級海技士(航海)免状受有、昭和10年4月8日生、平成8年11月8日死亡)ほか13人が乗り組み、操業の目的で、船首2.5メートル船尾4.1メートルの喫水をもって、平成7年6月26日01時45分青森県八戸港を発し、同県三沢市東方沖約8海里の水深120メートルから200メートルばかりの八戸前沖と称する漁場に向かった。 ところで、海晃丸の就労体制は、操業中においては、主にD漁労長が操業指揮を行い、漁場の移動等にあたっては、A受審人が同漁労長と適宜交代して船橋当直を行っていた。 A受審人は04時30分ごろ漁場に着き、15時10分ごろ7回目の揚網を終えたところで昇橋し、D漁労長と共に魚群探索に従事して操業場所を移動することとなったが、同周辺海域は視界がやや狭められ、前方には、他の同業船が点在する状況であった。 15時30分A受審人は、陸奥塩釜灯台(以下「塩釜灯台」という。)から089.5度(真方位、以下同じ。)8.6海里の地点に達したとき、針路を070度に定め、機関を11.2ノットの全速力前進にかけて自動操舵で進行した。このとき同人は、6海里レンジに設定したレーダーで、左舷船首11度2海里ばかりのところに第五興富丸(以下「興富丸」という。)の映像を探知し得る状況となったものの、投網準備のため船橋で後方を向いて次の投網準備作業に専念してこれに気付かず、他方、D漁労長は同船の映像を認めたものの、レーダー上でその残像の軌跡を一見しただけで、南下中の同業船と思い、探知した興富丸の映像のことをA受審人に知らせず、引続き魚群探索のため、魚群探知器等の監視に専念した。 15時35分A受審人は、塩釜灯台から088度9.4海里の地点に達したとき、左舷船11度1海里にトロールにより漁労に従事している船舶が表示する形象物を掲げた興富丸を視認できる状況となったが、前方の見張りを十分に行うことなく続航し、その後、同船との方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近したが、このことに気付かなかった。 15時37分半A受審人は、興富丸が同一方位0.5海里に接近したが、依然、見張り不十分で同船に気付かず、漁労に従事している興富丸の進路を避けることなく進行し、同時40分少し前D漁労長が、ふと目を上げて前方を見たとき、至近に迫った興富丸を認め、自動操舵のまま右舵一杯とし、D漁労長の叫び声で機関制御盤のところに行ったA受審人が、機関を全速力後進としたが及ばず、15時40分塩釜灯台から086度10.3海里の地点において、ほぼ原速力で100度を向首した海晃丸の船首が、興富丸の右舷前部に後方から80度の角度で衝突した。 当時、天候はもやで風力2の東北東風が吹き、視程は約1海里であった。 また、興富丸は、沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、B受審人及びC指定海難関係人ほか5人が乗り組み、操業の目的で、船首1.2メートル船尾2.4メートルの喫水をもって、同日02時00分八戸港を発し、八戸前沖の漁場に向かった。 B受審人は04時30分ごろ漁場に着き、15時15分ごろ6回目の操業を開始し、同周辺海域は視界がやや狭められ、周囲には他の同業船が点在する状況であったものの、C指定海難関係人が操業中の船橋当直を行うにあたり、同人が当直部員(甲板)の要件を備え、漁労長としての経験が長かったことから改めて注意するまでもないと思い、他船の動静を十分に監視して他船が接近するときは報告することなどの事項を指示することなく、降橋して甲板上の作業に従事した。 こうしてC指定海難関係人は、15時30分塩釜灯台から084度10.3海里の地点でトロールにより漁労に従事している船舶が表示する形象物を掲げ、掛け回しのたるを拾い揚げ、針路を180度に定め、2.5ノットの速力で手動操舵により曳(えい)網を開始した。 15時35分船橋で操業に従事していたC指定海難関係人は、塩釜灯台から085度10.3海里の地点に達したとき、右舷船首59度1海里に海晃丸を視認できる状況となっが、見張りを行わないまま進行し、その後同船との方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢となって接近していたが、このことに気付かなかった。 15時37分半C指定海難関係人は、海晃丸が同一方位0.5海里に接近したとき、初めて同船を視認したが、一見して自船の前方を替わると思い、その後同船に対する動静監視を十分に行うことなく進行し、このことをB受審人に報告しなかった。 15時38分半B受審人は、海晃丸が同一方位のまま0.3海里に接近したが、このことについての報告が得られずに警告信号を行うことなく進行し、同時40分少し前至近に迫っていたもののどうすることもできず、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。 船員室で休息していたB受審人は、衝突の衝撃を受けたあと昇橋して事後の措置に当たった。 衝突の結果、海晃丸は、左舷船首部に凹損を生じ、興富丸は、右舷前部外板に亀(き)裂を生じたが、のちいずれも修理され、また、B受審人及びC指定海難関係人ほか興富丸乗組員4人が、衝突時の衝撃で転倒し、頭部、背部及び顔面に打撲、挫傷及び捻挫などの傷を負った。
(原因) 本件衝突は、視界がやや制限され、沖合底引き網漁の同業船が多く操業する青森県三沢市東方沖において、漁場を移動中の海晃丸が、見張り不十分で、トロールにより漁労に従事している興富丸の進路を避けなかったことによって発生したが、興富丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。 興富丸の運航が適切でなかったのは、船長が、当直者に対して他船の動静を十分に監視して他船が接近するときは報告するよう指示しなかったことと、当直者が、海晃丸の動静を十分に監視しなかったこと及び同船の接近を船長に報告しなかったこととによるものである。
(受審人等の所為) A受審人は、視界がやや制限され、沖合底引き網漁の同業船が多く操業する青森県三沢市東方沖において、揚網を終えて漁場を移動する場合、トロールにより漁労に従事している興富丸を見落とさないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、投網準備のため、船橋で後方を向いて揚・投網機の操作に専念し、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、興富丸の存在に気付かないまま進行して衝突を招き、海晃丸の左舷船首部に凹損及び興富丸の右舷前部外板に亀裂を生じさせ、また、B受審人及びC指定海難関係人ほか興富丸乗組員4人に、衝突時の衝撃で転倒させ、頭部、背部及び顔面に打撲、挫傷及び捻挫などの傷を負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。 B受審人は、視界がやや制限され、沖合底引き網漁の同業船が多く操業する青森県三沢市東方沖において、トロールにより漁労に従事し、漁労長に操業中の船橋当直を行わせる場合、当直者に対して他船の動静を十分に監視して他船が接近するときは報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、当直者が当直部員(甲板)の要件を備え、漁労長としての経験が長かったことから改めて注意するまでもないと思い、当直者に対して他船の動静を十分に監視して他船が接近するときは報告するよう指示しなかった職務上の過失により、海晃丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることを知ることができず、警告信号を行うことができないまま進行して衝突を招き、前示のとおり両船に損傷、興富丸乗組員に負傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 C指定海難関係人が、視界がやや制限され、沖合底引き網漁の同業船が多く操業する青森県三沢市東方沖において、トロールにより漁労に従事して操業中の船橋当直を行い、海晃丸を認めた際、衝突のおそれがあることを判断できるよう、同船の動静を十分に監視しなかったこと及び船長に同船の接近を報告しなかったことは、本件発生の原因となる。 C指定海難関係人に対しては、その後同人が安全運航に努めていることに徴し、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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