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1998年(平成10年)

平成8年門審第77号
    件名
漁船第八尊徳丸プレジャーボート第2和丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年1月22日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

永松義人、酒井直樹、藤江哲三
    理事官
西村敏和

    受審人
A 職名:第八尊徳丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第2和丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
尊徳丸…右舷船首部に擦過傷
和丸…船尾左舷側に損傷、船長が入院加療を要する腹部打撲傷など

    原因
尊徳丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
和丸…見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第八尊徳丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の第2和丸を避けなかったことによって発生したが、第2和丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年8月17日10時50分
長崎県郷ノ浦港沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八尊徳丸 プレジャーボート第2和丸
総トン数 6.5トン 1.29トン
登録長 11.96メートル 5.78メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 7キロワット
漁船法馬力数 90
3 事実の経過
第八尊徳丸(以下「尊徳丸」という。)は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、夜の出漁に備えて漁獲物冷蔵用の砕氷と空の魚箱を積む目的で、平成7年8月17日09時30分長崎県初瀬漁港を発し、同時50分ごろ同県郷ノ浦港の小型船泊地の製氷所前に着岸して砕氷約700キログラムを積み、甲板上に発泡スチロール製の空の魚箱約60個を仮置きしたまま、船首0.40メートル船尾0.60メートルの喫水をもって、同日10時40分郷ノ浦港を発し、初瀬漁港に向け帰途に就いた。
A受審人は、小型船泊地を出て、10時41分ごろ郷ノ浦港鎌埼防波堤灯台(以下「鎌埼防波堤灯台」という。)から042度(真方位、以下同じ。)500メートルばかりの地点で停留し、甲板上に積んだ空の魚箱が風に飛ばされないよう魚倉に格納したのち、同時45分同地点を発進し、操舵室の舵輪後方に立ち手動操舵に当たって郷ノ浦港入り口に向け進行した。
ところで、尊徳丸の操舵室内舵輪後方の囲壁には折り畳み式のいすが取り付けられていたが、このいすに腰を掛けて操舵に当たると、船首方の船幅の範囲を見通すことができない状態であった。
10時46分半、A受審人は、鎌埼防波堤灯台から285度40メートルの地点で鎌埼防波堤灯台に並航したとき、針路を郷ノ浦沖合にある壱岐大曾根灯浮標の西側近くを航過するよう190度に定め、機関を半速力前進にかけて12ノットの対地速力で沖合に向け南下した。
定針したとき、A受審人は、正船首1,260メートルのところに漂泊中の第2和丸(以下「和丸」という。)を視認できる状況となった。しかしながら、同人は、前方を一瞥(べつ)したのみで、前路には航行の支障となる他船はいないものと思い、舵輪後方のいすに腰を掛け、船首方の船幅の範囲を見通すことができない状況のまま自動操舵として進行し、その後もいすから立ち上がって前路の見張りを十分に行わなかったので、和丸が存在することも、同船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近していることにも気付かず、針路を右に転じるなど衝突を避けるための措置をとらないで続航中、突然衝撃を受け、10時50分鎌埼防波堤灯台から192度1,260メートルの地点において、原針路、原速力のままの尊徳丸の右舷船首部が、和丸の船尾左舷に後方から27度の角度をもって衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視界は良好であった。
また、和丸は、船外機を備えたFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、船首0.20メートル船尾0.30メートルの喫水をもって、同日10時30分長崎県壱岐郡郷ノ浦町坪触の柏船だまりを発し、同船だまりの西方約1,000メートルの郷ノ浦港沖合の釣り場に向かい、同時35分ごろ前示衝突地点付近に至って機関を停止し、直径約2メートルのパラシュート型シーアンカーを船首から投入してこれに掛かり、折からの南南西風により船首を217度に向けて漂泊し、船首方を向いて船尾右舷側に座り魚釣りを始めた。
10時46分半、B受審人は、右舷船尾27度1,260メートルのところに、自船に向首接近して来る尊徳丸を視認できる状況にあった。しかしながら、同人は、自船はシーアンカーに掛かって漂泊しているので、付近を通行する船舶があっても通航船の方で避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかったので、衝突のおそれがある態勢で接近する尊徳丸に気付かず、同船に避航を促すべく有効な音響による注意喚起信号を行わず、尊徳丸が更に接近しても機関を始動して前進にかけるなど同船との衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊中、後方から機関音が聞こえたので振り向いたとき初めて尊徳丸を認めたが、何をする間もなく、船首が217度を向いたまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、尊徳丸は右舷船首部に擦過傷を生じたのみであったが、和丸は船尾左舷側に損傷を生じ、のち修理され、B受審人が入院加療を要する腹部打撲傷などを負った。

(原因)
本件衝突は、長崎県郷ノ浦港沖合を南下中の尊徳丸が、見張り不十分で、前路でシーアンカーを投入して漂泊中の和丸を避けなかったことによって発生したが、和丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、機関を前進にかけるなど衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、長崎県郷ノ浦港から沖合に向け南下する場合、前路で漂泊中の他船を見落とすことのないよう、船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方を一瞥したのみで前路には航行の支障となる他船はいないものと思い、船首方を見通すことのできないいすに腰を掛けたまま、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で和丸に接近していることに気付かず、右転するなどして衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、尊徳丸の右舷船首部に擦過傷及び和丸の船尾左舷側に損傷を生じさせ、和丸の乗組員に入院加療を要する腹部打撲傷などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、長崎県郷ノ浦港沖合において、船首からシーアンカーを投入してこれに掛かり、漂泊して魚釣りを行う場合、衝突のおそれがある態勢で接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船は漂泊しているので通航船の方で避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、尊徳丸の接近に気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、機関を始動し前進にかけるなど衝突を避けるための措置もとらないまま漂泊して衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、自身も負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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